2021年は誰の写真集を買おうかな?どんな作家に出会えるかな?とワクワクしてみませんか。国内の4つの書店に今年注目したい若手写真家の写真集3冊を教えてもらった。鍛え抜かれた審美眼で写真集をセレクトするお店だからこそ、それぞれ注目する理由があるはず。第2弾は写真集の古書から新刊まで、写真集を専門に揃えるbook obscura。アートブックやリトルプレスも取り扱い、新たな作品との出会いを発信し続ける書店が今年推したい写真集を見てみよう。
セレクト・文=黒﨑由衣(book obscuraオーナー)
ジャック・デイヴィソン『PHOTOGRAPHS』
本書を初めて開いたときにとても古風だけど新鮮で、落ち着き払った伝統ある大御所感が漂い、私はこんな凄い人を見逃していたのかなと思ったら、まさかの1990年生まれと判明して私の中で数秒時が止まりました。この本には写真の初期である1800年代の写真家をはじめ、多くの先人がまだ存命しているのかと勘違いしてしまう程に、彼らのエッセンスが散りばめられています。ジャック・デイヴィソンがこれを16歳の時から撮影していたと思うと、どう写真集を読んだら成し遂げられるのか恐怖にかられました。古い写真はその時代だから良かったのだと思ってしまう時がありますが、現代で成し遂げている彼の作品を見ると「写真美」とは何百年経った世界でも通用するものなのだと思いました。
タイトル | ジャック・デイヴィソン『Photographs』 |
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出版社 | Loose Joints |
価格 | 6,800円+tax |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ハードカバー/240mm×255mm/布装/3刷 |
URL |
富澤大輔『新乗宇宙 Space Odyssey to Come』
1993年生まれの冨澤さんが、総統を決める投票をするため、生まれ育った台湾に帰郷した際などに撮影していた写真を中心に構成されている本書。私の地元ではないのに、不思議とどこか懐かしい光景で、ポッと柔らかな光が灯るような写真たちにすぐに引き込まれました。大きな歴史的分岐点となった選挙なので、希望や複雑な思いなどが入り混じる感情があっただろうと思いますが、「フィルムが入っていなくてもファインダーを覗いて見える世界が好きなんです」と仰っていた通り、世界を好きな見方でフラットにとらえている所に底知れぬ実力を感じました。そして何より、写真のアウトプットが予想外な人なので、今後の動向が一番気になる作家さんです。
タイトル | 富澤大輔『新乗宇宙 Space Odyssey to Come 』 |
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出版社 | 私家版 |
価格 | 4,100円+tax |
発行年 | 2020年 |
仕様 | ソフトカバー/210mm×276mm/136ページ/帯付 |
URL |
アナスタシア・リシツィナ『Seasons Series #10 Summer「Raw」』
デボラ・ターバヴィルを彷彿とさせるディティールと、植田正治さんを醸し出す構図が魅力な1995年生まれのロシアの新星・アナスタシア・リシツィナ。彼女の写真は、これぞまさしく今の「生」を思わせます。現代は少しずつではありますが、女だとか男だとかの縛りが薄れはじめ、存在そのものを認めて行こうという社会になってきているかと思います。彼女が写し出す被写体は、女性の私でも触れたいと思える質感で、男女の差など無い、人間本来の「美」というものを改めて定義してくれたように思います。被写体との関係性で作り上げるのではなく、シンプルに「美」だけで、「画」ではなく「絵」になる世界感を作り上げているのが衝撃でした。26歳恐るべしです。
タイトル | アナスタシア・リシツィナ『Seasons Series #10 Summer「Raw」』 |
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出版社 | Libraryman |
価格 | 5,500円+tax |
発行年 | 2020年 |
仕様 | ハードカバー/215mm×275mm/32ページ |
URL |
book obscura
吉祥寺の井の頭公園を抜けた先にある、写真集を専門にアートブックやリトルプレスを取り扱う。不定期で写真展を開催する展示スペースがあり、アーティストと訪れた客とが実際に交流できる場となっている。新刊のほか古書も揃える店内では、国内外のヴィンテージ写真集とともに、新気鋭作家の作品にも出会うことができる。
〒181-0001
東京都三鷹市井の頭4-21-5 #103
tel: 0422-26-9707
https://bookobscura.com/
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。