昨年よりも行動制限が緩和され、さまざまな写真展やフェアの開催、海外アーティストの来日が増えたこの1年、写真集を扱う書店では一体どんな本が人気を集めたのだろうか? 今年も4つの書店に、写真集売上ベスト3といまオススメしたい1冊を紹介してもらった。第3弾は、吉祥寺にお店があるbook obscura。作家と真摯に寄り添いながら定期的に展示を行っており、毎回作品の新たな一面を私たちに見せてくれる。新刊から稀少なヴィンテージブックまでが並ぶ本棚から、多くの人が手に取った本をチェックしてみよう。
セレクト・文=黒崎由衣(book obscura)
目次
▼1位
潮田登久子『マイハズバンド』
本書に関しては、当店のベストセラーではなく、世界的なベストセラーといってしまって良いかと思います。というのも、「写真集」というくくりの賞の中で最高峰であるParis Photo–Aperture PhotoBook Awards 2022で審査員賞を受賞し、今年の大きな出来事のひとつでもあった神奈川県の葉山で「アレック・ソス Gathered Reaves」展を開催していたあのアレック・ソスが2022年のお気に入り写真集として紹介するくらいですから。「真四角の写真でおすすめは?」と聞かれたら、必ず潮田登久子の写真集をご紹介します。絶対的な写真家による40年間眠っていた作品たちは、主に夫や子どもがいる家の中で撮影されたもので、観る者を潮田の特徴ともいえる「静寂」な世界へと誘います。光田由里と長島有里枝の寄稿文が相まって濃厚な1冊です。
タイトル | 『マイハズバンド』 |
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作家名 | 潮田登久子(Tokuko Ushioda) |
出版社 | torch press |
価格 | 5,500円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | ハードカバー/2冊組、帯付 |
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▼2位
笠井爾示『Stuttgart』
笠井爾示が10歳から18歳までを過ごしたドイツの国際都市、シュトゥットガルトを舞台に、母を撮影した作品をまとめた1冊。黄色の光が吸収されたかのような見た目の本書は、母のヌードも含んでいるということもあり、当店での展示は挑戦でもありました。しかし、壁面に掲示された作品はヌードや女性、母、病気といった言葉から離れ、ただただ「美」だけでしかなく、眩しくて暖かく、何かの祝福に包み込まれ、満たされた気分になりました。きっとこれは被写体と撮影者の意思が溶けこんだ結果なのだろうと写真を見ていて思いました。黄色に包まれた装丁が、笠井の溶けこんでいく意思を受け止めているようにも感じます。
タイトル | 『Stuttgart』 |
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作家名 | 笠井爾示(Chikashi Kasai) |
出版社 | bookshop M |
価格 | 5,500円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | ソフトカバー/並製本/函入
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▼3位
『Photography? End? 7つのヴィジョンと7つの写真的経験』
「写真は、シャッターを切っただけでは『作品』にならない」と改めて思った1冊。鈴木理策やオノデラユキをはじめとする7名の写真家たちが、作品制作のエピソードや意味、写真に対しての思いを自らの言葉で説明しています。読んだときに、美術館のキュレーターや評論家による文章ではなく、直接作家から湧き出す単語や文章はスッと迷いなく読者である自分に染み渡ってくる感覚に驚きました。ダイレクトに伝わってくる熱量と一緒に、あの作品にこんな想いや考えが詰まっていたのかとさまざまな写真集をひっぱり出してきて、「作品」を制作するってこういうことなのかと身に沁みました。
タイトル | 『Photography? End? 7つのヴィジョンと7つの写真的経験』 |
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作家名 | 薄井一議、大島成己、オノデラユキ、北野謙、鈴木理策、似鳥水禧、濱田祐史 |
出版社 | magic hour edition |
価格 | 3,300円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | ソフトカバー/帯付 |
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▼いまオススメしたい1冊
原美樹子『SMALL MYTHS』
2022年を締めくくるのにふさわしい作品でした。もうこの一言に尽きます。本書は1996年から2021年までに撮影された未発表の作品で構成されており、原の代名詞にもなっている「ストリートスナップ」と「ノーファインダー」の作品と一緒に、家の中で撮影した花の写真やデッサン画にしか見えない椅子の上に置かれた本と洋梨など、代名詞を理解しつつも、しっかり「原美樹子」という人を説明しているかのような作品集です。作家が撮影し始めた時代と現代ではスナップ写真をとりまく環境は様変わりしておりますが、原の作品は「誰か」や「何か」が記憶にも残さず消費してしまった瞬間を、大切に拾って守って下さっているように思えて安心するのです。
タイトル | 『SMALL MYTHS』 |
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作家名 | 原美樹子(Mikiko Hara) |
出版社 | CHOSE COMMUNE |
価格 | 8,250円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | ソフトカバー |
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book obscura
吉祥寺の井の頭公園を抜けた先にある、写真集を専門にアートブックやリトルプレスを取り扱う。不定期で写真展を開催する展示スペースがあり、アーティストと訪れた客とが実際に交流できる場となっている。新刊のほか古書も揃える店内では、国内外のヴィンテージ写真集とともに、新気鋭作家の作品にも出会うことができる。
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