この季節に読みたい3冊を、国内外の新刊から古書までを扱う書店に尋ねるシリーズの第二弾は、渋谷に実店舗を構える東塔堂。本の内容や装幀、質感など総合的な視点でセレクトされた古書が並び、ギャラリースペースも併設されている。ここでは、まるで「詩」を読んでいるかのような情緒を持ち合わせる写真集を紹介する。
セレクト・文=大和田悠樹(東塔堂オーナー)
目次
アンナ・ストランド『Nagoya Notebook』
スウェーデンで活動するアーティスト、アンナ・ストランドの写真集。ストランドは、主に写真を媒体として表現をしている。本書は日本のフリーマーケットで見つけた写真に、彼女自身の写真と言葉を織り交ぜ構成されている。昭和の色濃い古い写真は、早朝の古道具市の乾いた空気を思い起こさせると同時に、私的な、アマチュアが故の写真がもつ魅力を強く感じさせる。意味や物語にとらわれず、答えのないまま、詩のようなものを振りかけた彼女の仕立てが見事。
タイトル | 『Nagoya Notebook』 |
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出版社 | Sailor Press |
発行年 | 2014年 |
価格 | 8,800円 |
仕様 | ソフトカバー/ダストジャケット |
URL |
ジョン・ゴセージ『The Pond』
アメリカの写真家、ジョン・ゴセージの写真集。郊外の森林地帯にある池の周辺で撮影された写真群は、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『森の生活』を思い起こさせる。また本書は、ニュートポグラフィクスの数ある重要写真集において、最も私的かつ内省的な1冊だと思う。ページをめくるたびに、荒れた湖畔を移動する作者の視線――土を踏み、空を見上げ、木々が揺れるのを感じ、立ち止まり、戸惑う。歩きながら、感覚が研ぎ澄まされ、頭の中で思考が整理されていく。しかし、それも束の間、日常に戻る。詩情をたたえながら没入をうながす写真集表現としては極点のひとつ。
タイトル | 『The Pond』 |
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出版社 | Aperture |
発行年 | 1985年 |
仕様 | ハードカバー/ダストジャケット |
URL |
トッド・パパジョージ『Passing Through Eden - Photographs of Central Park』
トッド・パパジョージが、ニューヨークのセントラルパークで撮影したシリーズ。人々が公園で寝そべり、談笑し、遊び、読書や瞑想、ただぼーっとしている姿などが淡々と写されている。人間とは本当にさまざまであり、それぞれが好き勝手に動いているだけに過ぎないという気持ちにさせる。まるで人々を包み込んでいるセントラルパークそのものが、カメラを持ち写真を撮っているような錯覚を覚えるほどに、先に紹介した2冊とは違って非常に開かれた写真集。作家性を表現するというよりは人間賛歌といった趣で、晴れた日の公園にいるような気持ちの良い1冊だ。
タイトル | 『Passing Through Eden – Photographs of Central Park』 |
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出版社 | Steidl |
発行年 | 2007年 |
価格 | 13,200円 |
仕様 | ハードカバー/ダストジャケット |
URL |
東塔堂
美術、写真、デザイン、建築関連の古書を扱う古書店。2006年4月に虎ノ門で開業し、その後麻布台に移転。2009年から渋谷区鴬谷町に実店舗を構える。新しいクラシックと呼べるような近現代の基本図書を中心に、本を内容だけではなく、装幀や質感等も含めて総合的に評価するという視点でセレクトしている。渋谷店ではギャラリースペースを併設し、年に数回企画展を行なっている。
〒150-0032
東京都渋谷区鴬谷町5-7 1F
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