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ニューヨークの若手写真家ファイル
#03 タイラー・ミッチェル

© Owen Smith-Clark, 2015.

© Owen Smith-Clark, 2015.

写真専門書店Dashwood Booksに勤め、出版レーベルSession Pressを主宰する須々田美和が、いま注目すべきニューヨークの新進作家たちの魅力をひもとく連載。世界中から集められた写真集やZINEが一堂に揃う同店では、定期的にサイン会などのイベントが開かれ、アート界のみならず、ファッション、音楽などクリエイティブ業界の人たちで賑わいをみせている。ニューヨークの写真シーンの最前線を知る須々田が、SNSでは伝わりきれない新世代の声をお届けする。

インタヴュー・文=Miwa Susuda

今回は、いまアメリカのコマーシャル業界で、ひときわ活躍が目覚ましい若干23歳の写真家タイラー・ミッチェルを紹介したい。昨年9月、世界的大スターであるビヨンセを撮り下ろし、創刊126年の歴史の中で『Vogue』誌上最年少で表紙を飾った黒人写真家として大きな話題を呼んだ。また、パーソナルワークも積極的に行っており、現在オランダのFoam写真美術館では個展も開催中。デジタル世代のアフリカ系アメリカ人として、どのような意識をもちながら制作しているのか尋ねてみた。

―写真との出会いについて教えてください。

アタランタ郊外にあるマリエッタという小さな田舎町に生まれ、地元の仲間たちとスケボーばかりしていました。友人がスケボーしている姿を映像に収めたくて、14歳のときにお金を貯めてキヤノンのデジタル一眼レフカメラを買ったんです。撮影や編集方法は、すべてYou Tubeなどを見ながら独学で習得しました。もっと本格的に映像や写真について学び、それらに関わる仕事に就きたいと思い立ち、ニューヨーク大学に進学して映像を専攻しました。それ以降、約5年間ニューヨークに滞在しています。

Untitled (Pink & Green), 2015, © Tyler Mitchell

Untitled (Angel and friends), 2017, © Tyler Mitchell

All American Family Portrait, 2018, © Tyler Mitchell


―大学時代に苦労した点とは?

優しい両親と姉に守られながら育ったので、競争の激しい大都会の生活に慣れるのには苦労しました。クラスメイトの大半は、親がハリウッドで働いていたり、既に映像関係の施設へのつながりがあったりして、何のコネもない自分と彼らを比較してしまい、作家として成功するのは不可能なのではないかと思うこともありました。でも、強い決意を持って居心地の良い環境を離れ、挑戦する道を選んだので、夢と現実の違いに押しつぶされそうになりながらも、「ここで認められなかったら人生の終わり!」と自分を奮わせ、必死に勉強しました。

―SNSを使ったプロモーションに力を入れる一方、自費出版で写真集を作るなどアナログなアウトプットも行っていますね。

僕らは何でもインターネットで調べる世代なので、SNSを通して社会とつながる重要性は、自然と身についています。実際、僕がまだ大学生のときにインスタグラムにアップした作品を見た、雑誌の編集者やファッションブランドのPR担当者から仕事を得たこともあります。マーク・ジェイコブスの2017年秋冬キャンペーンを撮影したのも、インスタグラムがきっかけでした。

SNSからの恩恵も受けてきた一方で、そこでの反応に一喜一憂し過ぎてしまった時期もあります。現実と虚像の境界線が曖昧になり、フラストレーションが頂点に達したので、大学2年の夏休みに作家としての方向性を見つめ直すためにキューバに出かけました。オンラインから距離を置き、リアルなものを感じたかったんです。30本のフィルムを持って、6週間にわたりキューバにひとりで滞在し、現地のスケートカルチャーと建築を撮影しました。そのときの作品は、オンラインではなく、手で触れることができる紙で発表したいと思い写真集『El Paquete』を自費出版しました。

Untitled (Topanga, CA I), 2017, © Tyler Mitchell

Untitled (Kiki & Stephan on sofa), 2018, © Tyler Mitchell


―『Vogue』や『i-D』など雑誌のエディトリアル、プラダやジパンシー、ナイキなど大企業のキャンペーンなどコマーシャルの撮影も多いですが、パーソナルワークとの違いとは?

スケボーを通して、コミュニティを大事にしながら活動をしてきました。なので、チームで協力しながらひとつの作品を作り上げるコマーシャルの仕事は得意なんですよ。楽しく取り組んでいます。パーソナルワークでも、依頼仕事でも、モデルと親密なコミュニケーションを取り、彼らの個性を理解するように心がけています。

―#MeTooムーブメントなどの影響から、大手ファッションブランドが大御所の写真家の起用を控え、業界の構造が変わってきています。ファッションの仕事をしていて、クライアントの要求など、業界が求めるものは変わってきていると思いますか?

