How They Are Made

vol.21 石塚元太良(IMA 2020 Autumn Vol.33より転載)

26 December 2020

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石塚元太良「アナログプリントのプロセスを知り尽くし、使いやすさを追求することで生まれる理想の暗室」 | 石塚元太良

8×10の大型カメラで、アラスカのパイプラインや、アメリカ西海岸のゴールドラッシュの跡地など、自然の中の人間の痕跡をスペクタクルにとらえる石塚元太良。大きなカメラを抱えて、時にはシーカヤックで氷河を撮影するなど、いまや全てが撮り尽くされたかと思うような時代に、自身の被写体を見つけては果敢に対峙する。大判フィルムの描写力を最大限生かすには、暗室でのプリント作業が肝となる。最近、プロラボの東京カラー工芸社(TCK)から譲り受けたという、重さ250kgもの大きな引き伸ばし機(Durst Optromat-CL)が存在感を放つ、アナログプリントへのこだわりを追求する石塚の、都内にある暗室を訪ねた。

IMA=文
高野ユリカ=写真

アナログプリントのプロセスを知り尽くし、使いやすさを追求することで生まれる理想の暗室

石塚元太良

フィルムによって使い分けている引き伸ばし機は合計4台、左奥にはプロセッサー(自動現像機)が3台置かれている。メインで使うプロセッサーはドイツ製。大全紙までプリント可能で、水洗までしてくれるもの。その配管も石塚自ら行った。テーブルも脚のみ発注し、天板を置いてDIYで制作。

冷凍室で大量の8×10フィルムを保存。富士フイルムが生産中止する際に、2000枚のネガフィルムを買い込み、残りは約1200枚だという。奥の壁面には多数の道具が、使い勝手よく配置されている。

オーディオ機器は、作業の妨げにならないよう、パネルの文字が光らないものを使用。積み上げられたトランクには、4×5の機材や照明機材などを収納している。

本棚も鉄のパーツを発注し、DIYで制作した。


―この暗室をつくったきっかけは何ですか?

ここは人生で8カ所目の暗室です。ずっと鎌倉に暗室があったんですが、いつも額装をお願いしているスガアートさんに来るたびに、ビルの地下1階にあるその場所がいいなと思っていました。駅にも高速道路にも近いし、東京では珍しい、湿気の少ない半地下の物件で。去年急に、同じフロアの部屋が空くよとスガアートさんに教えてもらって、すぐに大家さんと話して、夏から借り始めました。もともと天井が低かったんですが、TCKの引き伸ばし機を入れるために、自分で天井を抜いて巨大空間を作りました。壁を全部黒く塗って、配線をし、水道管を延長して、さらにダクトを買ってきてプロセッサーの上に伸ばして、換気扇を付けて。業者は入れず、知人に手伝ってもらって二人でやりましたね。いまは大学の同級生で松本在住の友人と、写真家の黄瀬麻以さん、森本美絵さんと使っています。共同にすることで、現像液や印画紙など、ランニングコストの部分では助かっています。僕は週に1~2回来て、ここで暗室作業以外にも展示の模型を作ったり、本を読んだりしている。プリントができたらすぐ隣に渡せばいいだけだし、すごく便利ですね。

―個人の暗室の域を超えて、ラボ並みの施設がそろっていますよね。

暗室のワークショップをやりたいと頼まれることもあるんですが、社会的状況で難しいですね。でも暗室機材が集まってきて、使っていないのがもう2台、さらに3台来ます。だからいまは暗室の空間を作るのにハマっちゃって(笑)、別の暗室空間を作ろうと画策中。暗室って目が慣れないまま暗闇に入っていく独特の体験です。かつての写真の魔術的な側面が残されている。

ライトボックスの上に8×10のネガを置き、まずはほこりをコンプレッサーで飛ばす。

日本に数台しかないというDurst Optromat-CLの操作パネルは宇宙船のよう。

水洗が必要な際に使うシンクは、アメリカで特注したもの。下面の凸凹によって紙を少し浮かせながら、左側の水出し口から理想的な水流を生み出す。

引き伸ばし前に、ルーペでネガのピントを合わせているところ。


―デジタルでデビューして、いまはアナログにのめり込まれていますが、その魅力は何でしょうか?

