16 February 2018

Dialogue
Andrew Durham × Nakako Hayashi

対談 アンドリュー・ダーハム×林央子
ソフィア・コッポラ映画の舞台裏を綴る、メモリアルブックの舞台裏

AREA

東京都

16 February 2018

Share

アンドリュー・ダーハム×林央子「ソフィア・コッポラ映画の舞台裏を綴る、メモリアルブックの舞台裏」 | 『Andrew Durham SET PICTURES Behind the Scenes with Sofia Coppola』

『Andrew Durham SET PICTURES Behind the Scenes with Sofia Coppola』

ソフィア・コッポラ監督20周年を記念して、コッポラ映画の制作現場を長年追い続けてきたアンドリュー・ダーハムによるメモリアルブック『Andrew Durham SET PICTURES Behind the Scenes with Sofia Coppola』(DU BOOKS)がリリースされた。一緒に一冊の本を作りながらも、一度も会ったことはなかったという写真家のダーハムと編集者の林央子。去る1月に、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』ジャパンプレミアのため、コッポラとともにダーハムが来日した機会に、写真集のサイン会が開かれたBOOKMARCで二人は初めて出会い、“映画の舞台裏の舞台裏”を改めて振り返る。

文=IMA
写真=Yuichiro Tamura 
Special Thanks: Hiroko Kawasaki, Nakako Hayashi, BOOKMARC

対談 アンドリュー・ダーハム×林央子

出来上がったばかりの写真集について語り合うアンドリュー・ダーハム(左)と林央子(右)。

構想20年以上、実作業3カ月以下!?
雑誌での経験が活かされたスピーディな本作り

林央子(以下、林):やっとお会いできて嬉しいです。実際に仕上がった写真集をご覧になっていかがでしたか?

アンドリュー・ダーハム(以下、ダーハム):すごく満足しています。見る人が親密さを感じるような本にしたかったので、思い描いていた通りでした。僕も、やっとお会いできて嬉しい。それにしても、今回の本作りはすごいスピード感でしたね。スタッフ全員に感心しています!

林:10月がキックオフでしたが、アメリカのクリスマスホリデーのあとに、日本のお正月休みもあったので、実質3カ月なかったかもしれませんね。

ダーハム:僕がロサンゼルスにいて、デザイナーのジョセフ・ローガンはニューヨーク、林さんや出版社の方々は東京。時差があるので、この写真集を作っている間は夜中まで起きていました。深夜2時くらいに東京がアクティブでしたから。いまだからいいますが、ときどきウィスキーが入っていたこともあります(笑)。

サイン会場のBOOKMARCに並べられた、メモリアルブック。柔らかいピンクの表紙が、いかにもソフィア・コッポラらしい。

サイン会場のBOOKMARCに並べられた、メモリアルブック。柔らかいピンクの表紙が、いかにもソフィア・コッポラらしい。


林:昨年10月から写真集作りの実質的な作業に入りましたが、アンドリューさんは昔からソフィアの写真を撮っていますよね。写真集に関してはいつ頃から構想があったのでしょうか。

ダーハム:私たちはソフィアが18歳のときからの友人で、1994年の『Hi Octane』頃から彼女の映画製作現場を撮り始めました。そのうち、どちらからとでもなく「この写真は、写真集に入れたいね」という会話をよくするようになったんです。なので、構想は20年以上。でも、実作業は3カ月でしたね。そういった目標もあったので、できる限り、すべての写真の権利を自分が持つようにしてきました。大きな製作会社から、宣伝用に写真の権利を買いたいと言われることもありましたが断っていたんです。なので、今回ソフィアの映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』の日本プレミアに合わせて、彼女の監督20周年を記念する写真集を作ることになり、もちろん、ふたつ返事で引き受けました!

林:そういえば、1996年に、ホンマタカシさん(写真)とマイク・ミルズ(アートディレクション)と作った本『BABY GENERATION』で、ソフィアの取材をしたときも約2カ月で本を作りました。私は、スピーディな制作も好きなんです。そのスピードによって生まれるものもあると思うので。例えば、ファッションが綺麗な理由には、スピードもあると思います。

ダーハム:その頃からソフィアを知っていたんですね。

林:はい。『Vogue』『ハーパーズバザー』『i-D』『The Face』など、たくさんの雑誌を読んでいた時代で、初めてソフィアを知ったのも、彼女が『Vogue Italia』の表紙を飾ったことがきっかけでした。

ダーハム:僕もずっと雑誌の仕事をしているので、速いスピードには慣れています。この本が実現できたのは、マガジン世代の賜物かもしれないですね。それにアーカイブも整理していたので、実際に動き出したら速かったです。


interview-20180215andrew-durham_05

数々の顔を持つソフィア・コッポラの、
監督としての環境を伝えるメイキング本を目指す

林:写真を選ぶ際に、実際にお会いできないので、私の方からいくつか方向性を箇条書きで提案させてもらいました。例えば、有名な俳優や女優の写真を多く入れることをプライオリティにするのではなく、カメラや音響機材などが映っているもの、役者さんたちがスマートフォンを持っているところを多くしたいなど。映画とは虚像で始まり、虚像で終わりますよね。でもそれが作られている環境が見えると、急に現実と地続きになります。ここでのソフィアは、モデル、写真家、母ではなく、映画監督ですよね。なので、映画監督としてのソフィアの環境を見せるメイキング本を作ろうと考えたんです。

ダーハム:すごく良い提案だったと思います。そういったレイヤーが加わることで、観る人に映画の舞台裏に入り込んだように感じてもらえたら嬉しいです。写真のセレクトの流れとしては、まずは私が300枚くらい選んで、林さんに送って約100枚まで絞ってくれましたよね。その後、僕がロサンゼルスから、デザイナーのジョセフ・ローガンがいるニューヨークに飛んで、3日間彼のスタジオで編集作業をしたんです。セレクトした写真すべてを出力して部屋の床に広げて組み合わせていきました。

© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.


