Interview
Weronika Gęsicka

ヴェロニカ・ゲンシツカインタヴュー
古き良きアメリカとソーシャルメディアの奇妙な一致
(IMA 2019 Summer Vol.28より転載)

16 December 2019

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ヴェロニカ・ゲンシツカインタヴュー「古き良きアメリカとソーシャルメディアの奇妙な一致」 | 古き良きアメリカとソーシャルメディアの奇妙な一致

インターネットや公的資料等のアーカイブ写真を用いて「Traces」シリーズを制作するポーランド生まれのヴェロニカ・ゲンシツカ。一目見で観る者を魅了する奇妙でユニークな写真群は世界的に評価されている。今春のKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2019で開催された個展「What a Wonderful World」で好評を博した展示の一部が、現在TOKYOGRAPHIEの一環としてアニエスベー ギャラリー ブティックで開催中されている。4月のKYOTOGRAPHIEのための来日に際してこの展示について話を聞いた。

インタヴュー& 文=酒井瑛作
写真(ポートレイト)=三ツ谷想

―「Traces」シリーズでは、アメリカの日常風景などを収めたストックフォトが使われています。一連の作品からは、親しみを感じつつも、同時に、アジア圏に生きる私にとっては文化的な差異も強く感じました。あなたはポーランド出身ですが、どのようにアメリカの文化をとらえているのでしょうか?

私にとってアメリカの文化は、とても親しみのあるものなんです。 90年代のポーランドで育ったのですが、ちょうどその頃は、アメリカから映画やテレビ番組、雑誌がたくさん入って来た時期で。一方、共産主義下のポーランドは本当に何もない、グレーな世界でした。なので、当時のポーランド人は、アメリカからやって来る「カラフルで完璧な世界」を欲していましたね。自分たちの理想を、アメリカに重ね合わせていたのだと思います。その時の私は、何を見ていたのかはっきりとは思い出せませんが、とにかくエキゾチックな体験だったことを覚えています。

ただ、その後、インターネット上でアメリカのストックフォトを発見したときは、なんだか可笑しくて、少し不気味にすら思えたんです。でも、まったく異なる文化とはいえない懐かしさがあって……。親しみがありながらも、めずらしく、変な写真としてとらえていましたね。

―とても興味深いお話です。作品に用いているストックフォトは、どのような基準で選んでいるのでしょうか? いま、お話しされていたような過去の記憶と関連しているのでしょうか?

「Traces」シリーズに関しては、当初はインターネットで「1950年代のアメリカ」「家族」「母と娘」など特定のキーワードを検索して写真を選んでいきました。最初は、家族写真のアルバムを作ろうとしていたのですが、最終的には、衝動に任せて選んでいましたね。私の目を引くような写真を選んでいったんです。

シリーズ「Traces」より

シリーズ「Traces」より

シリーズ「Traces」より

シリーズ「Traces」より

シリーズ「Traces」より

シリーズ「Traces」より

シリーズ「Traces」より


―アメリカそのものをテーマにしようとしたわけではないですよね? なぜ「1950年代のアメリカ」などの検索ワードを選んだのでしょうか?

普段からインターネットで面白いものを見つけるために検索していくのが好きなのですが、あるとき、たまたま典型的な家族写真を見つけたんです。ほかにも調べていくと、アメリカのストックフォトのウェブサイトにたどり着いて。もともとアメリカのストックフォトを使うつもりはなかったのですが、振り返ってみると、私が選んでいた写真のほとんどが、アメリカの公文書アーカイブに基づくセレクトだったという事実にそこで気づいたんですね。それから、検索ワードを絞って、アメリカのアーカイブ写真に基づいたシリーズを作ろうと決めました。あと、写真を見ていて興味深かったのは、私たちがソーシャルメディアでよく見かける写真とアメリカのアーカイブ写真とが、とても似通っていたということです。

―ソーシャルメディアの状況とつながってくるんですね。

FacebookやInstagramでは、人々にとって完璧で理想的な世界が発信されていますよね。それは、私が見たアメリカのストックフォトで描かれている世界と重なるものがありました。いま、ソーシャルメディアのユーザーたちはたくさんのアプリを使っています。例えば、きれいな肌に加工するアプリとか、白い歯でにっこりと笑うように加工するアプリとか。結果として、ソーシャルメディア上の写真とストックフォトの写真はとても似通ってきていると思うのです。

―なるほど。作品では、顔が大胆に加工されているのが印象的で、作品を初めて見たとき、思わず笑ってしまいました。被写体や撮影者の意図を崩してしまうバランス感が面白くて……。そういった加工は、意図的なものですか?

