Interview
Naoyuki Hata

畑直幸インタヴュー
写真と絵画のあいだをブリッジするもの

15 November 2019

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畑直幸インタヴュー「写真と絵画のあいだをブリッジするもの」 | 畑直幸

今年もアムステルダム、パリ、東京の3都市を巡回中の写真展「LUMIX MEETS BEYOND 2020 by Japanese Photographers #7」。撮り下ろし作家として参加している畑直幸は、オランダのヘリット・リートフェルト・アカデミーを卒業後、現在は大分を拠点に活動中だ。オブジェに色をペイントするなど、ユニークな手法で写真を作りながら、脳がどのようにイメージを感知するかを考察している。「BEYOND 2020」出品作では、風景をモノクロに塗ることで、カラー写真とモノクロ写真の間にあるものは何かを問いかける。これまでの思考の変遷を辿りながら、これらの作品が生まれてきた背景を探った。

インタヴュー・構成=若山満大
写真=白井晴幸

―畑さんは写真を始める前、美容師だったそうですね。

はい。でも、初めはこの仕事向いてないなと思っていましたね(笑)。それでも仕事を続けていたのは、髪を造形することの楽しさがあったからでした。

―写真を始めたきっかけは何だったんですか?

ヘアメイクは、最終的にモデルを写真に収めて完結するみたいなところがあって。それで自分も最初は、モデルの撮影を写真家に依頼していました。でも、自分の思った通りにはなかなか撮ってもらえないんですよね。だから、自分で撮り始めたんです。最初はセオリーに忠実なライティングで撮っていたんですが、そのうち屋外に出たりとか、モデルに頭をわーっと振ってもらってその一瞬を撮るとか、いろいろやり始めました。そうすると、だんだん「写真ってなんだろう。面白いな」って思えてきたんですよね。それで最終的には、モデルもいないのに写真を撮り出しちゃったりして(笑)。仕事の休憩時間に「ちょっと写真撮ってきます」なんていいながら。

―いよいよ美容師かどうか、あやしくなってきましたね(笑)

そのあたりから完全に、自分のやりたいことと仕事が一致しなくなってきましたね(笑)。もちろんそれは、自分にとって苦しい時期でもありました。それで思い立ってホンマタカシさんのワークショップに参加したんです。すると、いままで美容師として「こんなことやっていいんだろうか」と思って撮っていた写真が、「こんなこともできるんだ、もっとやっていいんだ」と思えるものに変わっていきました。それはとてもいい経験だったと思っています。写真の歴史と技術を知って、どっぷりハマっていきましたね。

―海外で写真を学ぶことを決めたのはその頃ですか?

そうですね。写真を含めたアートのことを学びたいと思って、美大進学を考え始めました。そのことをホンマさんに話したら「畑くんももういい歳なんだから、海外でもいったら?」と進められたんです。そのとき僕は30歳を過ぎていました。ドイツとオランダを勧められたんですが、最終的にはオランダのヘリット・リートフェルト・アカデミーに進学することになりました。

―同じ頃、「1_WALL」のグランプリを獲得されて、初個展「Pelletron new no.4」を開催されていますね。グランプリを取った作品は水槽に沈めた風景写真を再撮影するというシリーズでした。どういうところから着想したんですか?

ホンマさんのワークショップで「写真を加工してみよう」という課題が出されたんですよ。方法はさまざまあるわけですが、加工ってだいたいの場合、構築的になりがちですよね。ヘアメイクも同じで、あれをして、これをしてって足し算の発想で髪を加工していくわけですよ。自分のイメージを作り上げていく作業というか。でも、それを超えたところに行くために写真をやり始めた以上、一般的な意味での加工をしたんじゃヘアメイクと同じというか、面白くないよなと思ったんです。そこで写真を燃やして、それを撮ることにしました。自分が1から10まで作っていくんじゃなくて、自分じゃない何かを作品の中に招き入れたい。あるいは、すでに出来上がった画像を燃やして0へと戻っていく過程を撮る。そういう考え方で写真を撮るのはすごく面白いなと。それをホンマさんに見せたら「こんな感じでほかにも何かやってみてよ」といわれたので、今度は水に沈めてみようと思ったんです。火で燃やしたから、次は水か、みたいな(笑)。

「Burn」(2010年)より

「Burn」(2010年)より

「Burn」(2010年)より

「submerge garden」(2010年)より

「submerge garden」(2010年)より

「submerge garden」(2010年)より

「Pelletron new no.4」(2011年)より

「Pelletron new no.4」(2011年)より

「Pelletron new no.4」(2011年)より


―意図しないものを作れた方が面白いと?

