My Favorite Photobooks

vol.3 野村友里がおすすめする写真集3選

9 March 2020

Share

野村友里がおすすめする写真集3選 | 野村友里

私物の写真集のなかから3冊を選書してもらい、設定したテーマやセレクトした1冊ごとの魅力について本人に話を聞く連載企画「My Favorite Photobooks」。第3回は、「eatrip」を主宰し、レストランを営みながら、執筆、イベントの企画や映画監督に至るまで、「食」にまつわる多彩な活動を展開する野村友里を訪ねた。劇的に変化し続ける東京に身を置きながら、「大地/土」に着目し「循環」をテーマに新たに「eatrip soil」をスタートした野村は、いまどのような視点で写真集を見ているのだろうか。多岐にわたる蔵書のなかから選んでもらった3冊は、いずれも彼女の核をかたちづくるものだった。

文=錦多希子
写真=高野ユリカ

テーマ:「いま」と「これから」をつなぐ架け橋となる写真集

自身が最初に写真を意識したのは、意外にもロバート・キャパが戦場で撮影した報道写真だったという。以後、忘れてはいけない事実を教えてくれる記録的な写真、あるいは知らなかった世界をみせてくれるような写真に感銘を受けてきた。最近では年齢を重ねるなかで自らの視点や感覚も変化し、日常を切り取りながらも、撮影者の個人的な視点が光る部分に惹かれるのだという。「写真集はインスピレーションを受けるものであり、豊かな心を養うこともできます」と、今回選んだ写真集は、伝説的なレストランの日常的な風景を印象深く切り取った『CHEZ PANISSE』、大自然のいとなみにその生涯を捧げた写真家の視点に迫る『星野道夫の宇宙』、1964年オリンピック前の東京の風景をとらえた『TOKYO 1961』の3冊。いずれも撮影したその場の空気や時代が色濃く伝わってくる写真集が揃った。

20年以上続く野村の活動のなかで、カリフォルニアの伝説的なレストラン「シェ・パニーズ」での時間は欠かすことはできない経験だったという。映画『eatrip』の撮影後、単身で赴き現場で働いた。「行ってみたら居場所を見つけてしまった。ここで語りつくせないほどの学びを得ました」。生産者に対する敬意に満ち溢れたこの場所では、食材、さまざまな業種の職人たち、もちろん調理スタッフまで、すべてが主役だ。手作りの内装が心地いい空間の中、光が美しい夕方の「マジックアワー」には、みな手を止めて夕陽を眺めるなど、日常の一瞬への尊いまなざしが息づいている。多様な価値観を受容し、誇りを持って働く美意識を身を以て体験した野村からみても、現場に溶け込みながらその光や匂いまでも切り取る本書の写真家アマンダ・マルサリスの姿勢には感銘を受けるという。「ひとりのひととして働いている視点ですよね。言葉がないぶん、感覚で伝えられる。大きな判型、感触のある紙質などざっくりとした造本が、カリフォルニアならではの空気感を体感させてくれます」。

タイトル

『CHEZ PANISSE』

発行年

2016年

仕様

ソフトカバー+ダストジャケット/2,000部限定

URL

http://www.chezpanissephotobook.com/


稀代の探検家としても広く知られている写真家・星野道夫の没後に、全国巡回写真展「星野道夫の宇宙」が開催された。本展の図録である本書は、野生動物たちのダイナミックなありさま、雄大な自然の景観を目の当たりにした星野の視点がミクロからマクロへと移り、その両方があってこその作品世界を形成している。写真のみならず、自身が綴る言葉がともに収録されていることにより、全編を通じて本人の人柄がにじみ出ているようだ。「昔から星野さんの写真が好きで、写真集はこのほかにも持っています。こういう写真はずっとその場にいないと撮れないものだから、みていて嬉しくなります。気が向いたときにひらくといいですね。雄大で厳しい自然に向き合う彼の文を読んでいると、人間の小ささを思い知らされます。たとえ嫌なことがあったとしても、その悩みすらちっぽけなものだと忘れられるんです」。

タイトル

『星野道夫の宇宙』

出版社

朝日新聞社事業本部

発行年

2003年

仕様

ソフトカバー


「定期的に写真やアートに触れることは、自分のことをよく知る機会にもなります。共感し同調するだけでなく、相反するものによって感情を揺さぶられることが大事なときもありますよね」。そう語りながら紹介してくれたのは、ウィリアム・クラインの不朽の名作『TOKYO 1961』。1964年の東京オリンピックからさかのぼること3年、1961年のこの街をとらえていた写真家は、昭和天皇皇后両陛下の姿や、街にネオンボードが林立していくようすなど、東京という街の混沌としたエネルギーに迫る。存命の書道家・篠田桃紅なども被写体として登場し、貴重な時代の記録そのものだ。在りし日の東京の景色を、野村はどのようなまなざしで見つめるのだろうか?「記録としてすさまじいものがありますよね。現在の東京も劇的な建て替えが進み、まるで細胞が生まれ変わるような勢いを感じます。私たちが生きる今もやがて過去となったとき、どうジャッジされるかわかりません。今、このタイミングだからこそ、この写真集の価値があると思います」。

タイトル

『TOKYO 1961 (New Edition)』

出版社

Akio Nagasawa Publishing

発行年

2014年

仕様

ハードカバー/限定版1,000部限定/サイン・ナンバー入

URL

https://www.akionagasawa.com/jp/shop/books/akionagasawa/tokyo-1961-new-edition/

野村友里

野村友里|Yuri Nomura
料理人、「eatrip」主宰。主な活動に、レセプションパーティーなどのケータリングフードの演出、料理教室、雑誌の連載、ラジオ番組など。2009年、初の監督作品『eatrip』を公開。2011年、「シェ・パニース」のシェフたちとともに、参加型の食とアートのイベント「OPEN harvest」を開催。その経験を経て日本のシェフたちとともに「nomadic kitchen」プロジェクトをスタート。2012年に原宿で「restaurant eatrip」を、2019年に表参道で「eatrip soil」をオープン。著書に『eatlip gift』『春夏秋冬 おいしい手帖』(マガジンハウス)、『Tokyo Eatrip』(講談社)、共著に『TASTY OF LIFE』(青幻舎)がある。