Interview
Mika Ninagawa

蜷川実花インタヴュー
Zoom、東京、写ルンです……コロナ禍で生まれた新たな試み

10 July 2020

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蜷川実花インタヴュー「Zoom、東京、写ルンです……コロナ禍で生まれた新たな試み」 | 蜷川実花インタヴュー

© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

緊急事態宣言下にZoomを用いたリモート撮影に挑んだ蜷川実花。撮影方法はYouTubeで公開され、完成した作品もインスタグラム上で披露された。宣言の解除後は、PARCO MUSEUM TOKYOで写真展「東京 TOKYO / MIKA NINAGWA」を開催し、また、コロナ禍以前の写真に加えて、緊急事態宣言下の東京で撮影した写真も展示した。コロナ禍で写真家に何ができるのか?を突き詰めようとするかのような蜷川に、新たな試みの果てに見えてきたものについて聞いた。

文=石田潤

写真集『東京 TOKYO / MIKA NINAGAWA』より。緊急事態宣言が発令された4月7日に撮影された東京都庁。

写真集『東京 TOKYO / MIKA NINAGAWA』より。緊急事態宣言が発令された4月7日に撮影された東京都庁。
© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

―自粛期間中にZoomを使ったリモート撮影を始めましたが、きっかけのようなものはあったのでしょうか?

あれほど毎日自由な時間のある生活は、デビューしてから初めてでした。時間のあることへの戸惑いと、不謹慎かもしれませんがワクワク感もありました。でも2、3日すると、いまだからこそできることは何だろうと思い始めて。みんなピリピリしてこの先どうなるかわからなかった時期でしたが、大変なときほど思考がポジティブになるみたい(笑)。撮影は人に会わなければ成立しないという前提を、崩すことはできないかと考え、ああした方法にたどり着きました。リモート撮影自体は、要はスクリーンショットなので新しいことではありません。でも、「あれがあったからこそ、これが生まれた」という方程式を、何としてでも解かなければならないと思ったんですね。意地になっていたところもあるかもしれない。自粛の2カ月があったからここにたどり着けた、ということをリモート撮影に限らずやってみたくて、オンライン上のクローズドコミュニティ「蜷川組」を立ち上げたりもしました。

ZOOMを用いたリモート撮影をもとに完成した玉城ティナの写真。玉城の写真の背景に、蜷川のトレードマークである花の写真を合成している。© mika ninagawa

ZOOMを用いたリモート撮影をもとに完成した玉城ティナの写真。玉城の写真の背景に、蜷川のトレードマークである花の写真を合成している。© mika ninagawa

ZOOMを用いたリモート撮影をもとに完成した玉城ティナの写真。玉城の写真の背景に、蜷川のトレードマークである花の写真を合成している。© mika ninagawa

リモート撮影の様子は蜷川のYouTubeチャンネルで公開されている。


―蜷川組ではどのような活動を行うのですか?

自分の周りにはコロナ禍による社会の変化をポジティブにとらえる人が多くて、本当に困っている人があまりいなかったんです。でも、例えば若い役者の人と話すと、何カ月も仕事がなくて困っていたりして、自分が特殊な環境にいることにふと気づきました。で、これはまずい、と思ったんですね。私は、特に映画では、ありとあらゆる人に見てもらわないと成立しない規模のことをやっています。いろんな人の気持ちをキャッチしたいという思いもあって、クローズドコミュニティを立ち上げました。プロフェッショナル至上主義者なので、みんなで何か作ろうよというのはこれまでやらなかったのですが、今回のことがあり、自分の周りだけではなくてさまざまな人の話を聞いてみたいと思いました。その中に、私の仕事を手伝いたいという人がいたらそれはそれで嬉しいですしね。3.11のときも思いましたが、クリエイターは補助的な魔法しか使えないんです。回復することをちょっとだけ補助する魔法。リモート撮影も含めてこれまでやっていなかったことを始めたのは、私にはちょっとだけ背中を押すことしかできないけれど、それをいまはやりたいと思ったからです。

自粛中に立ち上げたクローズドコミュニティ「蜷川組」。応募者の中から参加者を選考し、蜷川の作品やイベントの企画、サポートなどを行う。

自粛中に立ち上げたクローズドコミュニティ「蜷川組」。
応募者の中から参加者を選考し、蜷川の作品やイベントの企画、サポートなどを行う。
https://mikaninagawa.owner-s.com


―リモート撮影を行う行為自体が、ある種の決意表明だったのですか?

そうですね。いまだからこそこういうことができるよね。大変なときこそ面白おかしくやった方がいいよね、ということを示したかったんだと思います。緊急事態宣言が解除されたタイミングで、『東京 TOKYO』の写真集も出しました。これはコロナ禍の前から進めていたものですが、ほとんどは「写ルンです」で撮っています。被写体にこだわらず、何でも撮れるということにチャレンジしたかったというのもありました。

―リモート撮影と通常のリアルでの撮影の違いは?

全く違いますね。意外と気になったのが、撮っている自分の姿が相手から見えること。カメラを持っていると、撮っている私の顔は被写体から見えないじゃないですか。恥ずかしいし、面白かった(笑)。リモート撮影で一番ポイントになったのは、被写体との関係性ですね。リモートでは被写体との距離感が写ります。お互いの信頼関係がないと難しいかもしれません。「(光を入れるために)カーテンを開けて」とか、「もっと近づける?」とか、こちらは画面越しに指示を出すだけで特別な技術が必要というわけではないのだけれど、相手が撮られることに慣れていないと意外に難しい。「写ルンです」の撮影とも繋がっていて、何でも撮れるになったときに、何が残るのか?そこを突き詰めたかった。

ベッドルームにいる玉城ティナをZOOMで撮影した写真。被写体と蜷川との信頼関係から生まれた作品はリモート撮影とは思えない親密さが漂う。© mika ninagawa

ベッドルームにいる玉城ティナをZOOMで撮影した写真。被写体と蜷川との信頼関係から生まれた作品はリモート撮影とは思えない親密さが漂う。© mika ninagawa


―いったい何が残るのでしょう?