はい、自分が想像もしなかったものが出来上がるということに快感を覚えますね。自分がコントロールできないもののほうが魅力的に思えます。全部コントロールできるから写真は面白いという見方も当然あるだろうし、否定はしませんが、僕はそれとは違う立場かな。

―全部コントロールすれば自分の思った通りのものはできるけど、その代わり、面白みはなくなりますよね。そこは反比例する。

写真のピークは1枚目なんじゃないかと思う事がよくあります。気になるものをパッと反射的に撮ったものは、そのままで割と面白いんですよね。それに手を加えていくと、最初に感じた「あの」面白さはしぼんでいっちゃうんです。手を加えて構築していった先にあるのは「自分が知っているもの」ですからね。自分の知らないものは作れないし。自分の価値観が更新されないから、新しい面白さにも出会えないですよね。自分でコントロールすることを敢えて避けるのは、自分の予想を超えたものと出会いたいからなんでしょうね。

ヘリット・リートフェルト・アカデミー在学中の作品「Dry landscape garden」(2013年)より

ヘリット・リートフェルト・アカデミー在学中の作品「Dry landscape garden」(2013年)より

ヘリット・リートフェルト・アカデミー在学中の作品「Dry landscape garden」(2013年)より

ヘリット・リートフェルト・アカデミー在学中の作品「Concrete Landscape」(2013年)より

ヘリット・リートフェルト・アカデミー在学中の作品「Concrete Landscape」(2013年)より

ヘリット・リートフェルト・アカデミー在学中の作品「Concrete Landscape」(2013年)より


―一方で、畑さんは充分に作り込んだ状況を写真に収めたりしていますよね。そこにはどんな面白さがあるんでしょうか?

やはりそれも同じで、自分の意図を写真が超えてくるから面白いんです。僕はこのところ、物に色を塗って、それを撮っています。作っている時に見えているものと、撮った写真の中に見えているものは不可避的にズレるので、そこに毎回気づきがあります。「果たして自分は何を見ていたんだろう」っていう疑問を延々追求しているような感じですね。

―物に色を塗るのは、どんなきっかけで始まったんですか?

留学中、アムステルダムにある建築の表面をテーマに写真を撮っていました。でも、雨が降るとそれができない。それでしかたなく、今日は自分の家の中でも撮るか、となったんです。僕のアパートの壁は、前の住人が自分で塗ったらしく、ムラがひどかったんです。でも、そのムラのある表面が絵画みたいだなって思えて。だったら、ということで、さらにその上から自分で色を塗ってみたんです。いろいろ試した結果、絵画のような写真ができました。

最初にアパートの壁を塗った写真

最初にアパートの壁を塗った写真


―なるほど、絵画と写真が不意につながったわけですね。

はい。一方で、写真に撮られた絵画というものもあります。絵画のような写真が撮れた後に気になったのはそこでした。ある時、美術館でフェルメールの絵を観たんです。その後、画集の中で同じ絵の写真を見たら、実物を見たときは気にも留めなかった絵具のヒビが異常に気になりました。僕たちは、フェルメールの絵の実物も写真も「同じもの」だと認識できる。でも、二つの体験をよくよく比較すれば、絵と写真は「別のもの」だと気づきます。

―たしかに。そうですね。

気になっているのは、別のものと同じものをつないでいる「何か」です。絵画と写真のあいだに現れる「不思議な感じ」というか。

―そのあいだをブリッジしているのが、おそらく「イメージ」と呼ばれているものなんでしょうね。

そうですね。例えばモノクロ写真は現実の忠実な描写ですが、人間がモノクロームの世界を見ていたことなんて一度もないわけですよ。それでも僕らは、モノクロ写真の中に「色のついた景色」を見ている。この「あいだ」を、僕たちはイメージというものの働きによって補完している。

今回「BEYOND 2020」で発表した「Ashen」シリーズでは、一部をトリプティックとして展示しています。これは襖絵を見るときの体験が元になっています。襖絵は必ず建具の枠によって寸断されますが、僕らは切れてしまった絵を切れてないものとして見ようとしますよね。建具の枠によってできてしまった「あいだ」を埋めるとき、僕たちの中にイメージと呼ばれるものが現れる。トリプティックにしたのは、額縁によって写真に「切れ目」を入れるためです。実は、三つの絵はもともとつながっていないんですが、黒い額縁があるとそこを補完しようとするせいか、自然と三つをつながったものとして見ちゃうんですよね。その体験が自分にとってはとても不思議で、面白いものに思えたんです。

写真と絵画のあいだだったり、襖絵の鑑賞だったり、いろいろなところから着想を得ているんですが、僕は飽き性だから、次はまた全然違うことをやり始めると思います(笑)。でも、見るという体験それ自体について考えているという意味では、わりと自分の制作は一貫しているんだと思っています。それはおそらく、写真でしかできないことなんだと思いますね。

「Ashen」(2019)より

「Ashen」(2019)より

「Ashen」(2019)より

「Ashen」(2019)より

IMA galleryで開催した「LUMIX MEETS BEYOND 2020 by Japanese Photographers #7」東京展の展覧会風景。

IMA galleryで開催した「LUMIX MEETS BEYOND 2020 by Japanese Photographers #7」東京展の展覧会風景。

タイトル

「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #7」

会期

2019年11月6日(水)~11月23日(土)

会場

Galerie Nicolas Deman(フランス)

時間

11:00~19:00

URL

http://beyond2020.jp/

畑直幸|Naoyuki Hata
1979年、岐阜県出身。2011年に第4回写真”1_WALL” グランプリを受賞。2014にGerrit Rietveld Academie(アムステルダム)卒業。個展に2012年「Pelletron new no.4」(ガーディアン・ガーデン、東京)、2018年「MEAT MAN」(べっぷ駅市場、大分)がある。主なグループ展に2014年「UNSEEN Photo festival」 (アムステルダム)、2019年「Genjitsu Exhibition 1 ~ on going”」(べっぷ駅市場、大分)などがある。