東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
コラージュの可能性
シカゴを拠点とする写真家のローラ・レティンスキーによる本作は、雑誌の切り抜きや彼女の旧作、友人の作品、そしてテーブルナプキンなどの実物といったものを素材にして、例えば飲みかけのワイングラスやケーキをかじったひとかけのような、ダイニングテーブルに残された気配を描写します。明度の高い色調がそうさせるのでしょうか。見たところ、現実とはかけ離れた、どこか地に足のついていない浮遊感に近いものを覚えます。けれど、よくよく作品のディテールに目を凝らしてみると、まるで目に止まったものを寄せ集めては貼り合わせたかのかと思わせる無邪気な一面がひそんでいることにも気付きます。この絶妙なさじ加減、落としどころの妙こそが、作家の感性を物語るのです。
タイトル | ローラ・レティンスキー『Ill Form & Void Full』 |
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出版社 | Radius Books |
価格 | 7,200円+tax |
発行年 | 2014年 |
仕様 | ハードカバー |
URL | https://radiusbooks.org/books/laura-letinsky-ill-form-void-full/ |
事実と虚構とを巧みに織り交ぜたリアリティのある演出による手の込んだ作品世界を繰り広げることにおいて、アメリカ出身の写真家、クリスチャン・パターソンの右に出る者はいないでしょう。自身の生まれ故郷の地名「Fond du Lac」の英語表記をタイトルにした本作は、かつて家族が使っていたこの街の電話帳をベースにしています。書き込みや挟み込まれた紙切れが当時のままになった中面のところどころに、作家自身によるドローイングや写真作品がちりばめられます。現実と架空、そして過去と現在とが交錯するパラレルワールドが立ちあらわれるのです。ちなみに中に記載された電話番号をダイヤルすると、古い音声記録や故郷で採録した野外の音源などが聞けるのだそう(日本では繋がらないようです)。
タイトル | クリスチャン・パターソン『Bottom of the Lake』 |
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出版社 | Koenig Books |
価格 | 7,500円+tax |
発行年 | 2015年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
スイス出身のアーティスト、バティア・スーターによる本作は、放射状の形状や概念を中心としたイメージやビデオ作品をもとにしたフォルムによって構成されます。グレーと黒という2層の異なるインクを使用して印刷することで、二重に重なった像やパターンの複製がレイヤー状になってあらわれます。コラージュというと別個のイメージを貼り合わせて新しいビジュアルをつくるといった手作業的な印象が強いですが、印刷の工夫によっては、こうした表現をも可能にするのです。主に彼女のコレクションする自然学、精密機器、美術史といった分野にわたる大判の古書をスキャンし、それを素材として作家自らが自由自在に操る。まるで紙面上で展覧会が繰り広げられているかのような本書は、百科事典をめくるときの高揚感を呼び起こしてくれます。
タイトル | バティア・スーター『Radial Grammar』 |
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出版社 | Roma Publications |
価格 | 6,300円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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