New Vision of Body in Fashion Photography

ショナー・マーシャル インタヴュー
いま最も“ファッショナブル”な身体表現から広がる対話

Marfa Journal

PASCAL GAMBARTE ÅgBeing Michael RothsteinÅh, Marfa Journal, No. 7, March 2017
Editor: Alexandra Gordienko Stylist: Tamara Rothstein Hair stylist: Kota Suizu Make-up artist: Celia Burton Models: Lily McMenamy & Coco Rothstein

次世代の写真家たちを中心とした、画一化された美意識に挑戦する「Posturing」というムーブメント。ファッションをベースとするインディペンデントキュレーター、ライターのショナー・マーシャルは、ファッションエディターとして活躍するホリー・ヘイとともに、近年のファッション業界で、同時多発的に起こっている身体の使い方の革命にいち早く目をつけ、そのムーブメントを言語化した人物である。「Posturing(姿勢・態度・行動)」と名付けられた新潮流が生まれた背景、そして新たに与えられた身体の役割について話を聞いてみた。

構成・文=IMA(IMA vol.26 Winterより転載)

―まずは、あなたのバックグラウンドを教えてください。

フリーになる前は、ロンドンのサマセット・ハウスで5年間キュレーターとして働いていました。当時、モード界の重鎮であるヘアスタイリスト、サム・マックナイトの展覧会を企画したのですが、彼のアーカイブには、ブルース・ウェーバー、パトリック・デマルシェリエ、ニック・ナイト……すべての有名ファッションフォトグラファーの作品がありました。モデルたちは、カメラ目線で、グラマラスに身体を動かし、セクシーに口を開けてポーズをとるようなゴージャスな世界です。

―それとはまったく異なるベクトルを持つ、「Posturing」の定義を教えてください。

「Posturing」は、次世代の写真家、スタリスト、セットデザイナー、モデル、ヘアメイク、編集者など、ファッション写真に携わる人たちによるムーブメント。彼らは、身体を使って画一化された美の基準に挑戦し、「美的な奇妙さ(Aesthetic Oddness)」という新たな価値観を生み出し、ファッション写真における観点を多様化させています。

―どのようにして、身体表現の変化が起こっていることに気づいたのでしょう?

普段からインスタグラムでファッション写真を見ているのですが、あるときふと、これは新たなムーブメントだと気付いたんです。それらは、それまでのファッション写真で見るポーズや身体の動きとはまったく異なるもので、いわゆる「理想的」とされるカラダではなく、ジェンダーも人種もバラバラでした。その事例となる写真の多くが、ファッションエディターのホリー・ヘイが関わったものだと気づき、早速彼女に連絡を取りました。現在『Wallpaper』に在籍するホリーは、前職の雑誌『AnOther』で、積極的に若い写真家たちに発表のチャンスを与えていたんです。

JOHNNY DUFORT AnOther, Autumn/Winter 2017 Stylist: Agata Belcen Hair stylist: Cyndia Harvey Make-up artist: Mathias van Hooff Casting director: Noah Shelley Set designer: David White Model: Veronika Vilim

JOYCE NG “Lilla and Toph”, Hearts, September 2017 Stylist: Makram Bitar Hair stylist: Yuji Okuda Make-up artist: Anne Sophie Costa Models: Lilla & Toph


―まさにムーブメントのインサイダーですね。

新潮流の内側にいる人物であるホリーの存在は、とても重要でした。彼女も私の考えにすぐに共感してくれて、何度か話し合いを重ね、2017年の夏に二人で「Posturing」を探求するプロジェクトを立ち上げました。ムーブメントのプレイヤーたちは、自分自身を分析することはしません。ですから、それを言語化するのが、私たちの仕事だと思いました。もうひとりの立役者が、『Posturing』を出版してくれたSelf Publish, Be Happyを主宰するブルーノ・ケシェルです。彼が、何度も何度も後押ししてくれたおかげで、自分の頭の中で考えていることが何なのかを整理し、ステートメントを出す勇気を持つことができたんです。