撮る側と撮られる側の関係性ですね。あとは撮る側の視点と、リモート撮影に関して言うならば経験値。リモート撮影を深掘りしたかったわけではないので、リアルに会えるようになってからもリモートを行うはわかりません。でもリモート撮影ならではの可能性もあって、例えばブラジルにいる本田圭佑さんを撮影したのですが、この撮影法では東京にいる人もブラジルにいる人も条件は同じで、私のやることは変わらない。国境を超えられるんですよね。問題は距離の遠さではなくてWi-Fiの強さ(笑)。Wi-Fi環境さえ整っていればきれいに写ります。新しいことができる可能性も感じますね。

―レンズを覗くのとPCの画面を見ることでは、見えてくる世界は変わりましたか?

視野が変わりますから。PCだと画面の外に広がる周りの環境も見えるので、没入感が違います。ものすごく集中力が必要とされますね。不便さをいかに楽しむかも裏テーマのひとつでした。

コロナ禍の今や不可能な景色となったフェスに集まる群衆の写真。

コロナ禍の今や不可能な景色となったフェスに集まる群衆の写真。
© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery


―緊急事態宣言が解除されて、まず撮りたいと思ったものは何でしょう?

この間、森山大道さんとも話したんですが、緊急事態宣言中、写真家は結構外に出ていたと思います。あんな銀座や渋谷は見たことがない。マスクとメガネをかけて、交差点を回っていました。いつもは人がいるのに、その時期は人がいないところに何度も行きましたね。これは撮っておかなければならないと思った。写真家はみんなそうだったのではないでしょうか。雪の降った東京も好きで、雪が降ると大体交差点にいます。日常見ていたものが違うというのは、撮らずにいられない。二度とない風景を撮りたいというのは、写真家の本能でしょう。

2019年に撮影された歌舞伎町。© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

新型コロナウィルスの脅威が迫り始めた3月の東京。© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

いつの時代も変わらず桜は咲き、散ってゆく。© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery


―ではコロナ禍を受けて、新たに撮りたいテーマというのは生まれましたか?

直接の関係性はありませんが、東京の写真集自体が私にとっては珍しいものです。いままで自分の私生活は撮っていなかった。二年前から撮り始めたのですが、当初は社会性を持たせるつもりはなく、身の回りの人々を90年代の文脈で撮ってゆきました。そんな中で新型コロナウィルスが出現し、感染が拡大していって、結果としてコロナ前といまの状態が1冊にまとまった。写真集が出版された後も撮っています。いま、世界がどうなっているのかは、私の写真ではなんとなく薫ぐらいですが。身近なことを撮り続けていると、現状の、東京の状況が写り込んでくる。そこが面白い。しばらくはこれやっていくと思います。

いつの時代も変わらず桜は咲き、散ってゆく。© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

オリンピックの延期が発表される直前に撮影された1枚。© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

緊急事態宣言解除後の5月に渋谷の交差点を撮影。写真展で展示された。© mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery


―東京を撮るにあたり、「写ルンです」を用いたのはどのような意図からですか?

「写ルンです」を使ったのは二年前が初めてで、中国の雑誌から「こういう質感で撮って欲しい」という依頼が来たんですね。90年代の写真のようなものがレファレンスとして送られてきて、「写ルンです」で撮ってみたら質感がよかった。その後、アートディレクターの町口覚さんと次の写真集のテーマを決めるために最近撮っていた写真を見ていたら、「写ルンです」の写真が良いねということになって。「写ルンです」は、写る環境が整った条件下でしか写らないですよね。誰もが使えるカメラで、嘘偽りがない。それがいまの気分に合ったのだと思います。展覧会も見に来てくれる人が多くて、リアルや個がこれからのキーワードになるという話は聞いていましたが、そうなのだろうと実感しました。こんな風に時代にあってゆく瞬間というのはあるんだなと思いましたね。

蜷川実花

蜷川実花|Mika Ninagawa
写真家、映画監督。木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。映画『さくらん』(2007)、『ヘルタースケルター』(2012)、『Diner ダイナー』『人間失格 太宰治と3人の女たち』(ともに2019)監督。Netflixオリジナルドラマ『FOLLOWERS』が世界190カ国で配信中。映像作品も多く手がける。2008年、「蜷川実花展―地上の花、天上の色−」が全国の美術館を巡回。台北、上海などアジアを中心に大規模な個展を開催し、動員記録を大きく更新するなど人気を博し、世界的に注目を集めている。2018年熊本市現代美術館を皮切りに、個展「蜷川実花展-虚構と現実の間に-」が2021年まで全国の美術館を巡回中。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事。
https://mikaninagawa.com/

『東京 TOKYO』

蜷川が2018年9月から2020年4月にかけて撮影した写真をまとめた1冊。東京の景色や蜷川の周囲の人々を、写ルンですで撮影。『東京 TOKYO / MIKA NINAGAWA』(河出書房新社)

タイトル

『東京 TOKYO』

出版社

河出書房新社

出版年

2020年

価格

3,600円+tax

仕様

ソフトカバー/B5変形/256ページ

URL

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309290812/

千紫万紅

タイトル

「蜷川実花展 -千紫万紅-」

会期

2020年7月3日(金)~8月2日(日)

会場

新宿 北村写真機店 6F Space Lucida(東京都)

時間

10:00~20:00

URL

https://www.kitamuracamera.jp/ja/event/79017223081