新たな視点から写真集の可能性を開拓する
デイヴィッド・ソロは、ボストンとニューヨークで過ごした子ども時代に切手やコイン、SF雑誌を収集し始め、その頃からコレクターとしての片鱗を見せていた。化学の教授で熱心なアマチュア写真家でもあった父親の影響を受けて写真には幼い頃から親しんで育ち、家には暗室があったという。「何かに興味を持ったら、参考文献として本を集めて、とことん研究したものです」。
コレクションを真剣に考え始めたのは、1990年代後半。1998年にニューヨークのAsia SocietyとPS1で開催された「Inside Out: New Chinese Art」、1997年にハーバード大学美術館で行われた「Worlds within Worlds: The Rosenblum Collection of Chinese Scholar’s Rocks」のふたつの展覧会に心を動かされて、ソロは進むべき方向を見いだす。特に後者には大いに触発され、古来から中国の学者たちの間で珍重されていた太湖石(中国の蘇州付近にある太湖周辺の丘陵から切り出される穴の多い複雑な形の奇石)のコレクションを始めた。
またこの時期には中国の伝統的な様式と西洋の抽象画の考え方を融合させた1990年代の実験的な現代水墨画も集め始める。そしてソロの興味の矛先は中国から日本へと広がり、「気に入った日本人作家の記録として写真集やアーティストブックを買うようになりました。ちょうどこの頃から、私にとって本は単なる参考文献ではなく、コレクションの対象になったのです」。この変化は、「個々の作品よりもプロジェクト全体に興味を惹かれるようになった」ことに後押しされている。「欲しいものリストを作るタイプのコレクターではありません」というソロのコレクションは、時代やテーマを絞って集めるのではなく、特定の作家への興味や写真集業界の人たちとの関係性から有機的に広がっていった。
近年では、ジェリー・バッジャーとマーティン・パーによる全3巻の『Photobook: A History』をはじめとする「本についての本」の分野が拡張している。ソロもその類いの本を数百冊も集めているが、まだまだこの分野は掘り下げられるという。「本自体の評価や批評ではなく、分類することばかりに焦点が当られてきました。しかも写真家の評価だけが注目されて、それ以外の要素が軽んじられているように思います。本の歴史をオルタナティブな視点から語る余地は、まだ十分にあるのではないでしょうか」。
この5年間にソロが主に収集しているのは、小説家と写真家によるコラボレーションや、写真家や編集者がイメージとテキストを組み合わせた本である。「テキストと写真の対話が秀逸な本に惹かれます。フォトテキストとかフォトポエトリーと呼ばれるそれらの本は、まだカテゴリーとして認知されていないため、書店に問い合わせると、大抵『そんなことを聞かれたのは初めてだ』といわれます。こういったリアクションも、未開拓のカテゴリーの本を収集する愉しみのひとつです」。
ソロは現在、オンラインと展覧会を通じて自分のコレクションを公開する方法を模索している。パンデミックの影響で計画の一部は保留になっているが、彼のコレクションが広く活用されるようになり、写真についての議論や研究の新しい分野が切り開かれていくとしたら、どんなに素晴らしいだろう。
文=マーク・フューステル
写真=市田小百合
IMA 2020 Autumn vol.33より転載
デイヴィッド・ソロ|David Solo
金融関係の仕事の傍ら、長年にわたってニューヨーク・ブルックリンを拠点とし、日本と中国の現代アートや写真の分野を中心に、アーティストブックや写真集を収集する。ニューヨークとロンドンの芸術機関と共同し、多くの写真集の出版やリサーチプロジェクトに携わるほか、Aperture Foundation、10×10 photobooks、Asia Art Archiveの理事を務める。
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