How They Are Made

vol.15 ジュリー・コックバーン(IMA 2019 Summer Vol.28より転載)

7 August 2020

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ジュリー・コックバーン「色鮮やかなグラフィックを生み出す、ファウンドフォトとの対話」 | Glade 2018 Hand embroidery on found photograph © Julie Cockburn, Courtesy of Hopstreet Gallery

Glade 2018 Hand embroidery on found photograph © Julie Cockburn, Courtesy of Hopstreet Gallery

彫刻をバックグラウンドにもつジュリー・コックバーンは、ファウンドフォトや絵画、ポストカード、地図……目に留まったあらゆる物を使って作品を制作する。綿密な計画と直感に基づきながら、コラージュ、刺繍、ペインティングなどのさまざまな手法で素材を組み合わせていく。繊細な作品がどのように作られるのかを探るため、イギリス東部に位置するウッドブリッジの、彼女の自宅兼スタジオを訪ねた。

ジェマ・パドリー=文
トム・ブラニガン=写真

色鮮やかなグラフィックを生み出す、ファウンドフォトとの対話

色鮮やかなグラフィックを生み出す、ファウンドフォトとの対話

―子どもの頃から、ものづくりが好きだったのでしょうか?

おもちゃが作りたくて、いつも刺繍をしていた祖母から裁縫を学びました。いまでも、シルクの糸や針が収納された素敵な裁縫箱を鮮明に覚えています。そのときは、自分で描いた絵を切り抜き、彫刻のようなものを作っていました。人格を形成する幼少期に受けた影響は、のちの人生にも影響を与えますよね。50歳を過ぎても、子どもの頃と変わらずに何かを作ることを続けています。

―いつからファウンドフォトを使った手法を取り入れましたか?

大学生の頃からです。彫刻を専攻していたのですが、ファウンドフォトを切り抜いたり、複写をしたりして、ファウンドオブジェやペインティングなどさまざまなものと組み合わせながら、写真を立体にする作品ばかりを作っていました。

構図を検討するために、制作途中の作品をしばらく壁に貼って眺める、まるで彼女の脳内を垣間見ているかのよう。

画面上にあるのは、ファウンドフォトのスキャンデータ。まず最初に、Photoshopを使って制作プランを立てる。

コックバーンのスタジオは、色鮮やかな刺繍糸であふれている。写真へのダメージを最小限に抑えるため、極細の刺繍針を使う。最近は、ビーズを使った制作にも取り組み始めた。

パソコンに向かうコックバーン。ここから、ファウンドフォトとの対話は始まっている。


―ファウンドフォトの魅力とは?

古い写真に惹かれる理由は、まずは色にあります。特に「テクニカラー」と呼ばれる、1950年代の色彩が好きです。当時のポートレイトは、ほとんどが写真スタジオで撮影され、被写体は同じようなポーズを取り、構図も規則的です。ランドスケープも、ありきたりな絵柄が多い。そのようなある意味、個性が欠けている写真は、私に魔法のようなものや、まだそこに埋め込まれていない物語を加える余地を与えてくれます。家族写真や学校での記録写真など、そこに親しみを感じることができれば、人は自然と写真に目を留めます。私がちょっと変わった加工を施すことが、人々が見過ごしがちなイメージに目を向けるきっかけになればと思っています。

―制作プロセスについて教えてください。

工程としては、まずファウンドフォトをスキャンし、デジタルデータを使って作業プランを立てます。パソコン上でどの素材をどのように配置するかなど、最終的な仕上がりを事細かに決めてから、そのデザインをオリジナルのファウンドフォトに落とし込むのです。カットしたり、コラージュや刺繍を施したりと細かい作業が多く、ひとつの作品を作るのに何日もかかります。私の場合は、パソコンを使ったデジタル作業と、素材を直接的に扱うアナログなプロセスの両方を行き来することで、良いバランスが取れていますね。面白いことに、手作業がすべて終わった後にそれをスキャンし、スクリーン上で眺めて、初めて作品が完成したと感じるんです。

ロープウェイが写されたファウンドフォトのロープ部分を、ピンクの刺繍でハイライト する。それらがアクセントとなり、不思議なリズムを生み出している。

自然光が入るスタジオで、1日平均5時間作業し、約10日間かけてひとつの 作品を作る。

子ども向けのおもちゃのカラフルなパーツを組み合わせて、オブジェを作る。グラフィカルなパターンを作る時に参考にするという。


―手作業に着手する前に綿密なプランを練るとのことですが、直感的な部分もあるのでしょうか?

もちろんです。写真を選び、構想を練る時点から直感を大事にしています。私の場合は、ゼロから創造していくのではなく、イメージを見つけ、そこにある既存の何かが私の琴線に触れ、感情や身体が反応していく。まるでファウンドフォトと対話をしているような感覚で制作しています。また、コンポジションや色彩など、デザイン的な部分も重要なので、バランスがキーですね。ポートレイトの顔全体を刺繍で覆うこともあれば、生花のシリーズでは、オリジナルの花瓶に生けられたモノクロの花の写真に、色彩豊かな刺繍で花を足しました。また最近では、ヴィンテージフォトの上にドットをプリントしたポスターに、12枚の丸ステッカーを付けて販売し、購入者が自分の手で作品を完成してもらうようにしました。見る人にも写真との対話を楽しんでもらいたくて。

―最近は、シルクスクリーンも使われていますよね?

素晴らしく才能あふれる女性作家と一緒に制作しています。私がデザインを考え、ケント州にある彼女のスタジオを訪ねてプリントしているのですが、神経を使う、大変な作業な作業です。ヴィンテージの女性の肖像写真を大きく引き伸ばしてプリントし、彼女の顔の上にグラフィカルなパターンのシルクスクリーンを重ねました。色のコンビネーションを変えて、計8種類作ったのですが、比べてみると、同じ女性を写した写真なのに、色によって写真の雰囲気や被写体の顔がまったく異なって見えるのがとても興味深かったです。

―今後の予定を教えてください。

今秋ロンドンのFlowers Galleryで個展を開催し、Chose Commune社から作品集が刊行される予定です。

Julie’s Tools

Julie’s Tools
コックバーンのスタジオに点在する、いろいろな道具や素材の一部を集めてもらった。中央には、彼女が最もよく使用するカラフルな刺繍糸。写真に傷をつけないように細心の注意が払われ、少しでも色が剥げたりすると絵の具で修正するという。ディテールへのこだわりが、精緻な作品を生み出すのだ。そのほかには、紙をカットしたり、コラージュするために使用するスカルペルやハサミ、細かい紙片を取るための綿棒、手作業が終わった後の作品をフラットにするためのローラーなども。スプレー糊は、作品を保護するため、裏に薄い布を貼るときに使われる。

ジュリー・コックバーン

ジュリー・コックバーン|Julie Cockburn
1966年、ロンドン生まれ。現在は、サフォーク州ウッドブリッジを拠点に活動する。セントラル・セント・マーチンズで彫刻を専攻し、学士号を取得。チェルシー・カレッジ・オブ・アーツでも美術を学んだ。作品は、美術館や個人のコレクションなど、世界中で所蔵されている。

*展示情報などは掲載当時のものです