My Favorite Photobooks

vol.2 田中義久がおすすめする写真集3選

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東京都

27 November 2019

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田中義久がおすすめする写真集3選 | 田中義久

私物の写真集から3冊を選書してもらい、その魅力について話を聞く連載企画「My Favorite Photobooks」。第2回目のゲストは、グラフィックデザイナーとしてさまざまな分野の表現者と協働する一方で、彫刻家・飯田竜太とアーティストデュオ「Nerhol(ネルホル)」としても活動する田中義久を訪ねた。作品世界を汲み取り、必然性を伴った造本へと落とし込むブックデザインに定評のある田中が、自らの手元に迎え入れる写真集は一体どのようなものだろうか?選りすぐりの3冊からは、彼の写真集に対するまなざしが浮かび上がってきた。

文=錦 多希子
写真=アバロス村野敦子

テーマ:記録の力

「『いい本』というのはいくらでもありますが、心に訴えるのは、真っ直ぐなもの。小手先の技術ではなく、想いが肚(はら)から出ているものに興味があります。どのような本を作りたいかよりも、強い想いを原動力に作っていた60年代や70年代の写真集の中には、いいものがたくさんあります」。今回選んだ写真集は、日本の原風景をとらえた『日本の詩』、三里塚闘争を追い続けた『三里塚』、日本の下町を記録した『町』。主題こそさまざまだが、目の前の出来事と真摯に向かい合い、その時にしか撮れない時代が写っている。「被写体とシンプルに向き合った写真はわかりやすい。そして、それぞれの主題が写真集に明確に体現されています」。今回は、ドキュメンタリーの使命を実直に果たしている写真集の魅力を紐解いてもらった。

伝統的な建造物の建材、足袋や下駄、囲碁将棋といった、日本古来の造形美を余すことなく収録した本書は、バイエル薬品の贈呈品として制作されたもの。撮影を担当したのは、安井仲治から写真を学び、森山大道が師として仰いだ岩宮武二。対象と正面から向かいストレートに撮ることで、写真の強度を痛感する一冊だ。

田中は自らが本をデザインする際に、身体感覚に訴えてくる要素をどのように演出するか?という点において、ときに他者のデザインした本を参考にすることがあるという。「いろんなものを足してちょうど1となるように設計していることが大事。造本のディテールというより、この本だからこそのそれぞれの要素の必然性から生み出された、全体のバランスやたたずまいが肝です」。風合いのある布を表紙に用い、斬新な文字組みや写真のレイアウトが施されている一方で、簡易的なケースは外側をただ守るために、薄く安い紙でしつらえたようだ。刊行当時は、デザイナー・アーティスト・写真家といったように、専門的な各分野が今ほどには明確に分断されていなかった。この時代ならではの傾向が反映された装丁も非常に興味深い。

タイトル

岩宮武二・早川良雄『日本の詩』

出版社

美術出版社

企画・贈呈

バイエル薬品株式会社

発行年

1965年

仕様

ハードカバー(布製本)


例えどのような時代が来ようとも、写真がもつ記録の力は薄れないだろうと語る田中。浜口タカシの写真集『反体制派』(2016年、禅フォトギャラリー)をデザインするにあたり、浜口の取り組みを知る過程で本書と出逢ったという。1966年、三里塚・芝山地区が成田国際空港建設地として閣議決定されると、地元の農民たちから反対運動が起こり、政府との間で激しく衝突した。濱口は1967年から10年に渡って現場の最前線を追い続けた。

「いまの時代でもそうですが、めまぐるしく事件がおきる中で、写真家はどれだけそれに向き合う瞬発力を持っているかが大切だと思います。ただ起こったことを撮ればいいというわけではありません。浜口さんは、その被写体や出来事に近い場所にいなければ撮れないものを撮っています。ネタ探しに躍起になるような報道ではなく、何十年にもわたって向き合ったからこその視点がよく現れています。そういう強さに、一番感情が揺さぶられます」。薄く光沢がある簡素な紙に、裁ち落としの写真がひたすら続いてゆく。その愚直さ、てらいのなさが「三里塚」という内容と呼応する。生涯をかけなければ撮ることのできないドキュメンタリーの強さを感じることの出来る一冊だ。

タイトル

浜口タカシ『ドキュメント 10年の歴史 三里塚: 浜口タカシ報道写真集』

出版社

日本写真企画

発行年

1977年

仕様

ハードカバー


「都市」を撮り続けたことで知られる高梨豊によるこの大判の写真集は、タイトルが物語るとおり、終始「町」を撮影することに徹している。第二次世界大戦後で、奇跡的に戦果を免れた東京の下町に民家が立ち代わり登場する。「モニュメンタルな建造物をこうした手法で撮るのはみんなやっているけれど、ここに写されているのはあくまで下町の日常。そこに住んでいる庶民の家を丁寧に、これだけの大判で撮りためていることに価値があると思います」。

「町」というストレートなタイトルに、余白なしのレイアウト。そして、下町の工場で作られたであろう函も、当時の雰囲気を反映することに一役買っている。「この一気通貫したデザインがいいですね」。現代では到底実現しえない、贅沢な企画であり造本。印刷技術の過渡期だから生まれた、サイズ・内容ともに規格外の大胆な本書を手に取りながら、当時の時代背景に思いを馳せる。

タイトル

高梨豊『高梨豊写真集 町』

出版社

朝日出版社

発行年

1977年

仕様

ハードカバー(スリーブケース、冊子付)

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田中義久 | Yoshihisa Tanaka
(アートディレクター、グラフィックデザイナー、Nerhol

1980年静岡県浜松市生まれ。近年の仕事に東京都写真美術館を始めとした文化施設のVI計画、ブックショップ「POST」、出版社「CASE」の共同経営、『The Tokyo Art Book Fair』、『アニッシュ・カプーア IN 別府』、『Takeo Paper Show』などのアートディレクションがある。また、飯田竜太(彫刻家)とのアーティストデュオ「Nerhol」としても活動し、主な個展に『Index』Foam Photography Museum(オランダ)、『Promenade』金沢21世紀美術館、『Interview,Portrait,House and Room』Youngeun Museum Contemporary Art(韓国)などある。
www.nerhol.com