12 May 2023

リン・フィリス・ゼーガー インタヴュー
「リアルと仮想空間を行き来するこれからの写真」

12 May 2023

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リン・フィリス・ゼーガー  インタヴュー「リアルと仮想空間を行き来するこれからの写真」【IMA Vol.39特集】 | リン・フィリス・ゼーガー  インタヴュー「リアルと仮想空間を行き来するこれからの写真」【IMA Vol.39特集】

『IMA』vol.39の関連記事第1弾は、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートの博士課程で研究をしながら、iPhoneで撮影したイメージを用いて作家活動を続けるドイツ人アーティスト、リン・フィリス・ゼーガーへのインタヴュー。
掲載作品のタイトル〈0N0E〉とは「緯度0経度0」という意味で、地図上ではギニア湾に位置するが、写真や動画に位置情報をタグ付けする際にエラーが起こると表示される座標を指す。この架空の場所は「ヌル島」(実在しない架空の島)と呼ばれ、デジタル史上最も多くタグ付けされているという。ゼーガーは、「ヌル島」を、デジタルオーディエンスを意識して演出された自己と本当の自分、つまり公と私、また現実と想像の世界が混ざり合うスペースとしてとらえ、現代における新たなリアリティを探求している。プライベート空間でもあり、世界とつながるツールでもあるデジタルデバイスから生まれた写真が、私たちに語りかけるものとは?

インタヴュー・文=IMA

―まず、写真との出会いを教えてください。

私にとって写真は、幼少期からずっと身近にあるメディアです。14歳のときにアーティストが運営する非営利の写真ギャラリーでアシスタントとして働き始め、暗室でのプリント作業を習得しました。大学では写真を専攻したあと、メディアアートと映画も学んだのですが、だんだんプリントに対するフェティシズムやアナログな手法に嫌気が差してきたんです。それで10代の頃の写真との関わり方とも、大学で学んだ保守的でアカデミックな写真とも違う、より現代的な手法で写真作品を制作したいと思うようになりました。

―在籍中のロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートの博士課程では、どのような研究をしていますか?

InstagramのストーリーズやTikTokなど、オンライン上に物語形式で投稿される動画を主に研究しています。SNSのユーザーは自然災害、紛争、ミーム、猫、広告、ときには友人の遺書などの写真や動画をフィードで消費するのと並行して、自身の超個人的なコンテンツを投稿しています。見方を変えれば、私たちは投稿という無報酬の労働を行っているのではないでしょうか。個人的、そして世界的な問題が循環するデジタルネットワーク上でつながった人たちが、それぞれ果たす役割に関心があります。

―スクリーンショットを多用するようになった理由とは?

スクリーンショットは、安っぽいイメージとして認識されがちですが、ユーザーがオンラインコンテンツや個人的なチャットをアーカイブするために使われることが多く、まだその用途が制限されている点に魅力を感じています。私は毎日平均8~15時間携帯電話を使い、リアルな空間を移動するのと同じようにデジタルインターフェース上をさまよっています。私にとって、インターネット上の一瞬を切り取るスクリーンショットとは、写真的な行為なんです。SNSに写真や動画を投稿し、それらをスクリーンショットしてリサイクルすることに興味があります。また、インターフェースは写真が存在する建物やトポロジー(IT分野では複数の装置や機器を結ぶ配線を指す)としてとらえています。

―オンライン上に掲載した写真を使った〈0N0E〉は、写真集としてもまとめられていますね。

私はInstagramで複数のアカウントを持っていて、誰でも閲覧できるもの、匿名のもの、フォロワーのいないプライベート用などがあり、それらは私にとってスタジオのような場所です。〈0N0E〉に収録したイメージもさまざまなアカウントに投稿したイメージで、テキストはInstagramのダイレクトメッセージでの複数の人たちとのやりとりをスクショしたものです。私はこれまでもずっと写真集を作ってきたので、見開きで2枚のイメージを組み合わせ、お互いに呼応させるのが好きなんです。ソフトカバーの薄い写真集は、16枚のみの写真で構成しました。

―あなたにとって〈0N0E〉とは、どういう場所でしょうか?

〈0N0E〉というタイトルは「緯度0経度0」を意味し、その座標が指すのは「ヌル島」という架空の島です。実際はというと、大西洋にある何もない場所なのですが、数年前にこの島のことを知り、頭から離れなくなりました。〈0N0E〉には明確なストーリーはなく、Instagramというコミュニケーションツールが、どのようにしてユーザーに超個人的なコンテンツを発信したり、消費したりさせたりし、親しい人たちのみならず、見知らぬ人とのやりとりを促しているかを考察するエッセイのようなものです。

パスワードで保護され、パーソナライズされたスマートフォンのインターフェースは、私たちにとって最もプライベートで快適な空間です。しかし、スマートフォンを使ってオンライン上に作品を発表する私のようなアーティストは、作品だけでなく、私個人にもアクセスできると思われることがあります。一見コンセプチュアルな作品にも見えますが、根底にあるのは、SNS上でユーザーと交流する中で、親密さと恐怖の境界線が曖昧だと感じた自分自身の経験なんです。このシリーズでは、デジタル上の不安に言及しながらも、安全地帯を探求しています。それは、あなただけのヌル島のような場所なのですが、実在はしないのです。

―私たちの身体とデバイスの境界線が揺らぐ現代において、あなたの作品は新しいリアリティを可視化していると思います。私たちと写真との関係性は、今後どうなると考えていますか?

常に手に届くところに1台、もしくはそれ以上のデジタルデバイスが置かれている時代において、それらの機器は、すでに私たちの身体の延長上にあります。そのような状況に対する不安や恐怖もあると思いますが、それらは単なる道具ではなく、さまざまなところへつながる入り口であり、クリエイティブなパートナーでもあり、時には敵にもなります。制作を通して、現実と虚構、あるいはリアルと仮想の世界を区別することの難しさと向き合っていますが、まだ試行錯誤しながら二つの空間を行き来しています。

近年のAIが生成するイメージの進化によって、イメージに対する信頼は揺らいでいます。しかし、そもそも写真が真実を語るものとして信じられてきたこと自体が、非常に非合理的でした。誰もが写真は嘘をつくと知っていながらも、写真を信じようとしてきたのですから。現代のデジタル写真に対する不信感によって、写真は真実を写すというファンタジーからようやく解放されるのかもしれません。

リン・フィリス・ゼーガー︱Linn Phyllis Seeger
1995年、ドイツ、ケルン生まれ。現在は、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートの博士課程に在籍している。主にiPhoneで撮影したイメージを用いて、パスワードで保護された携帯電話の中にあるプライベート空間と、クラウドスペースというパブリック区間とを対比させる作品を数多く発表。情報化社会によって、どのように物理的・仮想的な環境が変化し、私たちに格差を生みだすかを研究している。

  • IMA 2023 Spring/Summer Vol.39

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    特集:混迷する世界を駆ける若き才能

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