How They Are Made

vol.4 ネルホル(IMA 2016 Summer Vol.16より転載)

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ネルホル「多様なメディアが交差する、新たな視覚表現」 | How They Are Made Vol.4

何かの記事で彼らの作品を見た後、実物に対峙して驚いた人は少なくないだろう。グラフィックデザイナーの田中義久と彫刻家の飯田竜太によるアーティストデュオ、Nerholは、数百枚におよぶ写真を重ねて束にし、上から一枚ずつ彫ることで、等高線のように立体的な層を見せていく。立体や写真というメディアの違いも、デザインやアートというジャンルの差異も、巧みに表現に取り入れていく彼らに、新作「multiple – roadside tree」と制作プロセスについて訊いた。

岡澤浩太郎=文
加藤純平=写真

多様なメディアが交差する、新たな視覚表現

Nerhol


―今年で、Nerhol結成10年目ですよね。

田中:初めて飯田と話したときに、デザイナーと作家で立場は違うけれど、誰かの役に立つことが通底した考えであることを共有していたので、結成に至りました。初期に、文字の集合体としての本を彫り、新たなタイプフェイスを作った「Oratorical Type」という作品を完成させ、ある種の満足感を得たんですが、展示を見たいろいろな人から否定的な態度をとられたんです。つまり、デザイン側からすればアートに見えるし、アート側から見ればデザインに見える、と。このままでは何の解決にもならないと思い、続けるしかなくなったんです。

―金沢21世紀美術館で「Promenade/プロムナード」展が開催されています。同じような手法で作られた前作にポートレイトシリーズがありますが、新作「multiple – roadside tree」では、なぜ街路樹を被写体に選んだのでしょうか?

飯田:ポートレイトシリーズでは、被写体に動かないよう指示して3分間に200枚撮影しました。その後、連続写真をプリントし、束ねて掘る作業をしているので、同じ状況下で撮影しているにもかかわらず、被写体によって表情の動きはまったく異なることがよくわかりました。このシリーズを通して、「同じような人種」や「似ている人」を撮ったとしても、それぞれの人たちには固有の要素があることに気づき、有機物に興味を持つようになったんです。

田中:火や水のような有機物は永遠に循環すると認識されていますが、実際はそうではなく、いつかはなくなるもの。街路樹もそうです。また「街路樹」という言葉から、すべて同じであるようなイメージを持ちますし、一見同じようにも見えますが、それぞれ木の種類も育った場所も異なる。つまり、同じ=複製物ではなく、一点しかない=ユニークな存在なんです。そうやってなんとなく見逃してしまっている差異のなかに、ものすごく有意義なものがあるような気がして、その部分を可視化していく作業が必要だと思ったんです。それで街路樹を執拗に輪切りにして撮影しました。

アーカイブ中のシリーズ作品「01」。ある日付を画像検索し、検索結果の約180点を出力して重ね、彫ったもの。「0」と「1」のペアでこれまで約100点を制作。

アトリエの一角。手前はボンドなどを収納した移動式ラック。左奥にあるのは、出力紙を切る時に上に乗せる台の脚。1点で160キロにもなる今回の大作のために自作した。紙を切るための定規やカッターマットは特注したという。

ホワイトキューブのようなアトリエの壁には「Portrait」シリーズが。

この数ミリ~数センチ程度の小さな破片はP157で飯田が貼り合わせていたもの。制作大詰めの作業。


―具体的な制作プロセスを教えてください。

田中:この街路樹は1メートルくらいのクスノキで、伐採業者から買ったものです。それを製材所に持っていき、5ミリ幅に輪切りにしてもらいました。撮影のために、ばらばらの状態になっているものをきれいに重ね合わせて、木のかたちに戻しました。

飯田:それから撮影スタジオに運んで、ひとつずつ撮っていったんです。全部で120カットくらい。それをまずA3サイズに出力して、ダミーをつくって検証しました。

田中:本番の出力は印刷機を使ってアトリエで行いました。展示空間を踏まえて拡大出力したんです。

飯田:板の上に出力紙を平らに積み上げ、カッターで彫っています。その後、紙を固定するために、ビスやボンドを使って貼り合わせていき、最終的には、2.4×3.0メートルの巨大な作品になります。

田中:今回、金沢21世紀美術館で展示するのは4点。一本の街路樹が、撮影されることで写真素材に複製され、カットのラインを変えながら飯田に彫られることで4点のユニーク作品に変わり、さらに展覧会カタログでは作品が複写されてまた複製に変わる。こうしていろいろなアウトプットを見せることで、自分たちのコンセプトを伝えたいと思っています。

A3サイズで制作した試作の数々。被写体となった街路樹は6本購入して撮影したが、試作を重ねて最終的に1本に絞った。

「Portrait」シリーズを本の体裁で作品化した「ATLAS」が棚にびっしりと並ぶ。

「01」の画像を整理する田中。

半年前から借りているこのアトリエの近くに住み始め、制作のスピードも加速したという。


―さまざまなメディアを使い分けているお二人にとって、写真とはどのような媒体でしょうか?

田中:基本的に写真は自分たちでは撮りませんし、撮影を依頼する写真家も固定していません。写真は、あくまでも素材として考えたいんです。

飯田:写真を使うことで、展示では見え方がフラットになりますよね。さらにユニークピースである立体作品に比べて、拡散性は増します。彫刻がもつ情報量に近い写真が広まることで、立体の価値もどんどん変わっていくだろうし、立体に対峙した感覚と写真を見た感覚の違いは、どちらに対しても重要だと思います。僕らの作品はウェブサイトでも立体でも写真でも、どの状況でも成立する。それが実現できている実感はあるし、同じことをやっている人は誰もいないという感覚はあります。

Lorenzo’s Tools

Nerhol’s TOOLS
さながら日曜大工のようにアナログ感あるNerholの愛用品たち。カッターやボンドは一般に市販されているものを使用。ボンドは用途によって使い分けており、中にはほんの些細な隙間を微調整するために手作りされた細い口のものも。紙や板を固定するビスも、紙の作品の厚さによって数種ある径と材質から使い分けている。特に必須のアイテムを尋ねると、「掃除機は絶対に必要。彫ったその場でゴミを吸わないといけないから」と飯田。青森と東京で離れて制作していたときは、毎日電話をして作品について話合っていたという二人にとって、携帯電話も大切なツールだ。なお、作品に使う紙は、田中のデザイン事務所にある紙の見本帳から毎回選んでいるそう。ちなみに取材時は雨。出力紙が湿気を吸ってたわむため、湿度には敏感になるという。

Nerhol

ネルホル|Nerhol
田中義久と飯田竜太で結成したアーティストデュオ。消費と生成、忘却という現代社会がもつ巨大サイクルの急所を突く作品を制作し続けている。国内外での評価も高く、主な展覧会にFoam写真美術館(Amsterdam, 2015)での個展やYoungeun Museum of Contemporary Art(Korea, 2015)など。

  • IMA 2016 Summer Vol.16

    IMA 2016 Summer Vol.16

    特集:世界を映す新世代のまなざし

*展示情報などは掲載当時のものです