そうですね。常に異なる感情を混在させようとしています。色鮮やかな家族の写真を見て素敵だと思うと同時に、その後すぐに何かおかしい、でも、何がとははっきりといえない。そんな居心地の悪さを感じ始めるのではないでしょうか。それに、作品でもアプリの加工と同じように、古い写真に異なるレイヤーを追加して見せられたら面白いのではないかと考えたんです。

―現在、写真は加工され得るものであるという前提は、一般的に共有されつつあります。そんな中で、あなたの作品はどんな役割を果たすと思いますか?

私自身、写真を加工するアプリは大好きなのですが、あんまり使うことはなくて。どちらかといえば、現実で起こっていることを観察するための材料としてアプリをとらえているかもしれません。そのうえで、最新のテクノロジーやソーシャルメディアは、素晴らしいと同時に、とても危険なものであると考えています。例えば、「Traces」で扱った写真に写る人々はストックフォトとして自らの顔を預けているわけですが、われわれも日常的にソーシャルメディア上で同じことをしていますよね。そして、そこで何が起こるか、完全にコントロールすることができません。作品で示したかったのは、警告ではなく、少なくともわれわれの写真には、何らかの操作が行われるという現実の可能性の話ですね。

―あらゆるものが記録されていく中で、自らのアイデンティティや記憶が変えられてしまう可能性もあるということですよね。 KYOTOGRAPHIE 2019では、写真作品に加えて、インスタレーションも制作されていました。どのような経緯で作られたのでしょうか?

インスタレーションはすべて、家族、家庭、幼少期など「Traces」のテーマを引き継ぐ続編的な位置付けの作品です。ただ、ポーランド人である私がアメリカの写真を扱っていて、なおかつ、伝統的な日本の家屋で展示するという条件下での制作は、かなり難しかったため、ポーランドでの展示とはまったく違います。キュレーターやチームの提案を聞きながら、ひとつひとつの問題を一緒に解決していったんです。

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2019でのインスタレーション風景 © Go Asai - KYOTOGRAPHIE2019

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2019でのインスタレーション風景 © Go Asai - KYOTOGRAPHIE2019


―チームで作っていったんですね。

はい、展示は細部がとても重要だったのですが、キュレーターやスタッフの方々がとても意欲的に協力してくれたので、良い形で準備を進めることができ、すばらしい経験となりました。

―最後に、今後はどんな作品を制作する予定ですか?

まだ進行中で、いろいろと考えているところですが、ヴィンテージフォトを使った新しいシリーズを作ろうとしています。加工についての興味は持続しているので、アプリにインスパイアされた作品を制作予定です。「Traces」と似ていますが、まったく異なるものになるはずですよ。

アニエスベー ギャラリー ブティックでのインスタレーション風景 © Elodie Laleuf - KYOTOGRAPHIE2019

アニエスベー ギャラリー ブティックでのインスタレーション風景 © Elodie Laleuf - KYOTOGRAPHIE2019

アニエスベー ギャラリー ブティックでのインスタレーション風景 © Elodie Laleuf - KYOTOGRAPHIE2019

アニエスベー ギャラリー ブティックでのインスタレーション風景 © Elodie Laleuf - KYOTOGRAPHIE2019

タイトル

「What a Wonderful World」

会期

2019年11月30日(土)~2020年1月12日(日)

会場

アニエスベー ギャラリー ブティック(東京都)

時間

13:30~18:30

休館日

月曜、年末年始(2019年12月31日~2020年1月3日)

ヴェロニカ・ゲンシツカ|Weronika Gęsicka
1984年、ポーランド生まれ。ワルシャワ写真アカデミー卒業。「記憶」をテーマに、警察のアーカイブ資料や、匿名のストックフォト等を加工し、現実を少し歪ませたモンタージュ作品を制作している。2017年にFoam Talentを受賞した。主な作品集に『Traces』がある。

  • IMA 2019 Summer Vol.28

    IMA 2019 Summer Vol.28

    特集:スティーブン・ギルのすべて