先月20日、ニューヨーク国際写真センター(ICP)が「第34回インフィニティ賞」の受賞者を発表した。
この賞は1985年に始まり、毎年報道、芸術、ファッションなど多岐に渡る分野で主要な業績を残した、また最も勢いのある写真家たちに贈られてきた。ICPの執行役員マーク・ルーベルは「受賞者たちは単に世界を報道してきたのではなく、世界に変化を与えてきた」と語る。その言葉の通り過去の受賞者には、リチャード・アヴェドン、アンリ・カルティエ=ブレッソン、ウィリアム・クライン、ライアン・マッギンレー、アイ・ウェイウェイ、そして森山大道など、写真史に決定的な影響を与えてきた大物作家が多々含まれる。
今年このインフィニティ賞生涯功績部門を受賞したのはアメリカのブルース・デビッドソン。彼は生涯に渡り社会的不平等についてのドキュメンテーションを行ってきた。ロチェスター工科大学とイェール大学を卒業後、パリ近郊へ徴兵された際にアンリ・カルティエ=ブレッソンと出会ったデビッドソンは、兵役を終えるとフリーランスフォトグラファーとしてLife Magazineで勤め、1958年にはマグナムフォトの会員となった。60年代にはアメリカ公民権運動の記録にその身を捧げた。50年間にわたって撮影されてきた写真の数々はMoMA、ICP、スミソニアン・アメリカ美術館を含む、世界中の主要な美術館のコレクションに収蔵されている。今年で85歳を迎えるが、いまもなおニューヨークで撮影を続けている。
インフィニティ賞生涯功績部門を受賞したブルース・デビッドソン。photo by his wife Emily
美術部門を受賞したのはカメルーン出身のサミュエル・フォッソ。ビアラフ戦争で迫害を受けバンギで難民となった彼は、そこで若干13歳にして自身の写真スタジオを設立する。フォッソが当時白黒写真でとらえたのは現地のミュージシャン、若者のファッション、そして政治運動。これらはセクシュアリティー、ジェンダー、そしてアフリカ人としてのアイデンティティーの探求の先駆けであったと言える。2008年に発表したシリーズ「African Spirits」にはネルソン・マンデラ、マーティン・ルーサー・キング、モハメド・アリなど、アメリカの公民権運動やアフリカの独立運動における重要人物たちの写真も含まれている。また最新シリーズの「Black Pope」は、近代視覚文化におけるカトリックの容赦ない白人主義に疑問を投げかけている。
美術部門を受賞したサミュエル・フォッソ。photo by Jorge Herrera
アートブック部門に選ばれたのはニューデリー出身のダヤニータ・シンの『Museum Bhavan』。ICPでドキュメンタリー写真を学んだ彼女は、1986年に出版した『Zakir Hussain』以降、『House of Love』(2011年)、『File Room』(2013年)、『Museum of Chance』(2014年)など、これまでに12冊もの写真集を発表してきた。シンは本を主な形態としてきた写真家だが、 フランクフルト、ロンドン、マドリッド、シカゴ、などヨーロッパ各国とアメリカでも個展を開催している。
アートブック部門に選ばれたダヤニータ・シン。
Dayanita Singh『Museum Bhavan』
そして2018年新人賞に選ばれたのはニューヨーク、ブルックリンを拠点に活動するナタリー・キーズザー。プラット・インスティチュートで絵画とイラストレーションを学んだ彼女だが、主にアメリカと中南米地方における社会的混乱や暴力、ユースカルチャー、そして社会的不平等に関心を持ち、ICPで写真を学んだ後『New York Times Magazine』や『Time』誌に貢献してきた。ほかにもアメリカと中南米地方で数々の写真ワークショップを精力的に行い、昨年にはPhilip Jones Griffith Award も受賞している。
新人賞に選ばれたナタリー・キーズザー。photo by CHRIS GREGORY
そのほかにも、ユルゲン・テラー、アレクサンドラ・ベル、モーリス・バーガー、アンバー・ブラッケン、Women Photograph(女性ドキュメンタリー写真家団体) 、トムソン・ロイター(情報サービス企業)が受賞した。
タイトル | 「第34回インフィニティ賞」 |
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