Interview
Keisuke Nakamura × Atsushi Hamanaka

カウンターカルチャーを牽引しながら価値観を転換する、SKWAT/twelvebooksが目指すスペースの新しい在り方

28 July 2020

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カウンターカルチャーを牽引しながら価値観を転換する、SKWAT/twelvebooksが目指すスペースの新しい在り方 | SKWAT/twelvebooks

2020年5月、新型コロナウイルスによる自粛期間中に表参道に、本で埋め尽くされた巨大なスペースが突如オープンした。そこは「SKWAT/twelvebooks」と名付けられ、既存のジャンルに当てはまらない活動を行う実験的なアートスペースが目指されている。このSKWAT/twelvebooksは、設計事務所DAIKEI MILLSと、洋書のディストリビューションを行うtwelvebooksがタッグを組んで展開する、“変わり続ける”オルタナティブスペース。異なるジャンルが融合し、型にはまらない活動を展開するこのスペースの行方、そして東京のアートやカルチャーの転換点を、DAIKEI MILLS代表の中村圭佑と、twelvebooks代表の濱中敦史に訊く。

文=IMA
写真=高野ユリカ

空間を占拠するプロジェクト「SKWAT」の実験精神

まず、このスペースが生まれるきっかけとなったのが、中村が昨年スタートした活動「SKWAT(スクワット)」。これは、空きスペースをその意味どおり占拠して、何かが起こる場所を期間限定で生み出すプロジェクトだ。これまでに原宿の一軒家(神宮前2-18-11)で展示を行ったり、CIBONE Aoyamaの移転直前の空きスペース(南青山2-27-25-2F)で2週間限定のカフェを作ったりと、形態を変えて、ゲリラ的な活動を行ってきた。今回のスペースのきっかけにもなったSKWATは、どのように始まったのだろうか?

中村圭佑(以下、中村):設計事務所DAIKEI MILLSを始めて間もなく10年を迎えるが、設計事務所としてこれまで本当に多くの意義深い仕事に恵まれ、成長をし続けてきた。そんな現状だからこそ、さらなる次の10年間をどう進化させるべきかを考えたときに、いただいた仕事に対し全力で回答を出すという従来の受注型スタンスだけでは足りず、自らの思想を強く発信していく活動も同時に必要だという思いがありました。自分のコアな部分を先立って表現することで、そこに同調してくれる仲間を集め、共に新たなビジネスの形を切り開いていく、そういったやり方ができないかと。なかなか突破口が見つからなかったのですが、昨年9月、空き物件を占拠しその空間をデザインし自ら運営までをすることで、空間の本質を探り、そしてそれが新たな空間の提唱にまで発展するのではないかと考えました。レガシー問題と呼ばれるようにオリンピック後に空き物件が増えると予想される中で、squatters(放棄された土地や建物を占拠する行為)からつけたSKWATという名前のとおり、予定調和ではない“生々しい”空間を、カウンター性を含んだ表現として東京のド真ん中に作りたかったのです。その為には、占拠した場で何をするのかが重要であるため、以前一緒にVACANTをやっていた濱中に話を持ちかけました。ちょうど濱中もオフィスを引っ越すことを考えていて、場を作りたいと話していたのでいいタイミングでことが進みました。

中村と濱中は活動初期、共に原宿にあったVACANT(2009〜2019年)のメンバーだった。VACANTが20代の若者たちによって作られたカルチャーやアートの発信地だとすると、SKWATは彼らが年と経験を経てもう一度集まって作り上げた、大人の遊び場的なものだといえるかもしれない。その中で、核となるのがアートとなる。

濱中敦史(以下、濱中):SKWATの活動自体がアート活動のようなものなので、ゲリラ的なパフォーマンス要素を含めた動きを意識していました。今回は青山ですが、SKWATの基本的な哲学や考え方は、場所を変えても変わっていません。いい意味で臨機応変に、そのときそのときで起きたことや、新しく動き出した話などに柔軟に対応しながら、お互いの瞬発力で動くようにしています。

SKWATの骨格を担うのがDAIKEI MILLSによる空間デザインだ。第一弾の原宿の一軒家では建物の外観を青色シートで覆った。今回のスペースでは不規則に配置された、ヴィヴィッドな赤い絨毯にまず目を奪われ、躯体がむき出しの天井、所々に垂れ下がる赤いコード、ランダムに置かれた椅子など、大胆さと緩さが同居した空間は、アートの堅苦しさを適度に中和し、緊張感がありながらも居心地の良さを感じさせる。