まず、8×10のプリントのクオリティと、作業過程の所作が魅力的でした。暗室作業には瞑想的なところがありますね。ラボに出すと金銭的に色味の指示ややり直しが簡単にできないし、自分好みに仕上げるためには自分で焼いた方がいい。自分で機械を分解して、どういうふうに動いているかを全部理解していると、『禅とオートバイ修理技術』(ロバート・M・パーシグ)ではないけれど、ロマン主義的に気持ちいいんです。それに比べてデジタルは仕組みを理解するのは難しいですよね。だけど写真技術ってデジタルを介さなければ、実は光学的・科学的に単純な技術で、撮影からプリントまでを自分で全部コントロールできるんです。

―一方でコントロールできないような、偶然性に期待する部分もありますか?

もちろんあります。特にフィルム写真は、撮ったその場で見られないから、こう撮ろうという作為を出しても、出来上がると全然違うことが多い。そのギャップによる驚きが、とても面白いんです。例えばこの小屋の写真、すごく空間がねじれてなかった?それは写真を撮るときにも、思いっきり被写界深度をねじっているから。後で見返したときに、自分の作為を超えていて、ピントが波状しているような、面白い写真ができたと感じました。一方、撮影を終えた後のプリントの作り込み作業に関しては、ネガの良さを最大限引き出したいから、もっと職人的なマインドでやっていますね。

―現在は、デジタルカメラやPC作業は一切行わないのですか?

新作ではデジタルを使っていたりもするけど、いまだに撮影の主力は8×10ですね。でも愛用している富士フイルムの大判フィルムが廃番になってしまって。8×10を撮るときは仕上がりを頭で計算してしまうので、自由に撮れないのはつまらなくもある。だから最近の作品では、思わず撮ったけど展示には向かない写真をプリントして、立体の作品を作りました。

―新型コロナウイルスで旅に行けない中で、撮影に変化はありましたか?

ものすごい変化がありましたが、逆に行けないことも楽しんでいます。来年は、ついにSteidlからアラスカのゴールドラッシュを撮影した写真集が出る予定なので、この暗室で入稿用のプリントを作っています。


Gentaro’s Tools

Gentaro’s Tools
8×10フィルムはほこりがつきやすいため、常にほこりとの格闘だという。ロケットのようなブロワーは、一番強い風が送れるもの。暗室には機械式のコンプレッサーも設置している。ルーペはネガの引き伸ばし時にピントを合わせるため。ヘッドライトは広い暗室を手探りで移動するために必ず着ける必須アイテム。ステンレスの定規とカッターは、印画紙を切るときに用いる。印画紙はコダックの発色が好みで、いつもは1.27×44mのロールで購入し、暗視スコープを使う専門業者にカットしてらうという。引き伸ばし機やプロセッサーはいまや製造中止のモデルが多く、壊れても新しいものに替えることはほぼ不可能だ。時にはパーツをドイツの製造元から取り寄せて、不調なときには機械を分解し、自分でメンテナンスする。常にDIY精神を持ち、自身も職人のようなストイックさで暗室に向き合っている石塚ならではの道具が並ぶ。

石塚元太良

石塚元太良|Gentaro Ishizuka
1977年、東京生まれ。10代の頃から世界を旅し始める。1999年に「Worldwidewonderful」でエプソンカラーイメージングコンテスト大賞受賞。2002年、「Worldwidewarp」でヴィジュアルアーツフォトアワード、日本写真協会新人賞を受賞。2007年『Pipeline Alaska』を刊行。『PIPELINE ICELAND/ALASKA』(2013年)で、東川写真新人賞を受賞。2016年、Steidl Book Award Japanでグランプリを受賞し、『GOLDRUSH ALASKA』を2021年にSteidlから刊行予定。

*展示情報などは掲載当時のものです