音楽DJのマドモアゼル・ユリア。華やかな色使いの出で立ちがきらびやかなファッションアイコンでもある。最近は着物スタイリストとしても活躍。大学で日本文化を学び歌舞伎を研究、着付け教室も行い、学術面・実践面から本格派だ。その感性は美容師である父と、スタイリストだったという着付け師の母譲り。クリエイターの家庭には写真集が揃い、ユリアは自然と手に取っていたという。そんな彼女が選ぶ写真集はピエール・エ・ジルとロバート・メイプルソープの作品集。幼少期から愛読している2冊という。華やかなピエール・エ・ジルはユリアらしいが、モノクロで静謐なメイプルソープは相反する印象だ。しかし、そこにはある共通項がある。ユリアが耽溺する両者の魅力は?
取材・文=IMA
撮影=織作麻衣
―ピエール・エ・ジルとメイプルソープ。対照的な二人の作品集ですね。まずはピエール・エ・ジルから好きな理由を教えてください。
まず2冊とも子供の頃から家にありました。ピエジルは自分が撮られるとしたらこんな風に撮られたいという写真作品なんです。
―ユリアさんのイメージにぴったりです。
そうですか(笑)。画像は色も質感も手が加えられていて、もはや写真を超えてイラストやキャラクターのようになった作品は華やか。このタッシェンの作品集にはミック・ジャガーや山口小夜子などの著名人から無名の人まで様々な華やかなポートレイトと共に冒頭には彼らのムードボードようなコラージュブックが紹介されています。
―ピエジルといえば、フランス人ファッションデザイナー、ジャンポール・ゴルチエのキャンペーンを撮っているイメージが強いです。
ゴルチエの有名なポートレイトもありますよ。あ、菊池桃子さんや天海祐希さん、テイ・トウワさんなども載っているんです。
―それは意外な方も被写体になっているんですね!特に気に入っている一葉はありますか?
1枚には絞れないのですが、宗教画のような写真と、周囲をバラが囲んだ軍人のカットが気に入っています。
彼らの写真はブロマイドのようでもあり、ファッション写真のようでもあり、宗教画のようでもあり。ひとつひとつの作品の先に更に世界が広がっているようなファンタジーです。
私、クラシックな写真館が好きで世界中の写真館巡りをしているんですが、中国の深圳の写真館でピエジル作品をイメージして友人と撮りました(笑)。
―本人撮影に向けての予行演習ですね(笑)。
京劇の衣装をセレクトして、ピエジルのように周りにプロップを配置。3時間くらいかけて勝手にピエジル・ワールドに没入しました。
深圳の写真館で撮ったというポートレイト。
―これはかなり再現度高いですね!
被写体としてピエジルの世界に入りたいんです(笑)。私は脈絡なく、モノを集めるのが好きなんですが、スノードームもそのひとつ。ピエジルの世界ってスノードームのようにファンタジックですよね。
2020年のKYOTOGRAPHIEを見たんですが、京都府庁舎で行われたオマー・ヴィクター・ディオプの展示はピエジル感があるポートレイトで面白かったです。
―そこまでぞっこんなピエール・エ・ジルと並ぶもう1冊がメイプルソープというのが意外です。
メイプルソープはピエジルと真逆の世界ですよね。この作品集は過去の展覧会の図録です。人の肉体や花は輪郭が強調され、オブジェのようでフォルムの美しさを捉えていると感じます。
年季の入ったロバート・メイプルソープの展覧会図録。
幼少の頃より見ていましたが、中学生の頃に改めて手に取ると、どうしてこんな写真を撮ったんだろうと考えたんです。私は中高一貫の美術系の学校に通っていたんですが、石膏像をデッサンしたりするので、なおさら考えさせられました。
思春期の頃って小難しいことを考えるようになると思うんですが、“アートとは”ってこんな感じなのかと。ピエジルはインパクト凄いですが、芸術としての写真はメイプルソープのような作品なのかなと感じましたね。
―モノクロですが、フォルムや陰影などにそこはかとない色気があります。
そう、メイプルソープの被写体は彫刻的なんですが、どこかエロスを感じるんです。代表的な花の写真なんてドキッとします。静物も力強く、見る者に訴えかけてくる。
メイプルソープもピエジルも共に見ていいのか悪いのかという背徳感が良いですね。
切り取られたページを「両親が部屋に飾っていたのかもしれない」。
―ここまで写真に親しんできたなら、音楽よりビジュアルの表現者を目指さなかったのが不思議です。
どちらかというと自分が表現するより、人に何かを伝えることをやりたいんです。見て来たものを人に共有したい。DJは学生時代にバンドをやっていたことが発端なんですが、さまざまな曲を繋ぎ合わせて紹介していくことです。着物スタイリストもこの良さをみなさんに伝えたいんですね。
―幼少の頃から触れていたと仰っていましたが、ご両親に勧められたんですか?
いえ、強制されたことはありません。自然と好きになりました。ピエジルもメイプルソープも独自の美意識がありますよね。その人にしかつくれないものに惹かれるんです。アートも音楽もファッションも。
メイプルソープの花なんて、何も知らないで見ると単なる花ですが、彼が何者かという知識があると一気に解釈が奥深くなります。彼にしか撮れない。文脈を踏まえて鑑賞すること、それがアートの楽しみ方じゃないでしょうか。
マドモアゼル・ユリア|Mademoiselle Yulia
10代からDJ兼シンガーとして活動を始め、現在は着物のスタイリングも務める。国内外問わず多くのファッションイベントでDJ。ファッションアイコンとしてシャネル、グッチ、ロジェ・ヴィヴィエなどのキャンペーンに起用。2020年には京都芸術大学を卒業し、本格的に着物スタイリストとして活動。英ヴィクトリア・アルバート博物館で開催した着物展覧会”Kimono Kyoto to Catwalk”のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当した。
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。