Photobooks of the Month

現代の写真家の中でも最もよく知られ人気の高いロバード・フランクの第2冊目の写真集です。有名な『The Americans』のあと、映画の世界に向かっていたフランクが最初の写真集から10年以上経た1972年に出版したものが復刻されました。1940年代半ばのスイスで撮られた初期写真、ペルー、パリ、バレンシア、ロンドン、ウェールの旅のなかで撮られた写真、最終的に『The Americans』の形でまとめられ彼を有名にした1955～56年の合衆国を巡る旅からのコンタクトシート、さらに映画のスティル、フォト・コラージュなど、本書が出版された1972年までの各時代の作品がセレクトされ時系列で収録されています。この構成自体がフランクの人生のリズムを映し出すと同時に、日記のような短いテキストを組み込んで彼の声を伝えています。本書のスタイルは多くの写真家に影響を及ぼしたのみならず、現在も毎年ヴィジュアルダイアリー・シリーズを出し続けるロバート・フランク自身にとってのインスピレーション源になっています。

本書のオリジナルはアメリカの写真家ラルフ・ギブソンが主催するLustrum Pressから出版された版となります（日本の元村和彦が制作した版とは異なります）。この版は、その後ひと回りサイズを大きくしたハードカバーで1989年と1992年に再刊されましたが、今回の復刻はよりオリジナルのLustrum Pressの版に近い軽やかな形態となっています。

そしてLustrum Pressといえばロバード・フランクの『The Lines of My Hand』以外にもラリー・クラークの『Tulsa』など、いまでは20世紀のクラシックとされる写真集を世に送り出しているのですが、忘れてはならないのがラルフ・ギブソン自身最初の写真集『The Somnambulist』とそれに続く『Deja-Vu』『Days at Sea』です。1970年代前半に出版され初期の三部作と呼ばれるこの3冊は長らく絶版となっていましたが、昨年3冊を合本したような写真集が出版されました。ロバート・フランクの映画助手を務めたこともあるラルフ・ギブソンですが、その作品はロバート・フランクやラリー・クラークとは異なります。シュルレアルで暗示的なイメージが次々と現れ夢の中を漂うような、あるいは深層心理をのぞき見るような筋書きのない物語に見るものを引き込んでいきます。ひとつひとつのイメージのシャープで巧みな画面構成もラルフ・ギブソンならでは。この3部作を再び見ることができるのはとても嬉しいことです。

最後に、昨年「ツイン・ピークス The Return」が話題となったデビッド・リンチの新刊写真集が入荷しました。2007年、映画監督として知らぬ人はいないデビッド・リンチのアーティストとしての側面を強調して、パリのカルティエ現代美術財団が写真や絵画作品を含めた大回顧展を開催しカタログを出版しました。それから10年を経て再びカルティエ現代美術財団が送り出してきたのがデビッド・リンチによる大判ヌード写真集。それなりにヴォリュームのある本ですが、最初から最後まできっちりヌード写真集で、最初から最後まできっちりデビッド・リンチが詰まっています。この揺るぎない美意識…ファンの方は絶対「買い」だと思います。

Shelf
外苑前にあるブックショップ。写真集を中心とした洋書を専門に取り扱っており、店内には希少な本から絶版書までさまざまなジャンルの写真集が所狭しと並べられている。

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