Interview
Yoshiyuki Okuyama

奥山由之インタヴュー
「不確かなもの」をテーマに据えた最新写真集のこと。憧れの存在、そしてこれからについて。

4 November 2020

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奥山由之インタヴュー 「不確かなもの」をテーマに据えた最新写真集のこと。 憧れの存在、そしてこれからについて。 | 奥山由之

時代の表現を牽引する担い手。この10年ほどの時間の中で、奥山由之の存在感はますます大きなものになっている。メディアを横断して創作される個性的な写真や映像作品の数々。それら表現の厚みはどこからやってくるのか?最新写真集の制作行程から、奥山がいま考える創作のあり方までを聞いた。

文=池谷修一
写真=川合穂波

―最新作の『The Good Side』について聞かせてください。ご自分の新婚旅行をおさめた写真集。フランスからの出版ですね。

この写真集は、海外流通ということもあり、僕のことをほとんど知らない人たちがどう見てくれるのかという意識が強かったです。そして、自分自身で内容を構成すると、やはり「写真」というよりも「思い出」としての湿度が前面に出た構成になってしまって、感情表現の印象が強くなり、コンセプトが読み取りづらくなる。なので、誰か自分以外の人に「写真集」として、冷静に構成してもらいたくて、オランダのデザイナー、Kummer & Hermannにお願いしました。この旅では5カ国へ足を伸ばしたのですが、写真集では、ページごとに場所が入り混じっています。ロンドンとパリ、ストックホルムが混在していたり。つまり時系列の記録ではなく、5カ国全体を1つの旅として再構築してもらいました。加えて、べた焼きも挿入することで、場所や目線の移動、そういった「流動」を強く感じられて、この作品のコンセプトにも寄り添った素晴らしい構成になりました。

そして、捲る度に写真は、何をもって真実なのかということを問いかけてきます。

―そうして奥山さん自身も気づくことがあるわけですね。

いつもそうですが、時が経過して、写真を見返して、初めてわかることが多々あります。特に写真集制作においては、何年後かに見返すことで、制作当時の自分自身や、写真との向き合い方に客観的に気が付きたい。いま、この本を買ってくださった方々も人生の変化の過程で、本棚から取り出してみたら、その時によって違うことに気付けるのかもしれません。読者自身や社会の変化が重なり合い、捲る度に気付くことが大きく変化する、その点が写真集の醍醐味ですよね。その変化を自分自身も認識するために作っていうところがある。もともと新婚旅行の写真を本にするつもりはなかったんです。たまたまフランスの出版社(Editions Bessard)から提案があって、それで改めて写真を見返してみた。気付いたのは、記憶というものは、とても曖昧なものだということでした。そして、曖昧なものは、この世界に沢山ある。自らをとりまく環境だったり、誰かに対しての想いだったり。確かなものなど、殆ど存在しない。けれども、写真は、その瞬間が紛れもなく過去であることを確かなものとして突きつけてくる。時間を経て、変化していることを、確かなものにしてしまう残酷さがあります。ポジティブであれ、ネガティブであれ。

―本にすることで、曖昧なものにもかたちが与えられるということでしょうか?

そうですね。時の流れには誰も抗えないので、全ての物事は変化を前提に存在している。目の前の出来事も、世界の環境も、人間関係も変わっていく。写真は、「その事」が間違いなく過去であるということを確かなものにしてしまいます。まさに、この本を構成、印刷している過程で、コロナ禍になり、さまざまな環境がガラリと変化した事実もありました。僕がこの本を通して伝えたいことは、世界は「不確かなもの」で溢れていて、自分自身の存在だって、その一つであるということ。紛れもなく写真は過去であり、いまではない、ということ。そういった残酷な表現である、ということを感じてもらいたくて作りました。

つまり、「新婚旅行」イコール、幸せな記憶の集積、という一面的なテーマではなくて、その先にある、写真の残酷さ、僕たちは不確かなものに囲まれていまを生きている、ということ。であれば、いまを大切にして生きていきたい。という思いまで伝わるといいな、と。冷たい、寒い、悲しい温度を感じて欲しい。流動には抗えないことを。幸せと表裏一体の不安を。

奥山由之


―楽しさと美しさに満ちた写真はそこに確かに存在する。でも流動していくという考えは興味深いですね。

流動を感じるためにも、本としてまとめることは大切な行為です。写真一枚一枚からだけではなく、構成や装丁も含めて「当時の自分」を改竄できない状態に追い込む。僕は、写真集を作りあげたそのときには敢えて言葉での明確な答えを持ちません。極力言葉から逃れて、自分の感覚的な根本を曝け出す努力をしたい。言葉に頼り過ぎると、いつの間にか綺麗にまとまってしまい、言葉を超えられなくなる。なので、写真集はタイムカプセルの様にして、10年後くらいに自分が見るためのものとして編んでいます。当時の自分ではない自分になった時、客観的にとらえなければ気付けないことが、僕の写真には写っていて欲しい。

