昨年よりも行動制限が緩和され、さまざまな写真展やフェアの開催、海外アーティストの来日が増えたこの1年、写真集を扱う書店では一体どんな本が人気を集めたのだろうか? 今年も4つの書店に、写真集売上ベスト3といまオススメしたい1冊を紹介してもらった。第2弾は、GINZA SIXの6階にある銀座 蔦屋書店。カフェやギャラリーを併設することでさまざまな層の人が気軽に足を運び、本のみならず貴重なアート作品も見ることができる書店の今年のランキングとは?
セレクト・文=築根ひろ子(銀座 蔦屋書店)
目次
▼1位
本城直季『(Un)real Utopia』
大判カメラのアオリを利用して、都市の姿をジオラマのように撮影する写真家、本城直季。本書は2020年11月より千葉県市原市を皮切りに全国を巡回し、2022年3月に東京都写真美術館にて開催された大規模個展「本城直季 (un)real utopia」の公式図録です。東京五輪に沸く選手村や国立競技場、東京タワーを追い抜くように再開発が進められる高層ビル群……ミニチュアのように表現された首都・東京へのまなざしは、豊かな生活を求め、営みを続ける人間へのアンチテーゼのようでも、愛情のようでもあり、この世界の実在と虚構を問いかけます。その独自の目線で切り取られた情景からは、目まぐるしい都市の喧騒さえも愛おしく感じることができます。見開きで大判カメラの4×5と同比率になる判型とソフトカバーの柔らかい手触りの装丁も魅力的で、見慣れた風景からいつもと違った豊かさや美しさを発見することのできる「写真の魔術」を堪能できる1冊です。
タイトル | 『(Un)real Utopia』 |
---|---|
作家名 | 本城直季(Naoki Honjo) |
出版社 | 朝日新聞社 |
価格 | 3,300円 |
発行年 | 2020年 |
仕様 | A4変形(293 x 183mm)/カラー |
URL |
▼2位
奥山由之『BEST BEFORE』
写真家・映像監督の奥山由之が、2010年のデビューから12年間に渡り手掛けてきた数々のクライアントワークを1冊にまとめた作品集。コマーシャルとアートの垣根を軽々と越境し、多くの人々の心に懐かしさや共感を与える作品を生みだしてきた奥山は、同時代を代表するアーティストの一人といえるでしょう。米津玄師、星野源、あいみょんなどのアーティストとのコラボレーションや広瀬すず、菅田将暉などきらめくスターたちのポートレイト、大河ドラマのメインビジュアル、エディトリアルワークなど、その作品群はクライアントワークでありながら、実験的でパワフルであり、時にコンセプチュアルです。本を作る意義のひとつは、物体として残すことによって、制作中に無意識だったことに対し、客観視による気付きを得ることができるためと作家自身が語るように、作家にとっても装置的な意味を持つ本でありながら、2010年代から2020年代という時代が凝縮された1冊でもあります。東京都写真美術館の学芸員・伊藤貴弘による寄稿文も必読です。
タイトル | 『BEST BEFORE』 |
---|---|
作家名 | 奥山由之(Yoshiyuki Okuyama) |
出版社 | 青幻舎 |
価格 | 8,800円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | B5変/カラー/512ページ |
URL |
▼3位
アレック・ソス『A POUND OF PICTURES』
マグナム・フォトの正会員である写真家、アレック・ソス。初写真集となった名盤『SLEEPING BY THE MISSISSIPPI』は再版を重ねながら写真集の出版ブームを牽引し、2008年には自らの出版社、Little Brown Mushroomを立ち上げるなど、写真出版業界をリードする一人としてその地位を確立しています。2018年から2021年にかけて制作した新作を集めた本書は、ソスのいままでの作品集とは少し趣が異なる印象を受けます。アパートにともる光、避寒客、リンカーン大統領の胸像など、多種多様な被写体が登場し、ロードトリップのようなシークエンスの中で、集合写真やセルフィ―を撮影する「写真」の撮影者、作り手たちの存在も強調され、作家の存在も浮き彫りになります。タイトルの通り写真という表現手段を誇りつつも、写真家が模索し、実験しながら変化していく過程を同時に感じることのできます。今年の10月まで葉山美術館で開催された個展「アレック・ソス Gathered Reaves」も大きな話題となり、第3位となりました。
タイトル | 『A POUND OF PICTURES』 |
---|---|
作家名 | アレック・ソス(Alec Soth) |
出版社 | MACK |
価格 | 11,000円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | 253 x 310 mm/カラー/156 ページ |
URL | https://store.shopping.yahoo.co.jp/g-tsutayabooks/gpht11464w-9781913620110.html |
▼いまオススメしたい1冊
海野林太郎『マヌケだね 楽しい夜さ 好きだよ』
銀座 蔦屋書店5周年を記念して同店内で開催されたアーティスト、海野林太郎の個展「マヌケだね 楽しい夜さ 好きだよ」の展覧会記録ZINE。展示タイトルにもなった映像作品は、夜の銀座 蔦屋書店に妖精や精霊たちが集い、歌や⾷事などを楽しみ、ときにお互いの匂いなどを確かめ合う、拍⼦抜けするような彼らのひとときを描いています。本書は、その映像作品が流れるインスタレーションを記録するアーカイブです。キュレーター、荒木夏実は寄稿文で、さまざまな価値の断片の集まる書店という空間と、そこで自分らしさを保ちながら他者とふれあい共に過ごすその世界に、現代社会の中での希望を見いだしています。書店の中に書店が存在する映像を収録した本がおかれる書店が、まるでエッシャーの描くペンローズの階段のように組み合わさり、リアルとフィクションが交差します。20ページとコンパクトながらも書店と映像の魅力を堪能できる、是非オススメしたい1冊です。
タイトル | 『マヌケだね 楽しい夜さ 好きだよ』 |
---|---|
作家名 | 海野林太郎(Rintaro Unno) |
出版社 | 銀座 蔦屋書店 |
価格 | 1,800円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | A5/カラー/20ページ |
URL |
銀座 蔦屋書店
2017年4月にGINZA SIX6階にオープンした大型書店で、本を介してアートと日本文化と暮らしをつなぎ「アートのある暮らし」を提案する。国内外から訪れる人々をアート、写真、建築、デザイン、ファッションなど世界のアートとその周辺ジャンルからなるアートブックアーカイブが出迎え、書店だけではなくさまざまな展示を行うアートスペースやカフェなどを併設し、銀座カルチャーの中心地となっている。
〒104-0061
東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 6F
tel:03-3575-7755 / fax: 03-3575-7756
https://store.tsite.jp/ginza/