今年も新生活が始まるシーズンがやってきた。そんな季節に写真集を通して新しい作家に出会ってみたい。今回は国内外の書店3店舗に、今年注目したい若手作家の写真集を3冊ずつ紹介してもらった。最後となる第3弾は、代田橋に店舗を構えるflotsam books。店主独自のアートブックのセレクトは、いつ訪れても信頼できる品揃えだ。オープンから2年が過ぎ、学生から写真家まで、幅広い客層が足を運ぶ書店として知られる書店では、一体どんな写真集が選ばれたのだろうか?
セレクト・文=小林孝行(flotsam books)
リュウ・イカ『THE SECOND SEEING』
内モンゴル出身、現在東京を拠点に活動する写真家、リュウ・イカの初写真集『THE SECOND SEEING』。300ページ近いボリュームの本書は、イカのピュアでパワフルな写真をこれでもかというくらい詰め込んだ内容となっている。小難しく説明しようとしたら、本書で作家自身が書いてるように、ボーヴォワールの『第二の性』を引きながら「第二の観察(The Second Seeing)」を説明することも出来るかもしれない。しかしそういうことを一旦置いておいて、彼女の写真の持つパワー、被写体との距離感、写真との対峙みたいなものを読者も素直に感じて欲しいなと思う。純粋に面白いから。
タイトル | リュウ・イカ『THE SECOND SEEING』 |
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出版社 | 赤々舎 |
価格 | 5,500円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ソフトカバー/297mm×223mm/292ページ |
URL |
ジーノ・エドワーズ『EVERWONDERFUL』
ジャマイカ生まれで、現在はブルックリンを拠点に活動する写真家、ジーノ・エドワーズ。写真集『EVERWONDERFUL』は、過去4年間にジャマイカで撮影された一連の写真から生まれた1冊。イメージ作りを通して自分のアイデンティティを見つめ、複雑な文化的美学を紐解くことで、自身が見た世界を映像で創造・再現することを探求している。家とか故郷みたいな「HOME」がテーマにもなっていて、エドワーズ自身が既にジャマイカの外に拠点を置いていることもあり、外側から見た自らのHOMEという、故郷を離れた誰もが持ってる視点を共感出来るのも面白いと思う。
タイトル | ジーノ・エドワーズ『EVERWONDERFUL』 |
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出版社 | Self published |
価格 | 6,930円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ソフトカバー/29.2 x 21.6 cm/168ページ |
URL |
プーリア・コジャステハペイ『SICARIO WARFARE』
1993年オランダ生まれのアーティスト、プーリア・コジャステハペイの作品集。コジャステハペイの作品集を初めて知ったのは、オランダのATM強盗事件を丹念に調べ上げた『Oxy-Ace&RS6』という、ファッションカタログのような冊子を作りあげたのを友達に教えてもらったから。その後も毎回ぶっ飛んだ企画で驚かされてきた。例えばイスラム国の兵士募集のポスター集や、アメリカの刑務所の囚人たちの自撮り写真集とか。本書はメキシコの犯罪組織の内情に焦点を当てている。指揮官に送ってもらった写真を編集したらしい。毎回何やってくるのか分からなくてすごすぎる。
タイトル | プーリア・コジャステハペイ『SICARIO WARFARE』 |
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出版社 | 550BC |
価格 | 8,800円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ハードカバー/24 x 17 cm/136ページ |
URL |
flotsam books
2010年にオンラインストアとしてスタートし、2020年1月に実店舗を東京・代田橋にオープン。店頭では定期的に気鋭作家の展示が行われ、作家とファンの交流の場にもなっている。新刊から古書まで店主のセンスが光る品揃えの店内には、訪れる度にいつも新たな出会いが待っている。
〒168-0063
東京都杉並区和泉1-10-7
https://www.flotsambooks.com/