東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文＝錦多希子（POST）
ある人物（たち）の生き様を映し出す写真集
イギリス出身の写真家、デイヴィッド・スペロによる現在進行中のプロジェクト「Settlements」は、イギリスを拠点とする小規模なコミュニティや個人にフォーカスをあてます。2004年から2015年の間に撮影された写真群が並ぶ本書には、持続可能性を考慮し環境への影響を最小限にとどめるため、慎ましいながらも地に足をつけた生き方を構築し模索しようとする彼らの暮らしぶりが映し出されます。定点観測を通じて、どのように発展し深化してきたのかが臨場感を伴って伝わってくるのです。自然を犠牲にすることよりも寄り添うことを選び、それを継続して実践する彼らの営みは、人それぞれ何に価値を置くかは千差万別であるとはいえ、モノや情報に溢れた現代社会を生きる私たちに多くの学びや再考のきっかけを与えてくれます。
| タイトル | デイヴィッド・スペロ『Settlements』 |
|---|---|
| 出版社 | 私家版 |
| 価格 | 8,800円＋tax |
| 発行年 | 2017年 |
| 仕様 | ハードカバー |
| URL | https://ja.twelve-books.com/products/settlements-by-david-spero |
20世紀における最も重要なアーティストの一人、ドナルド・ジャッド。ミニマルアートの旗手という印象が強いですが、実は（純粋なアートピースではなく）実用を想定した家具をデザインしていました。自宅での使用に適した既製品の調達が困難である状況下で必要に迫られたことに制作の端を発する彼の家具は、美術作品にも用いる無垢材・合板・金属といった素材が使われているものの、その成り立ちは全く異なります。流通を最小限にとどめることを選び、制作工程のほとんどが手作業でなされるこれらの家具を通じて、生産から流通までのなかで数多くの中間業者が多くの利益を享受するという既存の業界のあり方に対して一石投じています。彼なりの思想が色濃く顕れた、もうひとつの重要な要素なのです。
| タイトル | ドナ |
|---|---|
| 出版社 | Ikon Gallery, Birmingham／Pinakothek der Moderne, Munich |
| 価格 | 6,800円＋tax |
| 発行年 | 2011年 |
| 仕様 | ソフトカバー |
| URL |
フランス出身で現在はニューヨークを拠点とする写真家のフランソワ・アラールは、これまでに錚々たる画家や写真家のかつて暮らした自邸の内部空間を撮影してきましたが、本作ではソール・ライターの生前暮らしていたアパートメントを訪れました。かれこれ55年以上にわたりニューヨークのイースト・ヴィレッジに構えていたかつての居住空間には、家主こそ旅立ってしまったものの、その気配が濃密に遺されていました。ジャポニズムに象徴される日本画に大きな影響を受けていたというのも納得の、侘び寂びを彷彿させる空気感が広がっています。
ライターといえば、2017年にBunkamura（東京）で開催された展覧会が伊丹市立美術館（兵庫）に巡回しています。会期は5月20日（日）まで、見逃した方はぜひこの機会にご覧になってみてください。
| タイトル | フランソワ・アラール『Saul Leiter』 |
|---|---|
| 出版社 | Libraryman |
| 価格 | 6,800円＋tax |
| 発行年 | 2017年 |
| 仕様 | ハードカバー／クロス装丁 |
| URL | https://ja.twelve-books.com/products/saul-leiter-by-francois-halard |
POST（limArt Co., ltd）
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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