今年は依然として閉鎖的な空気に包まれつつも、少しずつ外出する機会が増え、実際に書店や展示に訪れることができた人も多いはず。そんな2021年は一体どんな写真集が売れたのだろう? 4つの書店に、本年の写真集売上ベスト3といまオススメしたい1冊を教えてもらった。第3弾は、ギャラリーを併設するブックストアのNADiff a/p/a/r/t。ショップとしての機能だけではなく、写真集の刊行に合わせて展覧会が行われ、新しい作家や本の情報発信も活発に行っている。現代アートに特化したセレクトの中で、今年人気だった写真集を聞いてみた。
セレクト・文=館野帆乃花(NADiff 書籍担当)
▼1位
森山大道『森山大道写真集成5 1960-1982東京工芸大学 写大ギャラリー アーカイヴ』
2018年刊行の『森山大道写真集成1にっぽん劇場写真帖』を皮切りに、月曜社から連続的に刊行された森山大道決定版シリーズの完結作。今年、森山のドキュメンタリー映画で話題となったシリーズとなる。本書は、東京工芸大学芸術学部写大ギャラリーが所蔵する1960〜1982年に撮影された、未発表作を多く含む930点もの貴重なプリントを掲載した初期作品を辿る作品集。初期作品だけで厚さ6センチもの作品集となる森山作品の凄みに圧倒される。NADiff Galleryにて4月から6月にかけて刊行記念展を開催した。
タイトル | 森山大道『森山大道写真集成5 1960-1982東京工芸大学 写大ギャラリー アーカイヴ』 |
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出版社 | 月曜社 |
価格 | 17,600円 |
発行年 | 2021年4月 |
仕様 | 布装糸かがり上製本、表紙シルクスクリーン印刷+箔押し/302mm×222mm×60mm/832ページ/写真点数930点 |
URL |
▼2位
かじおかみほ『so it goes, so it goes』
2020年2月にNADiff Galleryにて個展を開催したかじおかみほの作品集。フランスで出版された写真集の中で最も優れた作品に贈られるナダール賞を、2019年に受賞した『So it goes』の改訂版だ。本書は、カート・ ヴォガネットの小説『スローターハウス5』にインスピレーションを得て作られている。自身について写真家よりも画家に近いと話すかじおかは、写真というメディアで時間や、記憶、日常の断片を切り取り、暗室で画家の様に丁寧に露光、色調し、作品を作り出している。「so it goes(そういうものだ)」というセリフが何度も語られ、独特のリズムを持つこの小説のように、反復するイメージや透ける紙によるイメージの呼応が作品集全体をまとめ上げ、その世界観を築いている。
タイトル | かじおかみほ『so it goes, so it goes』 |
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出版社 | the(M)editions, IBASHO |
価格 | 7,700円 |
発行年 | 2020年11月 |
仕様 | ソフトカバー/160mm×210mm/120ページ |
URL | ※取り扱い終了 |
▼3位
川田喜久治『20』
造本家の町口覚とグラフィックデザイナーの町口景によるブックレベール「bookshopM」が編集者の川田洋平を迎え、2021年の1年間で4冊の写真集を出版した。その第一弾となる本書は、『地図 The Map』(美術出版社、1965年)や『ラスト・コスモロジー The Last Cosmology』(491+三菱地所、1995年)で世界的に知られる写真家・川田喜久治の最新作品集。2022年1月1日で89歳を迎える川田が、2019年から現在にわたって日々Instagramで発表し続けている最新作をまとめた1冊となっており、東京オリンピック・パラリンピックの看板、マスク姿の人々など、時代を写し続けてきた作家がとらえた「いま」を目撃することができる。
タイトル | 川田喜久治『20』 |
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出版社 | bookshopM |
価格 | 2,750円 |
発行年 | 2021年1月 |
仕様 | 並製本糸中綴じ/257mm×182mm/32ページ/700部 |
URL |
▼いまオススメしたい1冊
吉田志穂『測量|山』
風景やイメージの多層的なレイヤーから時間の積層を視覚化し、新たな風景を生み出す吉田志穂の初となる作品集。画像検索や航空写真などのインターネット上でのリサーチから作品制作に入る吉田は、山に関する画像を保存していたハードディスクの容量がいっぱいになったときに、「溶岩が積み重なって山の形を成すように」ハードディスクの中に仮想の山の姿を見た。存在しない山をさまざまな方法で「測量」した作家の足跡を、写真作品とこれまでの展示空間の写真を複合的に組み合わせてまとめている。書物でしか表現できない時間と空間のひろがりを感じる1冊だ。NADiff Galleryにて11月に刊行記念展を開催。参加中の展覧会「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol. 18」が、東京都写真美術館にて2022年1月23日(日)まで行われている。
タイトル | 吉田志穂『測量|山』 |
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出版社 | T&M Projects |
価格 | 4,950円 |
発行年 | 2021年11月 |
仕様 | コデックス装+ビニールカバー/297mm×200mm/128ページ |
URL |
NADiff a/p/a/r/t
コンテンポラリーアート、フォトに関する国内外の書籍を中心に、アートグッズやマルチプルなども取り扱うブックショップ。インストアで行うイベントや、併設のNADiff Galleryでの企画展開催など、商品の販売に留まらない情報発信を様々な取り組みで行う。
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