How They Are Made

vol.3 ロレンツォ・ヴィットゥーリ
IMA=インタビュー・文/ジュリア・グラシ=写真(IMA 2016 Spring Vol.15より転載)

How They Are Made Vol.3

ローカリティを視覚化する独自の技法

イタリア人写真家ロレンツォ・ヴィットゥーリが、東ロンドンに位置するダルストン界隈を舞台にした「Dalston Anatomy」で数々のアワードを手にしたことは記憶に新しい。ロンドンを東西に流れる静かなカナル沿いの地区、ハガーストンにあるスタジオを訪ね、土地の持つ多様性やエネルギーを、彫刻、ペインティング、写真などさまざまなメディアを用いてアートへと昇華させる独自の手法や、これからの活動について尋ねてみた。

Red #1, 2013 From the series Dalston Anatomy ©Lorenzo Vitturi

Red #1, 2013 From the series Dalston Anatomy ©Lorenzo Vitturi


―東ロンドンを拠点として活動するに至った経緯を教えてください。

私はイタリア、ヴェネツィアの出身です。芸術の街に生まれたので、高校卒業後は自然な流れで絵画の勉強をしました。写真との出会いは、コラージュ作品の素材として自分で撮った写真を使おうと思ったことがきっかけです。だんだんと写真というメディアに惹かれるようになり、私の制作において重要なものになりました。その後、ローマの大学で写真とデザインを専攻し、同時期に映画の舞台美術画家としても働いていたので、その頃は写真と絵画とを両立していました。2007年にロンドンに移ってしばらくは、商業写真の仕事をしながら細々と作品制作をしていたのですが、あるときから作家活動だけに集中することにしました。そのときに作ったのが、当時住んでいたダルストンにあるマーケットを撮った「Dalston Anatomy」です。

アトリエの壁際にはイメージソースとなるコラージュや自身の作品がランダムに置かれている

市場で見つけたさまざまなオブジェが詰め込まれたケース。デコレーション用品に混じって、街で拾ったポスターなども保管されている。

スタジオで彫刻を撮った新作のテストプリントが何枚も壁に貼られている。

アフリカのお面と自身の作品が調和した壁面。手前の机には、よく使う画材などが乱雑に置いてある。袋に入ったカラフルな粘土のように見えるものは、実はケーキのデコレーション用アイシング・シュガー。


―カラフルな色彩が印象的ですが、ペインターというバックグラウンドの影響があると思いますか。

意外だと思われるかもしれませんが、実はローマでは伝統的なスタイルのモノクロ写真もたくさん撮っていたんですよ。でもそうですね、派手な柄の布や製菓用のどぎつい色のアイシング・シュガーなど、カラフルなマテリアルに無意識に惹かれるところがあるかもしれません。

―制作プロセスについて具体的に教えてください。

私の作品において大切なことはローカリティ、つまり街と密接に結びついていることです。外を歩き回り、よく観察し、街で見つけた素材をスタジオに持ち帰り、それを使った彫刻を組み立て撮影する、というのが基本の流れですね。ご覧の通りスタジオはさまざまなマテリアルであふれていますし、絵の具や着色粉なども多用します。「Dalston Anatomy」では、ダルストンのアフリカ移民たちが彼らのものを扱うリドリー・ロード・マーケットという稀有なエネルギーに満ちたエリアを表現したかったので、まるで巨大な道具箱から画材を探すように、マーケットを昼夜歩いては染料、布、雑貨、捨てられた野菜や果物などを持ち帰り、制作していました。また、スタジオの中だけで制作するのではなく、マーケットでポートレイトやスナップショットも撮り、写真集の中で、それらは自然に絡み合っています。

自分の作品のテストプリントの上にも着色粉が散らばっている。

自分の作品のテストプリントの上にも着色粉が散らばっている。

絵画を学んでいたため、スケッチから作品制作を始めることが多い。

円形カッターは最もよく使う道具のひとつ。


―最近ダルストンからスタジオを移されましたが、なぜでしょう?

単純に家賃が高騰したのです。スタジオとしてはありえない値段に家賃が跳ね上がり、出るという選択肢しかありませんでした。5年前から進められきたダルストン地区の再開発は、ここへきて急激に加速しています。街そのものは高級化していますが、私が「Dalston Anatomy」を制作していた2011~12年と比べると、その頃にあった圧倒的なエネルギーが失われてしまいました。私が生まれたヴェネツィアも、同じように過度な再開発が原因で、すっかり地元のエネルギーが失われ、ただの空虚な宮殿のような街になってしまいました。その過程を目撃していたからこそ、私は街の持つエネルギーを可視化することにこだわっているのかもしれません。

―今後、あらためてダルストンを題材にした作品を作る予定はありますか。

ダルストンの中心にある大きな交差点に面した巨大な敷地に、もうすぐ富裕層向け高層マンションが建設されます。私は基礎工事の段階から、たびたび工事現場に忍び込んでは廃材を見つけだし、作品を作ってきました。まだ出版されていませんが、既にダミー本まで完成しており、それがいわば私にとってダルストンとの関係の終わりを示すものになるでしょう。

―その次に制作しているシリーズがあれば、教えてください。

ナイジェリアのラゴス写真祭に招かれていて、つい先日まで3週間ほど滞在制作をしてきたところです。今回も同じようにマーケットを主題にする予定なのですが、街全体がリドリー・ロード・マーケットになったくらいの大規模な市場が存在し、人々のエネルギーには本当に圧倒されるものがあります。ある開発事業者に聞いた話ですが、新しく富裕層向け住宅を建設しようと土地を押さえても、ローカルマーケットがその予定地を覆ってしまい立ち退かないので、建設がストップしてしまうそうです。すごいことだと思いませんか?その巨大なエネルギーから何を受け止め、作品化することができるか、とてもワクワクしています。

Lorenzo’s Tools

LORENZO’S TOOLS
「こうして並べると、カメラがなければ写真家の道具には見えませんね(笑)」というように、ヴィットゥーリが多用する道具のほとんどは、彫刻を制作するためのもの。たくさんの細い金属棒もすべて彫刻に用いられる。さまざまな種類のカッターでマテリアルを刳り抜き、ドリルやペンチを使ってパーツを接続し、彩色を行う。大きな包丁は作品に頻繁に登場する、市場で買ったフルーツをカットするためのもの。作品にたびたび用いられるヴィヴィッドな色彩のハイライトは、右上にある紙コップなどの容器の中でブレンドした着色粉をふるいにかけて、慎重に着色しているという。「今日はシャツを着ているけど、このような道具を使いながら作業をしていると全身汚れてしまうので、普段はつなぎを着ています」とのこと。カメラはキヤノンのEOS 5D Mark Ⅲを使用。

Lorenzo Vitturi

ロレンツォ・ヴィットゥーリ|Lorenzo Vitturi
1980年、イタリア生まれ。2004年にヨーロッパ・デザイン学院を卒業し、2005年から2年間イタリアのレジデンスプログラムFABRICAに写真家として参加。現在はロンドンを拠点に活動。2014年イエール国際モード&写真フェスティバルにて写真部門グランプリを受賞。代表作『Dalston Anatomy』は2013年のParis Photo-Aperture Foundation First Book Awardの最終選考にノミネートされるなど高い評価を得、その後Foam美術館、The Photographers’ Galleryなどで個展を開催。

  • IMA 2016 Spring Vol.15

    IMA 2016 Spring Vol.15

    特集:ライアン・マッギンレー責任編集号