個性的なセレクトが光るブックストアが月替わりでおススメの写真集3冊を紹介。今月は出版社という括りでアートブックを紹介する東京・恵比寿の書店「POST」。
セレクト・文=東明さや香(POST)
パレスチナの象徴と尊厳を記録した一冊
本書はパレスチナ各地に位置するオリーブの木々を8×10で記録した写真集。南アフリカ出身でベルリンを拠点に活動するアーティスト、アダム・ブルームバーグと、写真家・アーティストのラファエル・ゴンザレスによって撮影された。パレスチナ人にとってオリーブはあらゆる苦難を乗り越えてきたアイデンティティの象徴としてだけでなく、10万世帯以上の生活を支える産業としても重要な存在であるため、その尊厳を奪うための抜根がイスラエル当局などによってしばしば繰り返されてきた。その数は1967年以降約80万本にものぼり、なかには樹齢1000年を超えるものも含まれているそうだ。試しに左ページに記された座標をGoogle Mapで検索したところ、2017年の航空写真でオリーブ畑を確認できたものもあった。
タイトル | 『Anchor in the Landscape』 |
---|---|
著者 | Adam Broomberg, Rafael Gonzalez |
出版社 | MACK |
出版年 | 2024年 |
価格 | 11,000円(税込) |
仕様 | 128ページ / ハードカバー / 298 x 240 mm |
URL |
過剰な生産・消費に一石を投じるイメージの氾濫
ロンドンを拠点に主にファッション界で活躍するイタリア人写真家、アレッシオ・ボルゾーニによる自費出版の実験的な一冊。タイトルはイタリア語で「蓄積、体積」を意味する単語だ。収録されているのは、主に1950-60年代の新聞や匿名の写真群から流用された脚の画像、彼が街で撮影したゴミの写真、作品として発表した写真の一部や、iPhoneのスクリーンショットなど。この本の面白いところは、あらゆるものが過剰に生産・消費され続ける世界ではイメージさえもその延長線上にあると捉えて、自らをもその批評性の範疇に含めていることだ。作家自身は本書による明確な主張は避けているが、現代の都市生活の構造に辟易としながらも毎日の生活は続いていく、というメッセージを受け取ることができる。
タイトル | 『Accumulo』 |
---|---|
著者 | Alessio Bolzoni |
出版社 | Self-published |
出版年 | 2023年 |
価格 | 12,100円(税込) |
仕様 | 204ページ / ソフトカバー / 280 x 210 mm |
URL |
子どもの頃の記憶にある夕暮れ時の平和と神秘
本書はロバート・アダムスが1976年から1982年にかけてコロラド州郊外の道や明け方の風景を6×6で撮影しまとめたもの。オリジナル版は1985年にApertureから『Summer Nights』として出版され、2005年にも同名で再版。その後意向を汲み2009年に未発表写真39点を追加した上で再編集し、ApertureとYale大学が共同名義で本書の元となる改訂版『Summer Nights, Walking』を出版。長らく絶版となっていた折、Steidlによる高精細な印刷技術を用いて2023年にリプリントされ、タイムレスな一冊であることがさらに証明された。モノクロとは思えない豊かな階調で、郊外の夜の静寂と漂う時間の流れをしっとりと感じさせる。作家自身もオリジナル版よりも改訂版の方が、子どもの頃の記憶にある夕暮れ時の平和と神秘を忠実に再現できたと語っている。
タイトル | 『Summer Nights, Walking』 |
---|---|
著者 | Robert Adams |
出版社 | Steidl |
出版年 | 2023年 |
価格 | 11,000円(税込) |
仕様 | 80ページ / ハードカバー / 260 x 265 mm |
URL |