ディオール、サンローランでその独自の美意識で辣腕を奮い、モード界を牽引してきたファッションデザイナー、エディ・スリマンが2018年、アーティスティック、クリエイティブ、イメージ・ディレクターに就いたセリーヌ。この2020年メンズ・サマーコレクションに現代アーティスト、アンドレ・ブッツァーとコラボレーションしたカプセルコレクションをリリースした。
展開アイテムは、Tシャツ・ポロシャツなどのウエアからスニーカー、ウォレット、バッグまで充実のラインアップ。Tシャツのボディプリントに、ポロシャツの胸元ワンポイントにウォレット全面に、ブッツァーのキモ可愛いお化けのようなキャラクターが載っている。クールで高貴な佇まいのスリマンの世界観に、今回一瞬のポップを挿入。カプセルコレクションはセリーヌ各店にて発売中。
セリーヌは前ディレクターのフィービー・ファイロの頃から知的でアートな雰囲気が香るファッションブランドだが、スリマンに代わり、よりアート性に磨きがかかり、シャープな印象になった。彼は建築や音楽、プロダクトデザインなどカルチャーに造詣が深く、写真の腕前は一級品だ。自身のホームページであるHEDI SLIMANE DIARYでは、モノクローム写真で収めてきたミュージックシーンやスノッブなセレブリティの世界を発信している。スリマンのクリエイティビティを象徴する「細身の青年」や「ロック」がモチーフのその写真たちは、退廃的で官能的。どこか危険な色気が漂う。その腕前は、VOGUEなどのファッション雑誌でもフォトグラファーとして撮影するほど。『ROCK DIARY』『SONIC』など自身の世界観を存分に発揮した写真集も発刊している。『IMA』でも過去に、写真家としてのスリマンの写真作品をフィーチャーしてきた。
もちろん、セリーヌのキャンペーンビジュアルはスリマンが撮影したもの。バスの停留所や奥渋谷、青山通りの一角など、意外なところに掲出されているので、目にしたことがある人もいるだろう。このストリート感もまた、スリマンらしさ。アンドレ・ブッツァーがコラボレーション相手というのもうなずける。
さて、そんなモノクロで官能的な写真世界を展開するエディ・スリマンだが、今回発表されたカプセルコレクションは、うって変わってプレイフルだ。ドイツをベースに活動するブッツァーはペインティングの可能性を探求するアーティスト。「描くことは運命であり、絵画は生と死の起源を語っている。人生の目的」と宣う。彼の作品は、カラフルな色使いに、大胆な描線は観る者に圧倒的な印象を与える。そのダイナミズムなキャンバスに、ポップなキャラクターが登場する。この戯画とアブストラクトの対照性こそブッツァーが評価されるゆえんだろう。激しいコントラストは極端なシェイプを好むスリマンの琴線に触れたのかもしれない。
互いの世界観を呼応させつつ、不思議な不協和音の調和をもらたすこと、それこそがアーティスト対決の醍醐味と感じさせてくれる。
文=海老原光宏
『IMA』からアンドレ・ブッツァーへの5つの質問
1. あなたが描く得体の知れない戯画化されたキャラクターは、何のメタファーでしょうか?
彼らは色と反復のみを象徴し、描かれている作品の立会人となります。そしてペインティングの中に生息することで、彼ら自身が真実を写し出すのです。絵は常に真実の近くに漂うひとつの場なのです。
2. あなたが影響を受けたのは、どんな人、モノ、現象、出来事ですか?
影響はもちろんたくさんありますが、同時に私自身が想像源でもあります。ペインティングは生と死の起源を語っているのです。写真は基本的に山が写っている写真が好きです。
3. 絵の具を盛ったカラフルな大作で知られていますが、音楽でも演劇でもダンスでも映画でもなく、絵画をメディウムに選んだのはなぜですか?
逆に私が選ばれたんです。作品を作り続ける中で気がついたのですが、ペインティングは本当に上手くできないんです。アートでは出来ることより出来ないことを選ぶべきだと思っています。
4. あなたが絵画の表現を通して、伝えようとしていること、到達しようとしているものはなんでしょうか?
作品はコミュニケーションのツールではありません。運命であり、目的地です。ペインティングが何かを表現するためには何も表現しないということが大切です。
5. セリーヌというブランドを一言でいうと?
ネコのブランドですね。だから撃たないで!
お問い合わせ先:セリーヌジャパン
TEL 03-5414-1401
https://www.celine.com/
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。