21 June 2017

Photographer Saul Leiter: A Retrospective

「ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展」“再発見”されたパイオニアの軌跡

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東京

21 June 2017

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「ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展」“再発見”されたパイオニアの軌跡 | タクシー

ソール・ライター《タクシー》1957年 発色現像方式印画 ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Estate

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そんな「ライター流」の姿勢からは一体どんな写真が生み出されたのか。ライター流の姿勢が醸し出す不思議な感覚は、ある面ではその同時代性のなさから来ているともいえるだろう。もちろん、1940〜50年代のニューヨークの雰囲気が伝わってくるという点では同時代的な写真であることは間違いない。しかし、巨匠ロバート・フランクが(ライターがニューヨークを撮っていたのと全く同じ)50年代にアメリカ全土を旅行しながらつくり上げた写真集『The Americans』とライターの写真を比べてみればその差は一目瞭然で、ライターの写真はあまりにもささやかすぎる。そして、そのささやかさこそがライターの写真を現代的なものにしているともいえる。傘を差して足早に過ぎ行く人々、タイムズスクエアのネオン、ショーウィンドウがぼんやりと反射する買い物客の姿…本展で展示されているいくつかの写真は、2017年に撮ったものだといわれても納得してしまいそうなほど現代的だ。

また、前述の通りジャクソン・ポロックやマーク・ロスコといった抽象表現主義の名だたる画家と交流があったにもかかわらず、写真からは彼らの影響が読み取れないことも興味深い。ライターの友人の多くは写真家ではなく画家であり、彼自身、抽象的な絵画を描いたこともあった。しかし、2009年にディーン・ブライアリーが行ったインタヴューにおいて「自分が誰かから影響を受けたとは全く思っていない」と語っているように、その影響関係については否定している。同インタヴューでディーンは、ライターの写真の多くが縦位置で撮られていることに日本の絵巻物からの影響を見てとっている。ライター自身はその影響について明言しないが、日本画も集めていたことを明らかにしていることを鑑みれば、むしろ日本美術こそが彼に影響を与えていたのかもしれない。本展ではライターの絵画作品も展示されているため、絵画と見比べることでまた写真の印象も変わってくるだろう。

ジェイ

ソール・ライター《ジェイ》写真1950年代・描画1990年頃 印画紙にガッシュ、カゼインカラー、水彩絵具 ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Estate

こうしたライターの姿勢を表しているのは、何も写真ばかりではない。展示会場の端々に掲げられているライターの「言葉」は、ときに写真以上に彼の姿勢を表現している。「見るものすべてが写真になる」、「無視されることは偉大な特権である」、「取るに足りない存在でいることには、はかりしれない利点がある」…ライターの言葉からは、人から注目されることを拒む彼の性格が伝わるばかりでなく、被写体の選び方や世界との向き合い方がにじみ出ている。彼の言葉は補助線となり、展示された写真の合間に言葉が挿入されることでライターの哲学がより一層立体的に立ち上がってくる。

「幸福は人生の要じゃない、大切なのはもっとほかのことだ」とライターは語った。会場に展示された数々の写真は、「もっとほかのこと」がもつ美しさを讃えながら、わたしたちに語りかけてくるのである。

映画『Beyond the Fringe』 のキャスト(ダドリー・ムーア、ピーター・クック、アラン・ベネット、ジョナサン・ミラー)とモデル『Esquire』

ソール・ライター《映画『Beyond the Fringe』のキャスト(ダドリー・ムーア、ピーター・クック、アラン・ベネット、ジョナサン・ミラー)とモデル『Esquire』》1962年頃 ゼラチン・シルバー・プリント ソール・ライター財団蔵
© Saul Leiter Estate

タイトル

「ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展」

会期

2017年4月29日(土・祝)~6月25日(日)

会場

Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都)

時間

10:00~18:00(金・土曜は21:00まで/入館は閉館の30分前まで)

入館料

【一般】1,400(1,200)円【大学・高校生】1,000(800)円【中学・小学生】700(500)円*( )内は前売券および20名以上の団体料金

URL

http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_saulleiter.html

ソール・ライター|Saul Leiter 
1923年、米国ピッツバーグ生まれ。ユダヤ教教職者の家に生まれ神学を学ぶが、1946年に画家を志してニューヨークへ。ユージン・スミスらと知り合い、1948年からカラー写真も撮り始める。早くからMoMAなどに作品が展示され、『ライフ』誌やファッション誌で活躍した後、1980年代に一線から退く。 2006年にドイツ・シュタイデル社から封印されていた個人的なストリート写真などをまとめた写真集『Early Color』を刊行。2008年にパリのアンリ・カルティエ=ブレッソン財団で開催された初の個展をはじめ、欧米各地でも展覧会が開かれる。その色彩センス、反射、透明性、複雑なフレーミング、ミラーリング効果など、都市風景をユニークに映し出すスタイルで熱狂的なファンを多く持つ。2013年、ニューヨークで死去。

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