今年は依然として閉鎖的な空気に包まれつつも、少しずつ外出する機会が増え、実際に書店や展示に訪れることができた人も多いはず。そんな2021年は一体どんな写真集が売れたのだろう？ 4つの書店に、本年の写真集売上ベスト3といまオススメしたい1冊を教えてもらった。第二弾は、大阪・緑地公園駅のそばに店舗を構え、写真集をはじめ文学や絵本、衣食住にまつわる本まで幅広く取り扱うblackbird books。落ち着いた店内にはオーナーが選び抜いた古本や新刊が並び、訪れるたびに新しい本との出会うことができる。地元の人々が訪れ、文化に触れる場として開かれた書店のラインナップを見てみよう。
セレクト・文＝吉川祥一郎（blackbird booksオーナー）
▼1位
奥山由之『Flowers』
自身のアトリエとして使う亡き祖母の家で撮影された花は、ぼやけた輪郭を持ち、個人的な記憶を辿る、流れていく映像のように写しだされている。作家はこの撮影を「祖母との対話」と述べており、それはつまり「美しい」「儚い」といった形容だけではとらえきれない物語がこの写真には存在している。読者もまたこの本に触れ、写真を見ることでさまざまな記憶が浮かび上がるだろう。「最も個人的なことが最もクリエイティブなこと」という、ある映画監督の言葉を思い浮かべずにはいられない。
| タイトル | 奥山由之『Flowers』 |
|---|---|
| 出版社 | 赤々舎 |
| 価格 | 5,500円 |
| 発行年 | 2021年 |
| 仕様 | ハードカバー |
| URL |
▼2位
ディアナ・ダイクマン『LEAVING AND WAVING』
1954年生まれ、アメリカの写真家ディアナ・ダイクマンの作品集。実家を訪れた作家は帰り際に車中から、手を振る両親を写真に収め続けた。その年月は1991年から2017年までの27年間。季節は流れ、人生は進んでいく。両親はやがて一人になり、途中から作家の息子も現れる。タイトル、表紙から既に涙を誘うが、優れた長編小説を読み終えたような高揚感に再びページをめくりたくなる。ブックデザインも含めて完璧な1冊。
| タイトル | ディアナ・ダイクマン『LEAVING AND WAVING』 |
|---|---|
| 出版社 | CHOSE COMMUNE |
| 価格 | 8,140円 |
| 発行年 | 2021年 |
| 仕様 | ハードカバー |
| URL |
▼3位
川内倫子『Illuminance: The Tenth Anniversary Edition』
2011年発表、川内倫子の代表作となった『Illuminance』の10周年記念エディション。写真という芸術の持つ「Illuminance（照度）」に向き合うこと、それはつまり光と闇、生と死について問うことだった。世界はこれらで出来ているという奇跡を、目の当たりにすることができる1冊。オリジナルのデザインを踏襲しながらオランダのアート・ディレクター、ハンス・グレメンによって装丁が一新された。
「とても精巧に作られたこのモノグラフによって、川内倫子の名前を誰もが知るようになるはずだ」（アレック・ソス）
| タイトル | 川内倫子『Illuminance: The Tenth Anniversary Edition』 |
|---|---|
| 出版社 | torch press |
| 価格 | 7,150円 |
| 発行年 | 2021年 |
| 仕様 | ハードカバー（クロス貼り）／本文和とじ（袋とじ） |
| URL |
▼いまオススメしたい1冊
山元彩香『We are Made of Grass, Soil, Trees and Flowers』
山元彩香の約3年ぶりとなる作品集。東京都写真美術館で開催中の「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol. 18」で見た実際のプリントには本当に圧倒された。神秘的な色、陰影の深み、被写体の表情は、およそ生まれてから見たことのないものだった。前作『We are Made of Grass, Soil and Trees』は東欧諸国で撮影されたポートレイトをまとめたものだが、「Flowers」という単語が新たに追加された本作には沖縄、北海道、そしてアフリカ・マラウイで撮影された写真が収録されている。「人間」の根源を探し続ける作家が、写真表現で答えたひとつの形。
| タイトル | 山元彩香『We are Made of Grass, Soil, Trees and Flowers』 |
|---|---|
| 出版社 | T&M project |
| 価格 | 7,480円 |
| 発行年 | 2021年 |
| 仕様 | ハードカバー（日本版・マラウイ版の2種類あり） |
| URL |
blackbird books
大阪の緑地公園の側にあるマンションの1階に店舗を構え、文学、人文学、アートブック、写真集、絵本、衣食住の本を中心に取り扱う。店内には展示スペースも併設。また、不定期で花店「note」を開き、それぞれの季節に合った花を販売している。
〒561-0872
大阪府豊中市寺内2-12-1 緑地ハッピーハイツ1F
tel: 06-7173-9286
https://blackbirdbooks.jp/
