この秋読みたい3冊を、国内外の新刊から古書までを扱う書店に尋ねるシリーズの第一弾は、石川県・金沢市にあるIACK。写真家の河野幸人が、6年前に自身のアトリエとしてオープンした書店兼ギャラリーである。作家たちの制作プロセスを通してユニークな「旅」を楽しめる作品集は、まさに行楽シーズンにぴったりだ。
セレクト・文＝河野幸人（IACKオーナー）
目次
ジュリアン・ベルチェ『The Invisible Journey』
フランス人アーティストのジュリアン・ベルチェは、2021年にフランス人アーティストのトーマス・マイレンダーに招かれ、マルセイユ南部のカランク国立公園で滞在制作を行いました。作者はその土地の風景にちなんだ樹脂製の大きな岩の彫刻を制作し、それを購入した古いボートの上に取り付け、海上を猛スピードで走らせました。その破天荒な作品から発展した本書は、ハサミで切り取ったボートの写真を手作業で貼り付け並べた、169枚のポストカードの複製を収録しています。奇抜なアイディアにもかかわらず、最古のメディアのひとつである「岩」を乗せたボートは不思議と風景に溶け込み、場所や時代を超えて見知らぬ人たちの旅行記に介入しています。思わず笑ってしまうコンセプトと写真の数々ですが、風景写真や観光写真に対する批評性も感じられます。
| タイトル | 『The Invisible Journey』 |
|---|---|
| 出版社 | RVB Books |
| 価格 | 7,810円 |
| 発行年 | 2023年 |
| 仕様 | ハードカバー／PVCダストジャケット |
| URL | https://www.iack.online/collections/all-items/products/the-invisible-journey-by-julien-berthier |
ラウラ・ロダリ『Laura Rodari』
イタリア人写真家のラウラ・ロダリはある日、「眠りを妨げるような、あるいは目覚めることを妨げるような」不思議な夢を見ます。そこから約7年後の2019年、作者は地中海の灯台とも呼ばれる火山島、ストロンボリ島を訪れ、その夢の記憶を胸に本作を撮影しました。ロダリはプリントを直接切り貼りしたアーティストブックや抽象性の高い作品で知られる作者ですが、本作では主題を明確にした上で比較的ストレートに撮影しており、手の痕跡もほとんど感じられません。しかし、白昼夢のような灰色のトーンで全体を統一し、本の構成に注力することで、シンプルながらも夢の情景と実際の景色が重なる旅の体験が可能な作品集に仕上がっています。
| タイトル | 『MALìA』 |
|---|---|
| 出版社 | 私家版 |
| 価格 | 12,100円 |
| 発行年 | 2020年 |
| 仕様 | ソフトカバー／コデックス装 |
| URL | https://www.iack.online/collections/all-items/products/signed-mal-a-by-laura-rodari |
マリケン・クラメ『The Eyes That Fix You in a Formulated Phrase』
ノルウェーのオスロを拠点に活動するアーティスト、マリケン・クラメ。本作で作者は、自身の父親が1970年代ごろに撮影した写真を、記録、記憶、そして人生を反映するものとして使用しています。繰り返し登場する女の子は幼少期のクラメの姿であり、そこに自身が撮影した思い出の品々の静物写真、そして当時を回想して書き下ろしたエッセイを組み合わせています。家族が見た景色、共に時を過ごしたもの、そして形のない記憶。本書は3つの視点を通して、読者が作者の過去と人生を巡る旅に出かけることのできる作品集です。クラメの父親が人類学者だったこともあり、写真はさまざまな国で撮影されているので、パラパラとめくっているだけでも旅をしている気分になれるおもしろい1冊です。
| タイトル | 『The Eyes That Fix You in a Formulated Phrase』 |
|---|---|
| 出版社 | Multipress |
| 価格 | 5,200円 |
| 発行年 | 2018年 |
| 仕様 | ハードカバー |
| URL |
IACK
2017年に写真家・河野幸人のアトリエとして石川県金沢市に設立。「開かれた書斎」というコンセプトのもとアトリエは週末に一般開放され、現代写真を中心とした作品集を手に取ることができる。ギャラリーとして企画展や、国外独立系出版社や自費出版作品のディストリビューション業務も行う。
〒920-0864
石川県金沢市高岡町18-3
https://www.iack.online/