―奥山さんは自分が撮った写真に対して一貫して距離を置き、見つめ、考え続けている印象があります。

写真集『BACON ICE CREAM』(2015年)は自分にとっての「写真」とは何か、を将来的に知るための、まさにタイムカプセル的な1冊でした。なぜ自分らしい写真だと感じるのか、その理由を言葉に置換出来ない写真だけを、意識的に残していきました。何万枚もの写真をネガからプリントし、部屋中の壁に貼って毎日見て、言葉が浮かび上がるものは外していった。初めての写真集だった『Girl』(2012年)は、まだ本を作る上での構成力など、技術的な筋肉がない状態で、がむしゃらに纏めた一冊でした。発売から数年後に見返した時、よくあれが作れたなと思いました。いまの自分は昔の自分ではないことに明確に気付かされた。当然のことではありますが、もうあの時のようには作れない訳です。その時にしか作れないものがあることに、年々気付いていく。だからこそ、いましか作れないものを全力で作りたい。

奥山由之

―いまのお話は、音楽の作り手と共通する感覚ではないかと思いました。その時期の人たちだけが作り得る音があるというような。

確かにそうですね。たまたま最近はミュージシャンの方々と対談させて頂く機会が多くて、まさに僕ぐらいの年齢の頃のお話が皆さんすごく面白い。20代の終盤って、周囲からの認識も、「子供」から完全に「大人」に変化していく頃で、人によっては家族ができたり、仕事の規模が大きくなったり、責任という言葉が身近になったり、いうなれば第2章に入り始める時期ですよね。仕事人としての筋肉がつき、脂がのってくるタイミング。そこで自信が湧いてきたり、一方で悩みが加速してくると皆さんおっしゃっていて。でもいまでもずっと素晴らしい創作を続けている方々なので、それは、僕にとっては大きな勇気が湧きました。

―自分自身の新鮮さを保ちながら作って行くことは、ひとつの理想でしょうか?

ある方から、植田正治さんに纏わるお話を伺ったことがあって。表現者とは精神的にアマチュアであればあるほどに理想的である、と。植田さんは、晩年であっても、まるで初めて写真を撮る人のような眼の輝きで持っていたと。新鮮さを保っているということですよね。いつだって人生1枚目のように撮れる。そういう方がいらっしゃったことがすごく嬉しくて。僕もそうなれるといいなという憧れがあります。

―いまでも憧れが創作の起点に繋がる感覚でしょうか?

ええ。いろんな先輩方への憧れに支えられている人生だったりします。僕自身は、まず川久保玲さんと、あとは、90年代から2000年代にかけて映像表現を牽引した、スパイク・ジョーンズとミシェル・ゴンドリー、チャーリー・カウフマン。彼らが僕に生きる活力を与えてくれたし、そういう存在に自分もいつかはならないと存在意義を見出せないぐらい僕は弱い生きものなのだなと。ですから、政治であれ、経済であれ、芸術であれ、憧れの存在というのは絶対に大切なんですね。

奥山由之


―作り続ける創作の背景にある強い意思。奥山さんが憧れる作り手に共通するものは?

切実さだと思います。作ることに対して、切実さがある人。大袈裟にいえば、とにかくこれを作らねば生きていけない、というような常軌を逸するパワーが抑えようにも自然と湧き上がってきて仕方なく、作られた創作物。自然さが大事です。自信をもって、目を輝かせてそうした人が作ってきたものが大好きですし、僕もそうでありたい。

―今後の予定も聞かせてください。

映像表現であったり、複数の写真集、展覧会の企画を同時に進めています。特に、最近になって変わったことは、自分以外の人の意見や価値観、客観性を積極的に取り入れて、一つの作品を作り上げることが、楽しくて。勿論、確固たる自信と確信がある部分に関しては、やはり譲れないのですが、いろんな方々との出会いや存在が新しい景色を見せてくれる。とても刺激的な毎日で、この先に完成するいくつもの創作物を、自分自身が誰よりも楽しみに、そして不安な気持ちで待っています。

Flowers

奥山由之|Yoshiyuki Okuyama

1991年東京生まれ。2011年『Girl』で第34回写真新世紀優秀賞受賞。2016年には『BACON ICE CREAM』で第47回講談社出版文化賞写真賞受賞。主な写真集に『As the Call, So the Echo』『The Good Side』『君の住む街』『POCARI SWEAT』『Los Angeles / San Francisco』などがある。主な個展は、「BACON ICE CREAM」パルコミュージアム(16年)、「君の住む街」表参道ヒルズ スペースオー(17年)、「As the Call, So the Echo」Gallery916(17年)、「白い光」キヤノンギャラリーS(19年)など。また、映像監督として数多くのTVCM・MVなどを手がけている他、近年では、広告・CDジャケットなどのアートディレクションも行なっている。今秋、新作写真集『The Good Side』をフランスの出版社・Editions Bessardより上梓。