―分析のプロセスを教えてください。

まず、ホリーが、過去7年分のファッション雑誌を見返し、「Posturing」に属すると思われる約150枚のイメージを集めてくれました。それからその制作に関わったすべての人たちから話を聞き、私がその分析結果をキュレーションしたんです。このプロジェクトは、最終的に展覧会と書籍というかたちで発表しています。前者では「スタイリング」「キャスティング」「ヘアメイク」「セットデザイン」「ロケーション」「レイアウト」という6つのテーマに分けて作品を展示することで制作プロセスに焦点を当て、「Posturing」がコラボレーションによる成果物であることを明確にしました。後者では、21組のファッション写真家の作品とともに、10組の写真家、セットデザイナー、スタイリスト、編集者のインタビューを収録しました。本当は、モデルやヘアメイクのインタビューも入れたかったのですが、時間が足りず……。

Marfa Journal

MARK PECKMEZIAN “Primary Colour-In Staged Calotype”, AnOther, Autumn/Winter 2015 Stylist: Mattias Karlsson Hair stylist: Vi Sapyyapy Make-up artist: Kirstin Piggott Set designer: Georgina Pragnell Model: Karolin Wolter


―書籍の中で「Posturing」というムーブメントの先駆けとして、グルジア(旧ソビエト連邦)出身のデザイナー、デムナ・ヴァザリアとロシア人スタイリストのロッタ・ヴォルコヴァの、ヴェトモンとバレンシアガでのコラボレーションを挙げていました。これまでファッションの中心ではなかった地域から生まれた美意識が主流になってきている傾向について、どう思いますか?

私の見解では、「Posturing」の特徴である「美的な奇妙さ」は、ロシアの美的センスに近いと思います。デムナは、共産主義の社会で育ち、欧米ブランドの洋服をなかなか手に入れることができなかったので、いつも大きいサイズを買い、それを長く着ていたといいます。お気に入りのアディダスのトラックスーツは大事にし過ぎて袖を通せず、気づいたら自分の身体が成長して、結局着られなかったというエピソードもある。だから、オーバーサイズの服をデザインするのでしょう。その頃のノスタルジア、彼の育ってきた環境、「何もない」というアイデアが反映されている彼の表現を、とても現代的だと感じます。身体を覆う洋服自体に、リアリティとストーリーがあります。

また、ファッションは、社会で起こっていることをいち早くピックアップするのが得意です。大きなステートメントになってしまいますが、欧米諸国は、徐々に経済的なパワーを失い、これまでのように世界をリードする存在ではなくなっていくと考えています。ロシアやアジアが力を持ち始め、社会全体で大きな変動が起こっていますよね。「Posturing」は、そういった背景の影響もあり、誕生したのではないでしょうか。

―ファッション写真から文化的文脈を読み解いていくと、新たな対話が生まれますね。

「Posturing」というムーブメントは、人種、年齢、性別、政治、そして経済に対する新しい見方を提案しています。ファッションだけでなく、社会がどこに向かっているのかを考えさせてくれる。ファッションには、多くの人々の間に対話を広める力があります。私自身も、「Posturing」から何かの答えを提示したいのではなく、ファッションの力を借りてさまざまな対話を巻き起こしたいのです。私の興味関心は、ファッションと社会の関係性、ファッションが「ファッショナブル」になっていく過程にあります。

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CHARLIE ENGMAN “A Nod and a Glance A Gesture for One Word”, AnOther, Autumn/Winter 2015 Stylist: Agata Belcen Hair stylist: Christian Eberhard Make-up artist: Hiromi Ueda Casting director: Noah Shelley Models: Ally Ertel, Marland Backus & Taiki Takahashi


―最近、『AnOther』のオンライン記事で、1930年代のファッションにおけるシュルレアリスムについて書かれていましたね。「Posturing」もシュールなイメージが多く、通じるものを感じました。

