20 September 2022

バカンス明けのヨーロッパ、家族や人とのつながりを問うスイスの写真シーン|フランス通信 vol.2

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フランス

20 September 2022

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バカンス明けのヨーロッパ、家族や人とのつながりを問うスイスの写真シーン|フランス通信 vol.2 | Images Veveyでのエリック・ケッセル「Muddy Dance」展示風景 © Emilien Itim

Images Veveyでのエリック・ケッセル「Muddy Dance」展示風景 © Emilien Itim

7、8月はパンデミックによる数年越しの開放的な夏を満喫するために、自然や新しい場所を発見しに、家族、カップルや友達と多くの人が旅へと繰り出した。コロナ禍を経て「家族との時間」や「人とのつながり」にありがたみを感じることが多くなったからこそ、休暇中に思い切り羽を伸ばせたのは、この上のない至福だっただろう。そのテーマを考察する展覧会やフェスティバルが9月にスイスで開催されている。また新しいアート地区を3年かけて建築をしたローザンヌの動きにも注目したい。9月はヨーロッパの1年のスタート地点。気持ちを切り替えて新しい職場や学校にみんなが社会に戻りつつある。今回はパリから少し足を伸ばして、スイスのいま旬なフェスティバルやエリアを紹介する。

文=糟谷恭子

1. 街が写真に染まる、屋外展示を駆使したImages Veveyが今年も開幕(ヴヴェイ)

コロナ禍が収束し、日常がこれまで通りに戻る中で、2年おきに開催されるImages Veveyは、写真だけではなく映像作品も取り入れ、ビジュアルアートのビエンナーレとしてさらなる跳躍を見せる。今年のテーマは「Together. La vie ensemble.(みんなで、一緒に生きる)」。日常生活、恋愛、政治について幅広いレンジで作品が集められている。見所は、ヴヴェイ駅の中にある新しいスペース「Appartement(アパルトモン)」。 以前は鉄道員の宿舎であったためその由来によって名前がつけられた。ここではアレック・ソスの「Dogs days Bogota」を含む写真映像作家4名の作品が、応接間、寝室、廊下などコンセプトに応じて各スペースに展示されている。今後このスペースはフェスティバル以外の時期も、年間を通じImages Veveyの展覧会場として新しいプロジェクトを紹介する予定だ。

アレック・ソス「Dogs days Bogota」展示風景 © Kyoko Kasuya

アレック・ソス「Dogs days Bogota」展示風景 © Kyoko Kasuya

駅を出ると、マーティン・パーとThe Anonymous Projectの屋外展示デジャヴュならぬ「Déjà View」が待ち受ける。1950〜80年の間に撮影された写真を集めた映画監督のリー・シュマンのコレクション(The Anonymous Project)と、パーが実際に撮った同様な人物と構図の写真が並べられ、パーと素人どちらが撮った写真なのかがわからない展示となっている。

マーティン・パー×The Anonymous Project展示風景© Emilien Itim

マーティン・パー×The Anonymous Project展示風景© Emilien Itim

街の中心に向かうと待ち構えているのは劇場、コンサート会場として利用されている「Salle del Castillo(サル・デル・カスティヨ)」でのディアナ・マルコシアンによる「Santa Barbara」。ソ連崩壊後にお茶の間に入ってきたアメリカのソープオペラ「サンタバーバラ」に憧れ、メールブライドとしてロシアからアメリカに渡った母の自伝を、フィクションとして映画セットを使用し、写真と映像を交えたインスタレーションで綴る。この空間に非常にマッチした、ダイナミックなスケールの作品に圧倒される。

ディアナ・マルコシアン「Santa Barbara」展示風景 © Kyoko Kasuya

ディアナ・マルコシアン「Santa Barbara」展示風景 © Kyoko Kasuya


外に出ると、シアン・デイヴィーの二人の娘を写した「Alice」と「Martha」のシリーズが待ち構える。ヴヴェイに住む家族の憩いの場とも呼ばれるレマン湖に面した気持ちの良い場所に、二人の状況の異なった姉妹の写真が展示されている。そのほかエリック・ケッセルスがサッカーコートに見立てた敷地に展示するのは、サッカーボールを取り除いた無名のアーカイブ集の写真シリーズ。このサッカーコートでは実際に子どもたちが、ボールを持ち込みサッカーしにきている。ユニークな展示が盛りだくさんで、駆け足でも1日では物足りないぐらいのボリュームとなっている。

シアン・デイヴィーの展示風景 © Cynthia Ammann, Images Vevey 2022

シアン・デイヴィーの展示風景 © Cynthia Ammann, Images Vevey 2022

Images Veveyでのエリック・ケッセル「Muddy Dance」展示風景 © Emilien Itim

タイトル

「Images Vevey」

会期

2022年9月3日(土)〜9月25日(日)

開館時間

毎日開催 11:00〜19:00(屋内の展示のみ)
屋外の展示はいつでも見れます

URL

https://www.images.ch/fr/festival-images/

2. 写真美術館で、多様な家族の関係性と向き合う(ヴィンタートゥール)

