光射す
先月パリで二つの個展を開くことになり、準備とレセプションのために10日間ほど滞在した。
ひとつは長年付き合いのあるギャラリーで、預けている作品の中から構成して展示するという内容のため準備にそんなに時間はかからなかったが、もうひとつは新規に作品を制作しなければならなかった。
Photo Daysというパリ市内各所でアート写真の展示を開催するイベントの一環として参加することになったので、ディレクターの方と1年くらい前からやりとりが始まり、会場の下見も去年済ましていた。
そこは元印刷工場だった場所をギャラリースペースとして運用しているファンデーション・ソッツァーニから展示会場に提供していただいたのだが、プリント作品を展示するにはひと工夫入れないと難しいという印象だった。
壁をいくつか作成したいが予算的に可能だろうかと相談したところ、ディレクターもそれはできるはずだと同意してくれたので、不安が残りつつもこの場所でやってみようとなったのだった。
とりあえず最初に自由に展示プランを考えてよいということで壁をいくつか作成するパターンで提出したが、施工の見積もりがあがってみると結局予算と折り合いがつかないということで再度練り直し。打ち合わせでは予算はあるから大丈夫ということだったのだが、結局全然足りなさそうだった。
仕方がないのでその後プランの修正を先方と何度もやりとりしながら最終プランが出来上がるまでに時間を要し、段々と自分の気持ちが固く縮こまっていくような感じがしてきた。せっかく久しぶりにパリで展示ができるというのに、なぜ自分のなかはもやもやと曇っているのだろうと、途中で何度かそのやりとりに疲弊してしまって気持ちが折れかけた。
このままではだめだと思い、以前お世話になったことのあるパリ在住の日本人の方にあいだに入ってもらうようにお願いしたら、そこから格段に諸々の負担が減り、彼女のおかげでなんとか展示開催まで漕ぎ着けた。
無事に設営が終わってオープニングにはたくさん来場者があり、ホッとしてここ数ヶ月の苦労が報われた気がした。
パリから戻って娘の七五三のお祝いをすることにした。最初着物を着るのを嫌がっていたので、そんなに嫌なら3歳のお祝いはしたからもうしなくてもいいかなと思ったのだが、自分が7歳のお祝いをしてもらわなかったことに寂しい気持ちになったことを思い出した。
当時は七五三の意味がよくわかっていなかったのだが、高学年くらいになったときに同級生と七五三の話になり、自分は7歳の写真が残っていないことを不審に思い、母親に尋ねたところ3歳しか着物を着せたりしていないということを聞いて、ほかの同級生はその写真があるのに、自分はないということが寂しいような気がしたのだった。いま思うと当時の家庭環境は経済的に大変だったし、祖父母含めて家族総出で必死に働いていたからあまり余裕がなかったのだろう。
自分のように時間が経ってから娘に7歳の七五三の写真がないと騒がれては困ると思い、なんとかなだめて着物を着せ、神社に連れていった。もう12月に入っていたので七五三まいりの参拝客は少ないかもしれないと話していたのを娘が聞いて、ほかに着物を着ている子いるのかなあ、ひとりだと嫌だ、とまたぐずり出したが、神社から着物姿の幼い子どもが数人出てきたのを見てほっとしたようで、飴もらえるかな、と機嫌が良くなってきた。
境内に入ると思った以上に着物で着飾った子どもたちがたくさんいて、すっかり安心したようでこちらもほっとする。
受付を済ませ、ご祈祷を受けるために社殿の渡り廊下を歩いていると、それまでどんより曇っていた空から急に光が射し込んだので夫と声を上げた。自分たちの結婚式のときも同じように、神主さんが祝詞をあげ始めると光が射したことを思い出したのだった。
娘の成長を祝福されているようで嬉しい気持ちになり、じんわりと自分の心も晴れやかに伸びていくようだった。
無事にお祓いが終わってから、千歳飴とおもちゃをもらったことでテンションがあがった娘は来てよかった!と笑顔になった。来てよかったね、やらない前から嫌だっていうのはもったいないことだったよね、と言ってから、ふと自分もパリの展示を投げ出さないでよかったなと思えた。いま振り返ると関係者一同が根気よく付き合ってくれたのに、なぜあんなにつらいと思っていたのか。
年齢のせいか、ふとしたことで落ち込みやすくなったり、聞いたことを忘れたりすることが最近多いような気がする。先日も、あることで自分の勘違いで同じ質問していたことがあり、数ヶ月前に聞いたことが記憶から抜けていたことに気づいた。その後先方に謝ったのだが、自分が怖くなってしまった。
時々俯瞰で物事の全体と細部を見るように心がけないと……と年の瀬に反省しつつ、曇り空から光が射し込んだときの、自分の内側が温かくなっていく感覚を覚えておこうと思った。
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