1930年代のロンドンといまを比較する記事を書いたんです。1929年に世界大恐慌が起こり、1939年には第二次世界大戦がスタートしました。当時の人々も、現代人と同様に「いつ何が起きてもおかしくない」という不安を抱えていたため、どちらも同じような時代を反映している点で、「Posturing」とリンクすると考えました。

―時代背景が異なる20年前の人たちが、「Posturing」のイメージを見たら仰天するでしょうね。

100%そうですね(笑)。クールだとは思わないでしょう。

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MARTON PERLAKI “Stage Experiments”, Muse, Autumn/Winter 2016 Stylists: Ali + Aniko Hair stylist: Adam Szabó Make-up artist: Tímea Vozák Casting director: Beth Dubin Model: Nataša Vojnović & dancer


―「Posturing」の写真家たちは、アートとファッションの領域を行き来しているように見えます。

「Posturing」に収録したイメージは、すべて雑誌から依頼されたエディトリアルワークです。私は、これらはアートではなくファッション写真だと、はっきり線引きしています。私の仕事の仕方も、現代美術のキュレーターとは違うと思いますし、ファッション写真家のアプローチは、ひとつの作品に何年もの時間をかけることもあるファインアートの写真家とは異なります。「Posturing」の系譜をたどれば、ヴィヴィアン・サッセンやマーク・ボスウィックにもつながると考えていますが、彼らは個としての強い作家性を持っていて、積極的に「ファッション写真家」とは名乗らないでしょう。一方、「Posturing」に属する写真家たちは、おそらく自身のことを「ファッション写真家」と明言すると思います。それぞれに個性がありつつも、彼らには共通項がある。だからムーブメントなんです。

―なるほど。でも、「Posturing」というムーブメントの舞台になっている『AnOther』『Dazed』『Marfa Journal』のような雑誌は、商品のプロモーションに重点を置いたカタログ的なファッション誌とは違って、もっと表現の自由がありますよね?

私もそう思います。私たちの頭の中には、「雑誌のファッションストーリーは、エディトリアルの概念で作った広告であり、商品を売るために作られている」というファッション写真の役割に対する思い込みがあります。でも、「Posturing」に関わる人々は、その固定概念を覆すことに、楽しみながら挑戦している。例えば、チャーリー・エングマンは、雑誌のタイアップページでも自分のプロジェクトのように取り組むんです。「その子、服着てないけど……」ということもある(笑)。でも、シリアスすぎないところは、ファッションの良さでもあります。それは、私の考えるユーモアやキュレーションにも通底すること。「Posturing」が、アートになり得るかということは、私にはわかりません。彼らは、現場でのひらめきを取り入れ「とりあえずやってみて、どうなるか見てみよう」という、遊び心のあるスタンスなんです。

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RETO SCHMID “La vie en rose”, Out Of Order, Autumn/Winter 2017 Stylist: Sabina Schreder Casting director: Dourane Fall Models: Dachi Cole & Serena Freira

―では、服を良く見せるためだけではないファッションイメージにおける、身体の役割とは?

身体は、イメージにおける重要な要素のひとつです。例えば、1960年代のマリー・クワントは、彼女自身が着てほしいと思うモデルを選び、服を「こう見せたい」というかたちで、ポーズをとらせていました。「Posturing」においては、身体と身体、身体と洋服の相互作用を通し、イメージが描く物語の一部として機能していると思います。洋服と同じように、「ファッショナブル」とされるポーズやジェスチャーは、大きな変化を遂げました。この問いに対する答えは一筋縄ではなく、いま身体は、ファッション性を探す旅の途中にあるといえるでしょう。

ショナー・マーシャル|Shonagh Marshall
イギリス出身のキュレーター、ライター。現在は、ニューヨークを拠点に活動する。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの、ファッションキュレーション学部修士過程修了。これまで手がけた展覧会に「Isabelle Blow: Fashion Galore!」「Utopian Voices, Here and Now」「Posturing」など。2019年1月24日〜4月28日にサマセット・ハウスで開催されるハンナ・ムーンとジョイス・ウングの二人展「English as a Second Language」のキュレーションも担当している。