29 January 2021

山縣良和がおすすめする写真集3選

My Favorite Photobooks vol.5

29 January 2021

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山縣良和がおすすめする写真集3選 | 山縣良和

私物の写真集から選書してもらい、その魅力について話を聞く連載企画「My Favorite Photobooks」。第5回目のゲストは、「writtenafterwards」デザイナーの山縣良和。ファッションを学ぶ「ここのがっこう」の運営や、10代向けのクリエイティブスクール「GAKU」のディレクションなど、ひとつのジャンルに留まらない表現の学びを広げる活動にも意欲的に取り組んでいる。今回は、それぞれ異なる方法で「土地」と密接に結びついた表現に取り組む写真家の作品集を、自身のクリエイションや教育の活動とも結びつけながら紹介してくれた。

文=村上由鶴
写真=広光

山縣良和

テーマ:土地が紡ぐ物語

「ファッションを勉強すればするほど、結局、見えてくるのは、その土地なんです。例えば民族衣装は、そこで採れる植物の繊維や動物由来の糸を使って生地を作ります。柄もその土地で育っている植物だったりするんですよね。また、湿度や水によって生地の風合いも変わります。服のかたちもその土地での必要性から生まれてきている」。そう話す山縣が今回選んだ写真集は、2017-18年に横浜美術館で行われた石内都の個展の図録『肌理と写真』、鳥取地方への愛着をピクトリアルな手法で表現した植田正治『SHOJI UEDA』と塩谷定好『海鳴りの風景』、そして、北釜の土地と自らの人生の痕跡を結びつける志賀理江子『螺旋海岸|album』。彼女ら彼らは、土地を単なる暮らしの基盤としてではなく、それぞれの制作に、そして人生に反映させた写真家たちだ。

石内都は群馬県の桐生市出身。世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」が位置する地域でもある。また、石内は多摩美術大学のデザイン科で染織を学び、その後独学で写真を始めた。「ひろしま」や「フリーダ・カーロ」のシリーズをはじめとした作品における、服の記憶や女性の皮膚や傷跡といったモチーフや彼女のルーツから、山縣は本質的なファッションを感じるという。『肌理と写真』は「肌理(きめ)」という観点から石内の約40年の活動を一挙に見返すことができる1冊。山縣は、石内から聞いたというこの展覧会タイトルにまつわる逸話を話してくれた。「石内さんは、この展覧会のときにはじめてタイトルに『写真』という言葉を使った、これまではその言葉を使って来なかったとお話しされていました。私がこれまでずっとやってきたのは『写真』ではなくて『肌理』なんだと仰っていたのが印象的だった」。

普段から写真集やアートブックを頻繁に購入するという山縣だが、自身のクリエイションに活かすだけでなく、主宰する学校で学生に紹介する目的も大きいという。「僕は『ここのがっこう』というファッションの学校をやっているんですが、ファッションの勉強と言うと服作りや展示会やファッションショーをやるということになりがちです。でも、ファッションだけを勉強してファッションを表現することがすべてではない。石内さんは自然にされていると思いますが、自分の中に核となる表現したいことがあって、それを写真や服などの方法で表現する、石内さんの場合はそれが「肌理」だった。しかしそれを発見するのが一番重要で難しいことだと思います。学生にもそれを伝えたい」。ファッションと写真といったメディアごとのジャンルでは分類することのできない石内の表現の純粋さと一貫性を感じる1冊だ。

石内都 肌理と写真

石内都 肌理と写真

タイトル

『石内都 肌理と写真』

出版社

求龍堂

発行年

2017年

仕様

ハードカバー

URL

https://www.kyuryudo.co.jp/shopdetail/000000001374/


山縣は、同郷の鳥取県出身の植田正治と彼が師と仰ぐ塩谷定好の写真集から「素朴なファンタジー」を感じると話す。この2冊は山陰を代表する写真家として、2人は対となる存在だという。1984年に刊行された塩谷定好『海鳴りの風景』は、鳥取の風景やそこでの暮らしが、まるで絵画のように収められている。『SHOJI UEDA』は、未発表作品を含むモノクロとカラーの写真が織り交ぜられ、珍しいカラーのスティルライフや、ソフトフォーカスの写真が収録されている。両者ともにピクトリアリズム(絵画主義写真)の写真家であり、幻想的なソフトフォーカスの写真が印象的だ。「植田さんも塩谷さんも山陰の空気じゃないと撮らないとおっしゃっている方々で、まさに塩谷さんのこの写真集は鳥取の原風景です。鳥取の西側は出雲大社が近いので、神様が集まる場所が近くにあるから妖怪もたくさん集まってくる。だからそういう神話もたくさんあるんです。そこで生まれてきているのが、小泉八雲だったり水木しげるだったりする。植田さんの『小狐登場』は、まさに山陰の土地性から出てきている素朴だけどファンタジー性のある表現だと思います」。植田や塩谷がフィルムへの技術的な工夫を凝らして作り出すやわらかなイメージは、土着的なファンタジーを可視化している。「リアリズムを代表する土門拳さんや木村伊兵衛さんはそれぞれに賞もあってその後も脈々と続いてきていますが、植田さんと塩谷さんは永遠のアマチュアカメラマンと名乗っているように、写真に遊び心があって素朴ですよね。日本のピクトリアリズムの重要な二人が鳥取から出ているというのはおもしろいですよね」。

海鳴りの風景

タイトル

『海鳴りの風景』

出版社

ニッコールクラブ

発行年

1984年

仕様

ソフトカバー

タイトル

『SHOJI UEDA』

出版社

Chose Commune

発行年

2016年

仕様

ハードカバー


志賀理江子が2008年から暮らしていた宮城県の北釜地区は、東日本大震災の際、津波で甚大な被害を受けた地域である。『螺旋海岸|album』は、被災を経てより一層北釜の土地と彼女の身体を近づけるために、彼女自身から生まれるイメージを具現化した作品だ。ぬいぐるみが山積みにされた写真ほか、ファンタジーでありながらどこか戦慄させるようなイメージは、山縣のファッションブランド「writtenafterwards」のコレクションも想起させる。「志賀さんはほぼ同世代。きちんとお会いしたことはないんですが、おそらく同時期にロンドンで学んでいたと思うんです。どこまでがリアルでどこまでを志賀さんが作り上げているのかがわからない。そこがすごいなと思っています。でも、単にアイデアやファンタジーをその土地に持って行っているのではなく、その土地に滞在したリアリティがないと撮れない写真だと感じますね」。山縣は、写真家の人生のストーリーに入っていけるような作品に惹かれるという。まさに『螺旋海岸』は土地と写真家の協同で紡がれた物語だ。「志賀さんはいつかご一緒したいと思い続けてきた写真家のお一人です。その様な機会が叶うことを願っています。」

山縣良和

タイトル

『螺旋海岸|album』

出版社

赤々舎

発行年

2013年

仕様

ハードカバー

URL

http://www.akaaka.com/publishing/books/bk-shiga-album.html

山縣良和|Yoshikazu Yamagata
2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学を卒業。在学中にジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。2007年にリトゥンアフターワーズを設立。2008年より東京コレクションに参加。2014年に毎日ファッション大賞特別賞を受賞。2015年には日本人として初めてLVMHプライズのセミファイナリストにノミネート。またファッション表現の実験と学びの場として、2008年より「ここのがっこう」を主宰。2019年にはThe Business of Fashion が主催するBOF500に選出。

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