28 December 2021

Fujimura Family写真集『PROOF OF LIVING』
”生きている証”としての写真集とは?

28 December 2021

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Fujimura Family『PROOF OF LIVING』ブックレビュー「”生きている証”としての写真集とは?」 | Fujimura Family写真集『PROOF OF LIVING』”生きている証”としての写真集とは?

Fujimura Familyは、和歌山県を拠点に活動するアーティストのDai Fujimura(藤村大)と詩人・ビデオエッセイストの味果丹の夫婦によるデュオ。約10年間にわたり、公私をともにする彼ら自身と、ひとり娘と愛猫、そして彼らの身の回りにあるもの、食べたもの、見たものなど日々の生活が至近距離で赤裸々に、時にユーモラスにとらえられた写真集『PROOF OF LIVING』が、今年10月にMARGINAL PRESSから刊行された。320ページを超える濃厚な一冊の魅力を、写真研究者の村上由鶴が独自の視点で紐解く。

文=村上由鶴

Fujimura Familyのスタイルは、彼らのウェブサイトを見れば明白だが、使いやすいUIとか、洗練され削ぎ落とされたデザインとは対極にある。それは、デジタルネイティブ的なソフトウェアの使用や、人に見られることを前提とした自己像の創造などといった過剰に制御された「表現」ではない。Fujimura Familyの写真における、いわゆる「雑コラ」的コラージュや、性よりも健康を強調するような身体表現、そして、デジタル時代の不完全なチープさは、写真家のチャーリー・エングマンら、同時代の作家との共通性が見出せる。いまや写真は「とどまって見えるもの」ではなく、スマホやPCのスクロールの中でさらさらと流れ、タップやスワイプひとつで切り替わっていくものであり、チャーリー・エングマンやFujimura Familyの用いる手法は、こうした現代の写真環境を反映している。

しかし、『PROOF OF LIVING』は、日本人である私の目には、ほかの作家よりもはっきりと、濃厚な日常らしさに満たされているように映る。それはいわば「爆安の殿堂ドン・キホーテ」的な、あるいは、地域密着型リサイクルショップ的な日常性の情報過多だ。


『PROOF OF LIVING』は、味果丹と、Fujimura Familyの娘のポートレイトを中心に構成されているといっていいだろう。特に、娘を映し出した写真は、それが現れるたびに彼女の成長を感じさせ、散文的な写真群にゆるやかなストーリーを作り出している。また、顔が写っていない写真でも、皮膚や抜けた乳歯など、身体を感じさせるモチーフが多いのも特徴的だ。ただし、露出が多い写真でもセクシュアルな印象は喚起されず、肌や裸は本来的には性的な欲望や搾取の構造の外に、生命として堂々と存在するのだということを感じさせてくれる。もちろんこれには、彼らが家族であるという鑑賞者の認識も大きく影響しているが、彼ら自身の身体が性的な欲求の対象にならないように、意識的にか無意識的にか、選び取られ配慮された結果ではないかと推察する。

身体以外では、動物や風景、家の中の様子を撮った写真も多いが(なにしろ320ページある)その中でも目に留まるのは食べ物である。ところで、Dai Fujimuraは、この本をトイレの個室で見てほしいと話していた(味果丹によると、トイレで用を足す以外のことをするのは風水的にあまりよくないのでおすすめしないらしいが)。それを聞いて思うことは、本書は、家族のあらゆるコミュニケーションの基盤としての食卓を中心に、そこで起こった経験や感情や成長が、イメージとして排泄されたものなのかもしれない、ということである。


2人がインスタライブ(※1)で語っていたように、Fujimura Familyの日々の中には、写真にはとらえることのできないいたたまれない空気や、閉塞感があったかもしれない。それでも、この写真集を彼ら自身が「希望」と語るのは、一枚一枚の写真が写し出すイメージとその物理的な重なりが「PROOF OF LIVING」=「生きてる証拠」となってこの家族を支えているからだろう。それを鑑賞者として享受することは、リサイクルショップでふとした時に感じる、自分の知らないところに無数の人生が存在するという事実への感動を伴った驚きに似ている(この子ども服は、ある子どもが成長したから着ることができなくなって、ここに売られているのだ、こんなにたくさん!というような尊さ)。超個別具体的なFujimura Familyの生の証としての『PROOF OF LIVING』はこの本を開いた誰しもに、日々を重ねることそれ自体を、希望として提示してくれる。

また、最後に、ひとつ欲を言えば、本書をもとにしながらも枚数を絞り、厳選された写真を展覧会でも見てみたい。それは、この1冊の写真集が、そこから複数のテーマを抽出することができるほど高密度な写真群であり、一枚一枚の写真が笑えるのに圧倒的な強度があるという、唯一無二のバランスを保っているからである。

※1 2021年11月20日、『PROOF OF LIVING』刊行記念イベントが開催されたflotsam booksから配信。

タイトル

PROOF OF LIVING

出版社

MARGINAL PRESS

出版年

2021年10月

価格

4,840円

仕様

ソフトカバー/B6サイズ/320ページ/初版444部限定

URL

 https://marginalpress.stores.jp/items/616e424154ddd8559f07cf5b(MARGINAL CO-OP)

https://myceramics.co/proofofliving-reviews(特設サイト)

Fujimura Family

Fujimura Family
Dai Fujimura(芸術家)と味果丹(詩人)夫婦によるアーティストペア。 写真、詩、陶芸、映像などさまざまなメディアを横断しながら、生きる証明をそのままに表現する。 2021年度写真新世紀の佳作(グウェン・リー賞)受賞し、同年にMARGINAL PRESSより写真集『PROOF OF LIVING』を刊行した。

村上由鶴|Yuzu Murakami
1991年、埼玉県出身。写真研究、美術批評。日本大学芸術学部写真学科助手を経て、東京工業大学大学院博士後期課程在籍。専門は写真の美学。雑誌やウェブ媒体などで現代美術や写真に関する文章を執筆。

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