東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
あらゆる意思疎通の可能性をみせてくれる写真集
アーティストユニットのアダム・ブルーバーグ&オリバー・チャナリンは、代表作の「Holy Bible」に見られるように、フォトジャーナリズムとヴィジュアルアートを融合した挑発的な表現で知られていますが、実は子ども向けのフォトブックを制作したこともありました。ロンドンにある聴覚障害のある子どもたちのための特別養護学校の生徒やスタッフとの協働が、写真やビジュアルイメージといった視覚表現とテキストとを織り交ぜた、イギリス手話によるABCのフォトブックとなりました。歴史や時事問題に対して核心を突く持ち前の鋭さは、機知と遊び心へと変換され、ユーモア溢れる視覚伝達へとつながったのです。ドイツ語版である本書を制作するにあたり、ブックデザインを一新し、ドイツ手話へと適応されています。
タイトル | アダム・ブルーバーグ&オリバー・チャナリン『menschen und andere tiere』 |
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出版社 | KEHRER |
価格 | 2,800円+tax |
発行年 | 2016年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
愛情表現の方法は実に多様ですが、そのひとつのかたちとして、ヘイス・アスマンの手がけたコラージュシリーズの集大成は目を見張るものがあります。アムステルダムを拠点とするアーティストである彼は、自身の恋人であるHに宛てて、日々コラージュ作品を郵送していました。それを芸術作品としてみるとき、いち表現者の類稀なる才能の顕れとしてすっかり感じ入ることでしょう。一方で、ごく個人的な内なる想いの表出という捉え方をするとしたら、まるで私小説を垣間見たような気持ちにもなります。普遍的でありながらも、永続する保証もありません。「なまもの」でもある愛が、少なくとも各々の作品を制作した時点では確かに存在していたということの証になるのではないでしょうか。
タイトル | ヘイス・アスマン『For H』 |
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出版社 | Art Paper Editions |
価格 | 7,200円+tax |
発行年 | 2019年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
ロンドンを拠点とするアーティストの副島美樹は、写真というメディアと編集行為を通じて、私たちが生きている「物語」について想像をめぐらせます。本作の事の始まりは、ひょんなことから自身の祖父が遺した何冊ものアルバムを手にしたことでした。第二次世界大戦下には満州に渡っていたという彼の暮らしぶりは「過去」に起こった出来事。それを副島は自身が生きる「いま」という時点から見つめることで、同時に「未来」から誰かの視線を意識します。いまやこの世を去ってしまった先人とはもはや直接会うことはないけれども、彼らの存在なくして自らがここに在るということはありえない。誰もが、命のたすきをつなぐ一端を担っています。普段は取り立てて思い返すこともないけれど、普遍的な事実をそうっと教えてくれる一作です。
タイトル | 副島美樹『The Passengerʼs Present』 |
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出版社 | Fw: Books |
価格 | 5,800円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL | https://fw-books.nl/product/miki-soejima-the-passengers-present/ |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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