チューリッヒの北東に位置する郊外の街、ヴィンタートゥールにある、写真に特化した美術館では、「家族」にまつわる展覧会が開催中だ。タイトルは、「CHOSEN FAMILY – LESS ALONE TOGETHER 」。現代を生きる写真作家が自らの家族史を掘り下げつつ、家族のあり方と社会との関係性を問う作品を発表している。妻クリスティーネを被写体として撮り続けた古屋誠一、ナン・ゴールディンやラリー・クラークなど大御所の作品以外に、チャーリー・エングマンや注目の若手作家も取り上げられている。

Charlie Engman, from the series MOM, 2009–. Installation view Chosen Family – Less Alone Together, Fotomuseum Winterthur © Fotomuseum Winterthur / Conradin Frei

Installation view Chosen Family – Less Alone Together, Fotomuseum Winterthur © Fotomuseum Winterthur / Conradin Frei

Leonard Suryajaya, from the series False Idol, 2016–2020. Installation view Chosen Family – Less Alone Together, Fotomuseum Winterthur © Fotomuseum Winterthur / Conradin Frei

ピクシー・リャオのボーイフレンドと男女の役割が逆転する関係性をコミカルに切り取った「Experimental Relationship」のほか、若手作家ではイタリアの写真家アルバ・ザリが取り組んでいる現在進行中のプロジェクト「Occult」が公開されている。「Occult」では、キリスト教のカルト集団「The Children of God(現在はファミリー・インターナショナルに改称)」の一員であった祖母と母の人生が作品の発端となり、自身の家族のアーカイブ、教団のテキストやビジュアル、ほかのメンバーのアーカイブ画像、インターネットから見つけたデータを使い、自身の家族の歴史を探ると同時に、「The Children of God」が展開したプロパガンダやメカニズムについても考察している。

Alba Zari, Family Archive, from the series Occult, 2019– © Alba Zari

Alba Zari, Family Archive, from the series Occult, 2019– © Alba Zari

また今年、若くしてマグナムフォト会員となった南アメリカ出身、リドクウェル・ソベクワの10年間失踪していた姉についての手作り写真集「I carry Her Photo with Me」も展示されている。2002年に13歳で失踪し10年後に戻ってきたものの、病死した姉のジヤンダの人生を再現すべく、彼女が滞在していたとみられる場所を調査し、イメージと文章で、謎に包まれた空白の10年間を再構築しようと試みた作品だ。

Lindokuhle Sobekwa, from the artist book I Carry Her Photo with Me, 2017 © Lindokuhle Sobekwa and Magnum Photos

Lindokuhle Sobekwa, from the artist book I Carry Her Photo with Me, 2017 © Lindokuhle Sobekwa and Magnum Photos

アーティストの作品に加え、オープンコールをかけてヴィンタートゥールやスイス全土から応募された個人の写真集をも展示し、様々な家族の物語を紹介しているユニークな内容。この展覧会は、今年のスペインのPhotoEspagnaのプログラムの一環にも含まれている。

タイトル

「CHOSEN FAMILY – LESS ALONE TOGETHER」

会期

2022年6月11日(土)〜10月16日(日)

会場

ヴィンタートゥール写真美術館

時間

11:00~18:00(水曜日のみ11:0020:00

休館日

月曜

URL

https://www.fotomuseum.ch/en/exhibitions-post/wahlfamilie-zusammen-weniger-allein/


3. UFOとの遭遇をテーマにしたトニー・アウスラーのユーモラスな展覧会(ローザンヌ)

ヴヴェイと同様レマン湖に面した街ローザンヌ。3年がかりでローザンヌ市が駅のすぐそばにPlateforme 10という3つの美術館(州立美術館[MCBA]、州立現代デザイン・応用美術館[mudac]、エリゼ写真美術館)を統合、機関車用車庫跡地を利用したアート地区を建設し、今年の6月にオープンした。エリゼ写真美術館は、旧個人邸宅から、現代建築にスペースを移し、より革新的な展示を試みる。エリゼ写真美術館の「LabElysée」と呼ばれるスペースでは、こけら落としに、トニー・アウスラーの個展を開催。アウスラーは、未確認飛行物体(UFO)との遭遇と証言という一風かわったテーマを扱う。長年個人的に収集し続けてきたアーカイブから、UFOの撮影写真やイメージをすべてデジタル化し、プロジェクターとスクリーンを使い、ユーモラスなインスタレーションとして発表している。

© Kyoko Kasuya

© Kyoko Kasuya

UFOにまつわるイメージのディテールを強調し、さまざまなところから集めた映像を混ぜ合わせることで、アウスラーは見るものの知覚を翻弄し、混乱させ、イリュージョンを作り上げる。70年代からUFOにインスピレーションを受け、制作を続けたアウスラーの原点が垣間見れる展示となっている。時間の経過とともに、スクリーンやプロジェクションの映像や画像が切り替わる。暗い空間にぼやっと浮かび上がるUFOを立て続けに見ると、あたかも自分も未確認飛行物体に遭遇したかのような不思議な感覚に陥った。

© Photo Elysée

© Photo Elysée

© Photo Elysée

タイトル

「ANOMALOUS」

会期

2022年6月18日(土)〜11月6日(日)

会場

エリゼ写真美術館

開館日

月曜、水曜〜日曜

時間

10:0018:00(水曜のみ10:00~20:00)

休館日

火曜

URL

https://elysee.ch/en/exhibitions/carte-blanche-to-tony-oursler/

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