コミュニティとともに拡張する、ZINEコレクション
8-Ball Communityは、TOKYO ART BOOK FAIR 2019で、アメリカのZINEカルチャーを紹介する展覧会「Radical Pages」を企画した非営利のメディアコレクティブ。2012年に写真家のレレ・サヴェリと友人たちが、ニューヨークの小さなビリヤード場を盛り上げようとZINEのフェアを開催したことから始まり、現在は約50人のボランティアスタッフによってインディペンデント出版シーンを牽引する多岐にわたる活動が行われている。今回は、彼らの1万冊を超えるZINEのアーカイブについて話を聞いてみた。
創立者のひとりであるサヴェリにアーカイブを始めた経緯を尋ねると、2013年にブルックリンの地下鉄の駅構内にあった売店をそのまま使い、期間限定でZINEを販売した「The Newsstand」がきっかけだったという。「たくさんのアーティストが、自身が作ったZINEを持って来ました。私は、未来のためにさまざまな瞬間をドキュメントしたいと常に考えている作家なので、『The Newsstand』に寄贈されたすべてのZINEを保管することにしました。7カ月後、『The Newsstand』が終わる頃には、約1,000冊のZINEが集まり、それらを冗談で『MoMA Retrospective(ニューヨーク近代美術館の回顧)』と書いた箱に入れて自宅のベッドの下に保管したんです」とサヴェリ。するとその約1年後、実際にMoMAで「The Newsstand」を再現することとなり、アーカイブしていたZINEも展示。最終的には、そのすべてが同館の永久収蔵作品となり、彼らを一躍有名にした。サヴェリは、「これを機に自費出版のコレクションは、ほかの人たちにとっても価値があり、自分だけに留めておいてはいけないと思った」と記憶を遡る。
それから8-Ball Community 内に、 ZINEの収集を専門とするチームが作られた。彼らのもとに届くZINEに対する審査はなく、トム・サックスやピーター・サザーランドといった著名作家のZINEも、無名の若手作家のものも平等に扱われる。それらは、ジャンル毎に分けて保管され、その中でも写真のZINEが一番多く、全体の約4分の1を占めるという。8-Ball Communityのメンバーであり、まだ20代のアーティストであるバジルは、「自分が表現に用いるメディアの歴史を知ることは重要です。コレクションされたZINEを通して、それらを過去に作った著者と直接的に触れ合うような感覚を覚えます。それはオンラインでは出来ない体験」と話し、次世代がアート及びインディペンデント出版の歴史を知るための重要な資料としても役立っている。
彼らは、アーカイブを共有するためにアポイント制の図書館を運営するほか(現在は、引っ越したばかりのため休館中で年末にオープン予定)、アーカイブを用いた展覧会を世界各国で開催している。その好例のひとつとして、前述のTOKYO ART BOOK FAIRでのアメリカにおけるZINEの歴史を巡る展示が挙げられる。ZINEに綴られた写真、イラスト、詩などを通して、政治、社会的なメッセージ、パンクやクィアーなどのマイノリティカルチャーを日本のオーディエンスに届けた。また、会期中に彼らのもとに届けられたZINEをすべてニューヨークに持ち帰り、それらを現地のコミュニティと共有する。さまざまな都市で同じような循環を繰り返すことで、「今日のインディペンデント出版のスナップショットの集積」とサヴェリがいうコレクションが増加するとともに、国境を超えたコミュニティの輪も広がっているようだ。
エイトボール・コミュニティ|8-Ball Community
さまざまな年齢、性別、背景を持つ人たちの橋渡しとなる活動を通して、アーティストによるコミュニティを育成・支援する非営利団体。テレビ&ラジオステーション、出版社、自費出版のフェア、図書館、そしてアクティビズム関するレクチャーやワークショップなどを行う。
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