ドイツで写真をメディアとする卒業制作作品のコンペ、グーテ・アウスジヒテンにベルリン、ヴァイセンゼー芸術アカデミーの山田梨詠がセルフポートレイトによる私的な家族写真の再構築「Familie werden(家族になる)」で受賞。ドイツと日本の見知らぬ10家族のアルバムをもとに自己演出し、撮影した作品には大きな関心が寄せられた。巡回展のスタートとなったデュッセルドルフのNRWフォーラムに山田を訪ねた。
インタヴュー=浦江由美子
構成=IMA
写真=オリバー・ジーバ
―受賞おめでとうございます! まず、ドイツの若手写真家に与えられるという、この賞グーテ・アウスジヒテン(“良い眺め”という意味)のことを教えてください。
2004年から始まり今年で14回目となるコンペティションで、写真学科などドイツ国内の大学や教育機関の卒業制作作品を各校から5名までが担任教授の推薦により応募でき、毎年9月に数名の受賞者が選出されます。ドイツの学校に行っていれば、国籍は問われません。受賞をすると1年間、国内、そして国外でも巡回展示されます。最近では知名度も上がって、写真を作品メディアとしている学生は皆、そのチャンスを目標に作品制作に力を注ぎます。
―山田さんの「Familie Werden(家族になる)」は展覧会入口のバナーにもなっていました。とても注目されている作品のようですね。
嬉しいです。家族写真は私たちにとって一番身近でかけがえのない写真のジャンルです。東北の震災後に家族写真が持ち主に戻されるということもきっかけに歴史的に家族のかたち、また家族写真のあり方を考えさせられることになりました。家族写真についての卒論も書きました。多様化や大衆化した家族写真は社会を写し出しています。家族写真は言語化や一般化しづらい個人的な感情や記憶を、第3者にある程度共有したり、伝えることができる媒体ですが、多くの家族写真は時間の経過とともに、箱やアルバムの中でずっと眠ってしまうことが多い。私はその写真たちを再び解釈し、セルフポートレイトという表現への再構築を試みました。被写体となったモデルはすべて私自身です。写真そのものだけだとわかりづらいので、それぞれの家族のことを想像して書いたストーリーと持ち主のオリジナル写真を小さなアルバムにして、添えて展示しています。
不思議なもので同じ様な服を身にまとい、同じ様な化粧を施し、おなじように髪型を整えてカメラの前に立っていると、オリジナルの写真の中の雰囲気や状況のようなものが感じられました。
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日本とドイツの家族写真を用いる理由
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。