ファッション業界での新旧交代は、ここ数年でさらに進んでいると思います。仕事をしていて感じるのは、クライアントは、これまでのブランドイメージを刷新するような、より個性的なヴィジョンを写真家から望んでいるようです。例えば、アメリカ版『Vogue』編集長のアナ・ウィンターは、彼女自身やブランドのイメージを押し付けたりしません。僕がどういうふうに撮りたいかをヒアリングしてくれ、作家のヴィジョンを引き出す誌面作りをしてくれます。これからの若い世代は、クライアントに言われた通りに綺麗な写真を撮ることではなく、独自のヴィジョンを打ち出せるかが大事になっています。

―独自性のあるイメージを発表しても、SNSで拡散することで他人に真似されるケースもあるのでは?

それはソーシャルメデアがない時代でも起こったことですし、問題ではないと思います。オリジナリティまで真似されてしまうのでしたら、それは最初から作品として弱いものだったのでしょう。写真を撮るのは簡単で、インスタグラムに誰でもポストできます。でも自分だけのヴィジョンを持つことは、とても難しい。僕は、それを一生かけて追い求めていくと思います。

Untitled (Twins), 2016, © Tyler Mitchell

Untitled (Twins), 2016, © Tyler Mitchell


―アメリカでは最近、ジェンダーや人種をテーマにした社会的な作品が美術館やギャラリーで盛んに紹介されています。そのような動向の中で、アフリカ系アメリカ人として、どのような姿勢で写真を撮られていますか?

自分の作品は政治的だととらえていますが、これまでのアフリカ系アメリカ人の作家によるアプローチとは違うやり方で、自分のルーツを表現したいと思っています。美術史の中で、黒人の身体やその存在は、「奴隷」や「迫害された弱い存在」といったネガティヴな記号のように扱われていました。辛い歴史を消し去ることはできませんが、これまでと同じように表現しても、自分の届けたいメッセージは伝わりません。いまの時代に寄り添った、新しい表現方法を提示すべきだと思うのです。

僕は、黒人の身体をより美しく見せるためにパステルカラーを用いたり、男性モデルから女性的な柔らかい側面を引き出すようにしたりします。男性も女性性を持っているし、その逆も然りです。そのミステリアスな部分を残しながら撮影するように心がけています。ジェンダーや人種問題をテーマにした作品の中には、観る者に一方的な見方を強いるものもあります。しかし僕は、観る人が自由に想像する余白を持たせたい。そのことを意識しながら、構図や色を決めています。

Untitled (Two Girls Embrace), 2018, © Tyler Mitchell

Untitled (Two Girls Embrace), 2018, © Tyler Mitchell


―今後の予定は?

現在、Foam写真美術館で開催中の個展「I can make you feel good」では、コマーシャル、パーソナルワークの両方を展示しています。もし機会があれば、ぜひ観て欲しいです。今後は、写真集を作る予定があります。社会全体が暗く、不安に苛まれていると感じることがあるので、ユートピアのようなものを表現できたらと思います。僕の写真を通じて、少しでも多くの人たちに希望を持ってもらいたいと願っています。

タイラー・ミッチェル|Tyler Mitchell
ジョージア州アトランタ生まれ。2017年5月にニューヨーク大学のFilm & Television学部にて学士号を取得。『Foam Magazine #53』のファッション特集では、ロンドンのサーペンタン・ギャラリーのディレクターである、ハンス・ウルリッヒ・オブリストによるインタヴューが掲載された。これまでにAperture Foundation、Red Hook Labs、Artsyでのグループ展に参加したほか、6月5日までオランダのFoam 写真美術館で初の個展「I can make you feel good」を開催している。

須々田美和|Miwa Susuda
1995年より渡米。ニューヨーク州立大学博物館学修士課程修了。ジャパン・ソサエティー、アジア・ソサエティー、ブルックリン・ミュージアム、クリスティーズにて研修員として勤務。2006年よりDashwood Booksのマネジャー、Session Pressのディレクターを務める。Visual Study Workshopなどで日本の現代写真について講演を行うほか、国内外のさまざまな写真専門雑誌や書籍に寄稿する。2013年からMack First Book Awardの選考委員を務める。2018年より、オーストラリア、メルボルンのPhotography Studies Collegeのアドバイザーに就任。
https://www.dashwoodbooks.com
http://www.sessionpress.com