How They Are Made

vol.16 畑直幸(IMA 2020 Summer Vol.32より転載)

24 September 2020

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畑直幸「生活とともにある美術を目指し、自然の中で写真表現を開拓する」 | 畑直幸

光とイメージの関係を考察するスティルライフ写真や、森をグレーに塗装した風景写真など、写真の視覚構造を問いかける実験的な作品に取り組む畑直幸。これらは山あいにある畑の自宅兼スタジオや敷地内の庭で作られている。東京で美容師として働いた後、オランダで写真を学び、5年前に家族とともに大分県へ移住した。制作を中心にしながら、時に自宅で営む美容室で近所の客を迎え、別府駅高架下の市場の一角で自身が運営するアートスペース「現実」では、定期的に作品を発表している。どんな場所でも自身のスタンスでユニークな活動を続ける、畑のスタジオを訪ねた。

IMA=文
畑直幸=写真

生活とともにある美術を目指し、自然の中で写真表現を開拓する

畑直幸

―近作はすべて、被写体や植物をグレーに塗っていますよね。グレーに色を塗ったきっかけは何ですか?

最初はオランダで勉強していた頃、絵画と写真の関係に興味があったので、壁に色を塗って写真に撮ったり、そこから派生して家具の素材の色を家具に塗って写真に撮っていました。それを日本でやっていて、ある時グレーのコンクリートをグレーに塗ってカラーで撮ってみたら、できあがったのがモノクロ写真のようだったんです。モノクロ写真って何の疑問もなく普通に受け入れてきたけど、これまで世界がモノクロだったことはなかったことに、当たり前ですけど、ハッと気づいたのがきっかけですね。そこから光や色の構造をもう一回考え直して、現在のような作品を作り始めました。色については、本当は光にはいろんな色が含まれているのに、この世界では透明にしか見えない。その光をもう一度可視化してみようと思ったんです。

―森の写真では、最近ではグレーに塗って撮るだけでなく、さらに照明を施して撮影されていますね。

時間が経つとグレーの森の中から本物の葉っぱがすぐ出てくるので、その状態で照明を当てています。本物の植物の緑はきれいな緑色に写っているけど、グレーに塗られた葉に反射した照明による緑色も混在して、一枚の中に同居しているのが面白いんです。

大分の山あいで生活しながら、自宅の一部をスタジオにしている。グレーに塗装している森も、自宅の敷地の一部。広い敷地に居を構えるからこそさまざまな実験ができる。

カラーフィルターとしてセロファンを用いた自作の照明器具。スタジオでの撮影の際は、さまざまなライティングを試行錯誤しながら使っている。

パソコンやプリンターが置いてある部屋の壁面からは、プリミティブなものに興味が出てきたという畑のアイデアソースが垣間見られる。飾ってある立体は、最近制作に没頭しているという石や木を組み合わせたミニマルな彫刻作品。

JR別府駅高架下にあるべっぷ駅市場内のアートスペース「現実」。商店街の空きスペースを使い、2018年10月から毎月3日間オープンし、定期的に展示を行っている。


―最近は石や木を使ったオブジェも作られているんですか?

撮影の被写体を作るためにやり始めたんですけど、余っていた小さい素材を組み合わせて、彫刻自体を作り始めちゃったんです。この1カ月は写真を撮らず、彫刻ばっかり作っていて、こんなことは初めてで、行く末は自分でもわからないのですが……。

―自然に囲まれて制作しながらも、作品が自然に寄っていないのが面白いですが、この彫刻は少し自然寄りに見えますね。

やっぱり4~5年田舎に住んで、井戸水を飲んで、自分が作った野菜を食べる生活を続けていると、細胞がすっかり入れ替わってしまったのかな。僕の中にある毒素が全部抜けきったのかもしれません(笑)。

―大分の自然の中で、制作スタイルにも影響があったと。

オランダにいた頃から、家の中で写真を作るのが好きなタイプだったので、制作スタイルはあんまり変わらないんですよね。留学中に思ったのは、オランダの美術大学でオランダの先生に教えてもらっていると、作品もオランダっぽくなること。そうしたときに、自分は田舎に行ったらどういうものを作り始めるのか、そこに興味があったと思います。

最近取り組んでいる彫刻の素材には、近所で拾ってきた石や木が使われている。

アートスペース「現実」の展示は、時に隣の店舗のシャッターまで拡張される。畑が語るように、ここでは異質なはずの美術が日常と商店街で同居している。

撮影スタジオの隣にある作業部屋にはたくさんのテストプリントが貼られ、精力的に制作していることがわかる。


―アートスペース「現実」はかなりローカルな商店街の中にあって驚きました。続けていくことで周囲の反応は変わりましたか?

響いてないかな(笑)。でも野菜とか肉を買いに来た人が暴力的にあの空間を見てしまう感じが、すごくいいなあと。鑑賞者を揺さぶることが、美術の面白さであり、重要なことだと思います。

―「現実」は、あの環境込みのプロジェクトですよね。目指すべきところはどこですか?

商店街に閉まっているスペースが結構あるので、趣味の手芸でもなんでも、みんなが開けて展示して、訪れる人が増えたら面白いですね。肉屋や魚屋に挟まれているからにおいもするし、人間臭さがあっていいんですよ。本来美術は生活にもっと身近なもののはずなのに、いまは分断されている。自分がプリミティブなものが好きな理由も、それらが人の生活に近いから。僕が自宅でやっている美容室も同じです。美容室っていまは都市にあって真っ白できれいなものだけど、家に併設されていて向こうから子供の声が聞こえてくる、そういう方がいいなと。それが自分の原点なのかもしれません。それに、定期的にアウトプットができる場所があるのはすごくありがたいです。美術と関係ない人たちに作品を見せることで、考えさせられる部分もあるし、何より作品を飾って自分が見ることでフィードバックできる。最近では東京に住むアーティストの人が「一緒にやりたい」と声をかけてくれるようになりました。まずは続けることが重要なので、これからもやっていきたいですね。

Naoyuki’s Tools

Naoyuki’s Tools
写真家とは思えないような工業製品の数々がそろう。一番大きい機械は塗装用のコンプレッサー。左上の写真のように、森やタイヤなどのオブジェにグレーの塗料を噴射するために用いる。塗料は珪藻土をベースにした自然由来のものを使っている。スタジオ内も広い敷地内でも、いたるところがグレーに塗られ、畑の実験場と化す。その上にはコンプレッサーを使う際に装着するための3Mのイヤーマフ、防塵マスクにキャップが並ぶ。右側にはマキタのインパクトドライバー、グラインダー、電動ドリルのほか、ペンチなどの工具がある。右下には立体や撮影用オブジェなどを接着する際に使用するグルーガン。これらの道具からは、写真撮影そのものや撮影後の作業よりも、その前のプロセスを重視し、フィジカルと直結した思考を覗くことができる。

畑直幸

畑直幸|Naoyuki Hata
1979年、岐阜県出身。2011年に第4回写真「1_WALL」グランプリ受賞。2014年、オランダのヘリット・リートフェルト・アカデミー卒業。個展に2012年「Pelletronnewno.4」(ガーディアン・ガーデン、東京)、2018年「MEAT MAN」(べっぷ駅市場、大分)など。主なグループ展に2 0 1 9 年「LUMIX MEETS BEYOND 2020 #7」などがある。今年11月にThe White(東京)で三人展を開催予定。

*展示情報などは掲載当時のものです