原宿の一軒家でのSKWATの様子 Photo: SKWAT

原宿の一軒家でのSKWATの様子 Photo: SKWAT

CIBONE Aoyamaの移転直前の空きスペースでのSKWATの様子 Photo: Daisuke Shima

CIBONE Aoyamaの移転直前の空きスペースでのSKWATの様子 Photo: Daisuke Shima


中村:SKWATでは、空いている場所を従来の設計プロセスには当てはまらないアプローチで時限的かつ事件的に占拠し、効果的にインパクトを与えるようにしています。一回目はSKWATの性質を分かりやすく体現する必要があったので、一軒家の外観の色を青一色に変え、原宿の街中に突如現れたかのような操作をしました。今回のスペースは赤がキーカラーですが、毎回それぞれの色のカラーを決め、色が場所を占拠しいく様をデザインアプローチの一つとしています。普通のインテリアデザインや、建築だと外側からどうするかを考えるのですが、そうではなく、既存空間の特異性を見極め、そこにどう占拠するかを基本軸にしています。あとはコストをかけないことは、無駄を出さない=サステナブルな活動に繋がると考えています。この什器やシェルフ、照明もCIBONE Aoyama移転の際に廃棄予定だった什器を譲り受け、この場所仕様に変容させて使っています。

SKWAT/twelvebooks

SKWAT/twelvebooks

SKWAT/twelvebooks

SKWAT/twelvebooks

濱中:天井の赤い線は、躯体の中に埋め込められているPC鋼線と呼ばれる鋼線の在りかを印したものです。内見のときから、天井はこの状態で床もかなり赤い線が引かれていました。それが面白かったので、そのまま赤をメインカラーにしました。


変化し続け、拡張するスペースとしての「SKWAT/twelvebooks」

現在のSKWAT/twelvebooksはアートブックに埋め尽くされ、本のための空間という印象が強い。洋書を日本に輸入し、書店に卸すというディストリビューターとしての役割を担ってきたtwelvebooksは、フラッグショップとも取れる店舗の存在をどのようにとらえているのだろうか?

濱中:本は人にとって身近で手に取りやすく、コンテンツとしてボリューム感があり、空間の居心地をよくする装置になります。ここは店舗ではなく、あくまでtwelvebooksの機能を一般開放するようなイメージ。在庫を全てフロアに出しているので問屋のようでもあります。サイン会やトークイベントは、いままでと変わらず商品やマーケティングに合う書店で行い、自分たちのスペースでは基本的にはしないつもりです。あえてここでやるのであれば、この空間だからこそできることをやって差別化したい。青山の真ん中で、気軽に来れてゆっくりと時間が過ごせて、棚に目をやればアートブックがあって、という中村の空間のイメージが自分的にもしっくりきました。また今後、同じ区画内で別のフロアも借りて本以外のコンテンツも作り、最終的にはアートセンターのような複合施設にしていく構想をしています。

SKWAT/twelvebooks

近隣には、荒木経惟やロニ・ホーン、ガブリエル・オロスコなど、国内外の現代美術の展示を行ってきたRat Hole Galleryがあったが、SKWAT/twelvebooksが移転してきたタイミングで、Rat Hole Galleryはその歴史に幕を下ろすことになった。そこで、その文化を継承し、この可変のスペースだからこそ可能な、斬新なアイデアも生まれているという。

濱中:もともと Rat Hole Galleryは自分にとっては思い入れがある場所でした。最初は一緒にこのエリアを文化的に盛り上げていければと思っていたのですが、閉廊されるということで、Rat Hole Galleryの刊行物や、ヒステリックグラマー名義で作っていたアートブックを譲り受け、今後の国内外への流通をさせてもらうことになりました。さらに、ただ本を譲り受けるだけではなく青山にRat Hole Galleryがあったという歴史をSKWATらしい手法で伝えていきたいとも思っていて、ギャラリー内で使用されていたフロア材や本棚など、ギャラリーを長年支えてきた素材や什器も共に譲り受け、それらで構築した特別なアーカイブショップをSKWAT/twelvebooks内に設けました。過去の展覧会インビテーションやRat Hole Galleryのロゴの入ったショッパーなどの在庫も譲り受け、当面は書籍購入者に無料配布していく予定です。

異なるジャンル同士が手を組んだからこそ、普通なら理想で終わってしまうかもしれない移築というアイデアが現実化できる。また相互作用によって、さまざまヴィジョンやアイデアが生まれ、それが循環していく。長い間借り手が見つからなかった一等地のファッションテナント用のビルに、SKWATのビジョンと貸し手側のビジョンが合致し、期間限定を条件に特別に借り受けることで実現した、まさに奇跡のような場所。とはいえ、都心の一等地で維持費もそれなりにかかるであろうSKWAT/twelvebooksの採算を、二人はどのように考えているのだろうか?

濱中:いきなり利益重視の空間にはせず、文化的に面白い場所であることを最優先に、自分たちの時間と体力を使っていこうと思っています。そういう場所として続けていくためにも、いままでと変わらずに卸事業を継続しながらも、この空間を見て新しく来た仕事を積極的に実現していきたいと考えています。

中村:僕らは好きなものが似ていて、自らが武器としている感性が研ぎ澄まされているからこそ繋がっているのだと思います。冒頭に触れた“生々しい”空間を作ることがSKWATの大前提ですが、カウンターカルチャー、パンク精神は予定調和では絶対に起こり得ないですよね。VACANTを始めた10年前頃から、情報を得たら体験しなくてもわかってしまうような予定調和的な場所や、営利目的過多で作られた場所があまりにも多すぎるため、少しでも打開したいと感じていました。僕たちにはVACANTを作った実績があります。あそこは本当にお金のことなんて一切関係なく、自分がやりたいことだけを突き詰めてやった結果面白いものになっていた。その頃とは僕たちの取り巻く状況や社会の状況も異なるため、同じやり方が通用するとは思っていません。ただ、その時の生々しい感覚が残っているからこそ、まずは収益性を度外視しても、当時よりそれぞれの業界でプロフェッショナルになった僕らが本当に意義のあることを信じて突き詰めれば、お金はあとからついてきて、結果的に自然とカウンターカルチャーになると僕は考えています。