林:写真集には、デビュー作から最新作『The Beguiled / ビガイルド 欲望のめざめ』に至るまで含まれていますが、映画ごとに分けない構成にしたのは、アンドリューさんの案だったんですか?

ダーハム:それは、ジョセフからの提案でした。異なる時代や映画の写真であっても、見開きで並べてみて良かったらその感覚に従うことにしました。例えば、『SOMEWHERE』の撮影現場のエル・ファニングと、『ロスト・イン・トランスレーション』のときのソフィアが出かける前に靴を履いている様子を撮った一枚の組み合わせも気に入っています。

『Andrew Durham SET PICTURES Behind the Scenes with Sofia Coppola』

『Andrew Durham SET PICTURES Behind the Scenes with Sofia Coppola』

林:ソフィアは、本作りに対して意見しましたか?

ダーハム:私たちは、好きなものの感覚や美意識を共有しているし、長い間のコラボレーションから生まれた信頼があるので、ほとんど任せてくれました。

林:あなたの写真の中では、ソフィアをはじめ、キャストもスタッフもリラックスしているように見えますね。

ダーハム:それは、ソフィアが作りだす雰囲気なんです。彼女は、現場でいつも落ち着いていて、怒鳴り散らすところなんて一度も見たことがありません。いつか彼女が叫んでいるところを撮りたいくらい(笑)。現場のみんなとも信頼関係を築けているから、素の表情を見せてくれますね。美しいドレスを身につけたまま携帯をいじったり、バイクに乗ったりしている姿とかね。

ソフィア・コッポラ

プレミアの後に、BOOKMARCのサイン会に訪れたソフィア・コッポラ。B1Fのギャラリースペースでは、1日限りの映画関連の展示が開催されており、ソフィアを囲んでもパーティも開かれていた。


林:アーカイブを振り返って見えてきた、ソフィア・コッポラ監督とは?

ダーハム:この20年間で、もちろん彼女は映画監督として技術的な部分はとても進歩したけど、妥協せずに自分に正直な物作りをしている点では昔もいまも変わらない。このアーカイブから、いつか1990年代にフォーカスした写真集を作りたいと思っていて、きっといまのソフィアしか知らないキッズたちも刺激を受けるんじゃないかな?

林:私もこの本をきっかけに、アーティストたちによるソフィア自身、ソフィアの創り出す世界、最新の映画などへの応答を、ひとつの世界にして見せたい、と思うようになりました。彼女の映画のあらすじでもなく、彼女のセレブとしての存在ではなく、彼女の作りだす「美」にフォーカスしたくて。アーティストから見たソフィアを可視化したいと思い、小池アイ子、小林エリカ、田村友一郎、ミヤギフトシに、彼女の映画や世界観に呼応する作品を作ってもらい、それらをハンカチにプリントしたハンカチ文集『Sofia’s Circle』を作ったんです。書店ユトレヒトで2月14日(水)〜18日(日)まで展示もしています。

20年間映画監督として素晴らしい作品を世に送り出し続けるだけでなく、ソフィア・コッポラの魅力、美意識、存在感は、世界中の多くの人々を魅了してやまない。彼女を囲むリアルな環境が垣間見れる写真集を通して、いつもより身近な視点から彼女のこれまでの歩みを振り返り、2月23日(金)から公開される、コッポラ最新作品『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』を鑑賞してみるのもいいのでは?

▼写真集
タイトル

『Andrew Durham SET PICTURES Behind the Scenes with Sofia Coppola ソフィア・コッポラ監督20周年記念メモリアル・フォトブック』

著者

ソフィア・コッポラ(序文)、アンドリュー・ダーハム(写真)

発行元

DU BOOKS

発売元

ディスクユニオン

価格

2,500円+tax

▼プリント
タイトル

『Andrew Durham SET PICTURES Behind the Scenes with Sofia Coppola』オリジナルプリント

価格

・203mm×254mm:50,000円+tax
・279mm×356mm:75,000 円+tax
・406mm×508mm:100,000円+tax
*各エディション5部/額装別料金

販売受付期間

~2018年2月28日(水)

BOOKMARC|ブックマーク
住所:東京都渋谷区神宮前4-26-14
電話番号:03-5412-0351
営業時間:11:00~20:00
定休日:不定休

アンドリュー・ダーハム|Andrew Durham
ルイ・ヴィトン、マーク・ジェイコブスなどの広告やさまざまなファッション、カルチャー誌で活躍する写真家。そのほか、ロサンゼルスの大学で写真を教えている。

林央子|Nakako Hayashi
編集・執筆。2011年『拡張するファッション』を上梓。この本に基づいた展覧会「拡張するファッション」のキュレーションに参加(2014年、水戸芸術館現代美術センター・丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)。2002年から個人雑誌『here and there』を主宰。最近の仕事はAndrew Durham『SET PICTURES』の編集。

2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

Share

Share

SNS