偉大な写真家ロバート・メイプルソープとのコラボレーションを発表したジュエリーブランドREPOSSI。クリエイティブ・ディレクターのガイア・レポシは、メイプルソープの写真にはブランドとして大切にしている包容力や強さ、自由などの現代的なメッセージを感じているという。レポシが共感し築き上げたこのコラボレーションは、一体どのように生まれ、制作されたのだろうか? このたび、ガイア・レポシへのインタビューを通して、メイプルソープの作品を新たに再解釈し、REPOSSIの持つ技術を駆使して蘇らせた美の真髄に迫る。
インタヴュー=IMA
─最初にロバート・メイプルソープの作品を知ったきっかけ、そしてコラボレーションに発展した経緯を教えて下さい。
ギャラリーのタデウス・ロパックというパリのギャラリーで行われていた、ソフィア・コッポラがキュレーションしたメイプルソープの展覧会に行き、写真を購入したことから関係が始まりました。彼の作品ビジュアルをブランドの公式インスタグラム、招待状、グリーティングカードなどに使うため、メイプルソープ財団に連絡を取るようになりました。そして4年前、メイプルソープがキャリア初期に制作していたオリジナルのジュエリーコレクションを再現するか、もしくはそれらを再解釈したジュエリーを作らないかと、財団から相談があったのです。
© Valerie Santagto
─メイプルソープの写真とREPOSSIのジュエリー、時代も国も文化もミディアムも異なるこの二つのものに共通することは何でしょう?
メイプルソープの写真は上品で、厳選されていて、そしてREPOSSIと同じような包容力と力強さ、自由という非常に深く隠された現代的なメッセージがある点だと思います。上品で優雅であることは、ジェンダーを超え、最も魅力的なマスキュリンとフェミニンのコンビネーションを生み出します。この美学と共鳴していることが、とても現代的だと感じています。
─写真とジュエリーの関係については、どのようにお考えですか?
写真はアイデンティティを表現するメディアであり、私が深く尊敬し、共感するものです。そして、私たちの時代と世代を映し出す現代の鏡でもあります。もし私たちがアイデンティティやメッセージを表現する必要があるのなら、写真というメディアは最適だと思います。それとは異なり、ジュエリーは応用芸術、アートであり、ジュエリー製作には、デザインセンスや知識はもちろん、技術やアイデア、コンセプトも必要です。
─メイプルソープ財団の持つアーカイブは、膨大な量だったと思います。作品を選ぶ作業や工程にはどんな気づきがありましたか?
実はこれまで、私はメイプルソープのジュエリーをよく知らなかったんです。ですから今回、4000点以上の彼の遺したオブジェを見て、リサーチを行い、インスピレーションを得る機会をもらいました。これは忘れられない経験です。私はメイプルソープの世界観にどっぷり浸かり、4日間もの時間をかけてそれらを分類し、ファイリングしました。その観察とリサーチから、彼には非常に明確な美学と特徴があり(カラーパレット、横向きの構図、ネックレスへのこだわり、民族文化からの参照など)、結果として、後の写真作品に登場するすべてのテーマがすでにそこにあったということがわかりました。
─メイプルソープのジュエリーを再解釈し、彼のスタイルと美学を維持しながら自身の作品に落とし込むにあたって、新しい発見や困難だった点などがあれば教えてください。
今回のコラボレーションでは制約はなく、自由なクリエイションを任されていたので、彼の作品を再解釈したり、既存のものを上手く作ったり、私はその両方をしました。REPOSSI / ROBERT MAPPLETHORPEコレクションの中には、オマージュとしてつくったトリビュートピース、また私が再解釈してつくったピースもあります。それはREPOSSIの職人たちの卓越した技術によって作られた、とても貴重な限定エディションであり、最高級のファインジュエリーです。メイプルソープは天才的な構成力を持っていて、具象的なものが好きでした。私はそうではなく、すべてを抽象化し、スタックやプリスタックの要素を使います。当コレクションの、バンドリング(”AMERICANA FLAG”のリング)やスタッキングリング(”JETTY”シリーズ)やそのシリーズでは、私のシグネチャーである要素をいくつか加えています。メイプルソープとREPOSSI、両方の美学を融合させ、彼のビジョンに最大限の敬意を表して、彼が選ぶであろうパレットを意識的に選びました。
─当時、メイプルソープが作っていたアクセサリーは「既製品や拾い集めたもの」など、いわばガラクタのようなチープなものや素材で作られていました。それを、対極ともいえるREPOSSIのようなハイジュエリーに昇華させるためには、どんな工夫が必要でしたか?
彼が拾い集めたもののベースは天才的で、プレパンクでユニセックスといった当時の彼のテーマやこだわりがすべて詰まっていました。私たちは、REPOSSIでも共通しているトライバルでパンクなジュエリーという情熱のもと、それらを上質な素材で変身させ、パターンやアイデアを再構築しました。難しかったのは、私がブランドの職人に依頼した品質と洗練された精巧さです。さまざまな工夫は、彼の偉大なレガシーに対して私が行うことのできる最大の賛辞であり敬意を表現できる名誉なことなのです。
─『IMA』vol.37は「環境」を特集します。レポシというブランドやあなたは環境へどんな取り組みをしていますか?
環境は未来であり、形跡でもあります。いま、私たちは行動を起こさなければならないと思います。私自身、オーガニック植物をベースにした食生活を15年以上続けていて、ブランドでは主催するイベントではヴィーガンのみを取り扱います。ジュエリーは、ファストファッションよりも持続可能であり、消費の穏やかなカテゴリーに入ります。私は、私たちの知名度やイメージを利用して、正しい言葉を広めるために、財団を支援していますし、まだまだやるべきことはたくさんあります。これはまだ始まりに過ぎません。
─最後にREPOSSIにとって、アートと交流することはどんな意味を持ちますか?
はじまりの場であり、こだわりです。
© David Sims
ガイア・レポシ|Gaia Repossi
1986年、イタリア、トリノ出身。ジュエリーに対し熱い情熱を持つ父と祖父のもとで育ち、2007年にREPOSSIのクリエイティブ・ディレクターに就任。パリの国立高等美術学校で絵画を学んだ後、考古学を専攻するなど、視覚芸術には幼少の頃から興味を持ち続けている。2011年には、アイコニックなBerbère(ベルベル)コレクションを発表。デザインの新しい形や着け方を提案し、メゾンを現代的な方向へ発展させている。
https://repossi.jp/