濱中:VACANTの後に、お互いが独立してそれぞれオフィスワーク中心の仕事に変わっていたのですが、場を持つことになって改めて、場の力や、人が繋がるスピード感を強烈に感じています。人が集まるこの場所だからこそ、コミュニケーションの中心になって、カルチャーの展開を作っていくことの可能性を感じています。

SKWAT/twelvebooks


混沌とした現在だから起こせる、価値の転換

新型コロナウイルスによる自主期間中の5月下旬にSKWAT/twelvebooksはオープンした。先の見通しが立たず、新しいことを始めづらい状況の中でもあえて攻めの姿勢を貫いたが、混沌とした現代だからこそ、新しい文化が生まれる可能性を感じているという。

濱中:自宅でインターネット中心の生活をしていて、久しぶりに外に出て行った場所は、フィジカルな感覚が解放されますよね。2カ月家から出てなかったけれど、出かけられるようになったら最初にここに来たいと思っていて、実際に来たらすごくワクワクして前向きになったと言ってくれる人もいました。この状況だからこそ逆にいい意味で僕たちの活動がささる部分もあるのだと思います。

中村:経済が衰退しきった時には新しい文化が生まれるといわれていますよね。こんな状況なので自粛期間が明けたとしてもみな先が真っ暗闇で、誰も答えがわからない状態になっていると思います。だからこそ、僕らが普段だったら絶対に借りられない場所を借りることができたし、然るべきタイミングで打ち出せたのだと思います。何かを発信することには、社会性や、政治性が必ず付いてきますし、どれだけカウンターパンチが打てるかが、新たな文化創造につながる重要な鍵でもありますし、そういった意味ではいまのところのSKWATの活動は時代にはまっているものだと確信しています。

SKWAT/twelvebooks


濱中:来る人は大抵、固定観念でギャラリーだからホワイトキューブだろうとか、青山だからとか思って来ると思います。でも実際に来てみたら、いろいろな驚きがあると思います。何を見てもあれ!? なにこれ!? みたいな、二重どころか三重のレイヤーのある驚きができると思います。

中村:それが予定調和を崩すということですよね、カテゴライズさせずに、尖ったことはやるけれど、完全ではない空間なども含めて若い人たちがとっつきやすいように、変化しやすさも重要だと思っています。

都心の一等地で、内装や什器も一から作り込むのでなく、すでにある空間の特徴を生かし、什器を再利用するなどサステナブルでありながらも、期間限定だからこその変化を最大限楽しむ。普段ならマイナスだと受け止められるそれぞれの要素を、ポジティブな強みへと変換していく。高級ブランドのショップが並ぶ南青山に、従来の方法論とはまったく違う価値観を投下することで、これからのギャラリーや店舗のあり方を問う。採算よりもまずは自分たちがやりたい、面白いと思うことを、インデペンデントでは考えられない、誰もが驚く規模で実現する。これから何かが起こる予感に満ちた、カウンターカルチャーの発信地になるだろう。

濱中:来る人の中にも、空間に全く興味を示さない人もいます。この場所にどういうリアクションをするかは、その人がいままで何に美意識やクリエイティビティを感じてきたかが試される空間ではありますね。僕としても業界の垣根をなくして、本がきっかけで最終的には空間全体のことなども感じてほしいです。

中村:いろいろな業界の価値観が変わるチャンスですね。空間の在り方として独自性と同時に、来た人が気持ち良いと思ってくれるような抜け感や大胆さが不可欠で、さまざまな意味において開かれた状態を作ることが大切だと考えています。今の所、来てくれた人のリアクションがリアルに感じられ、そのリアクションもほとんどが驚きも含んだポジティブなもの。そういったカウンター性を含んだ驚きを感じさせられるのはこの立地だからこそ。立地が変わったらまた全然違う見え方になりますし、違うアプローチで場づくりをする必要がある。場所って大事ですよね。

SKWAT/twelvebooks

中村圭佑|Keisuke Nakamura
1983年静岡県浜松市生まれ。2011年に東京を拠点とするデザイン・設計事務所DAIKEI MILLSを設立。主な実績として、Artek Tokyo Store、CIBONE、ISSEY MIYAKE、6(UNITED ARROWS)、avex office、Takram officeなどがある。
http://daikeimills.com/

濱中敦史|Atsushi Hamanaka
1984年生まれ。三重県出身。2010年に twelvebooks を設立。アートブックを専門に海外出版社の国内総合代理店として書籍の流通やプロモーションに加え、関連作家の展覧会企画や来日イベントなど数多くのプロジェクトを手掛ける他、TOKYO ART BOOK FAIR ではコミッティーメンバーとして運営に携わる。
https://twelve-books.com/