21 September 2021

守本勝英
“いまライカM(TYP240)でファッションを撮るのが楽しい”

私と愛機 vol.13~旬のフォトグラファーとカメラの関係~

21 September 2021

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守本勝英 “いまライカM(TYP240)でファッションを撮るのが楽しい” | 守本勝英

ファッション誌から、ハイブランドのシーズンビジュアル、アーティストのポートレイトまで幅広く活躍する守本勝英。近年、彼が仕事でもプライベートでも愛用するカメラはライカM(TYP240)。その場所、その時間だけに漂う、言葉ではいい表せない独特のムードをとらえることができるというライカの魅力を聞いた。

文=小林英治
写真=川島 宏志

ファッションストーリーをライカで撮る

―守本さんの愛用のカメラを教えてください。

ライカM(TYP240)です。ライカはこの前にもM9を買っていて、2013年に新しいのが出たときにこれを買いました。前の機種がファッションをベースにやっている仕事には向いてないというか、特に動きのあるものや、人物の瞬間瞬間を追うのには適してなかったんですね。それで仕事では主にニコンを使っていたんですけど、ニコンの調子が悪くなって修理を出している間にライカを使ってみたら、「あ、こういうペースもいいな」って思えたんです。ニコンとかキヤノンほどバシバシ連写で撮れるカメラではないんですけど、質感とか、少し古めのレンズを使うと出る味も含めたら、これはこれでアリだなって。それから、普段どこかへ出かけるときもライカを持っていくようになって、使っていくうちに愛着が湧いてきました。

ライカM(TYP240)


―いまは、仕事でもプライベートも使用されていると。

そうですね。仕事の場合でも、35mmのときはなるべく使ってますね。ライティングを組んだりするようなファッション撮影には使えないですけど、雰囲気やムード重視のときは、ライカの方がいいかなと。ルックブックの仕事など、バッチリ洋服を写したりする撮影に関しては、今はハッセルブラッドH6Dを使っています。

―実際のお仕事をいくつか教えてください。

例えば、ファッションシューティングでもこの『VOSTOK No.002』(CHIASMA、2019年)のときのように、カチッと撮るというよりは、その場所のちょっとしたドキュメンタリー性も含め、あまり事前に決めないで撮るときはだいたいライカです。このときは沖縄で撮影したんですけど、その場所に行って、散歩の延長というか、その町の雰囲気の延長で撮る場合に使いますね。

『VOSTOK No.002』より

『VOSTOK No.002』より

『VOSTOK No.002』より

『VOSTOK No.002』より

『VOSTOK No.002』より

『VOSTOK No.002』より


―モデルは、守本さんがPVも撮られたラッパーの5lackですね。これは守本さんの人選ですか?

編集サイドから、あまりカチッとしたファッションをしたくないというオファーがあったので、「じゃあ、その時間をともにする被写体が重要だね」とスタイリストと話しあって、お互いに知っていた彼に頼みました。ラッパーの方をこういうふうに撮るのは逆に新鮮だったかなと。

―レンズは標準ですか?

はい、50mmです。広角レンズはあまり使わないので、買ったときの標準レンズを使ってるだけなんですけど。あと、ライカって基本割とボケ足があるカメラなんですけど、風景を撮るときには、被写体にもよりますがカッチリ絞って撮ることが多いです。

―ファッション写真といっても幅がありますが、スタジオでライティングしてキッチリ撮るより、全体でひとつのストーリーとして見せていく方が守本さんは好きですか?

いま撮っていて面白いのは、そういうときの方ですかね。仕事によって服を気にするときと気にしないときのチャンネルがあるんですけど、被写体との関係とか、流れている空気とか、そのときの状況に対してシャッターを押してく感じに近いファッションストーリーが、自分の中では理想的だなと思っています。そして、そういう撮影ではやっぱりライカが適していると思います。

アウトドアブランドのSnow Peakのカタログでは、自給自足に近い生活をされているご家族が暮らしている土地に行って、ドキュメンタリータッチで撮っています。身に付けているのはブランドのものですが、実際の生活空間の中でライカで撮っています。洋服を着せている時点でメイクフォトはしてるんですけど、なるべくそうならないような空気で撮るのは、やっぱり楽しいですね。

Snow Peakのカタログより

Snow Peakのカタログより

Snow Peakのカタログより

Snow Peakのカタログより

Snow Peakのカタログより

Snow Peakのカタログより


流行を意識するからこそ基準となるライカ

―ファッション写真においてカメラの選択で意識されていることはありますか?

そのテーマや時代によって、カメラの相性があるなと思っています。ファッションは移り変わりが、特に最近はすごく早いなと思ってるので、そのタイミングで雑誌やまわりの感じを見て、どのようなカウンターを打とうかを考えます。雑誌の中で、何か引っ掛りになるようなことをしたいのもありますね。例えば、カチッとした写真が流行っているのであればライカで撮ったりとか、あとは幾つかのカメラをミックスしてみたり、そういう使い分けはしています。

―これだと決めるよりは、やはり時代との関係が大きいと。

そうですね。個人的には、「これだ」って1台には決めたいんですよ(笑)。あのカメラマンはこれをずっと使っていたっていうことがすごい魅力的に思えて。そのカッコ良さはもちろんあるんですけど、一方で、本来はどういうカメラでもいいのかなとも思ったりもします。だから、iPhoneでもいいだろうしって思うんですけど、そればかりだと逆に変化球でしかないというか。移り変わりの激しいファッションをやっているからこそ、普遍的なところをキープしておく必要はあるとも思っています。

―時代に振り回されてもいけないということでしょうかね。

そういう意味では、いまはライカが自分の基準みたいになってる部分がありますね。ライカを使う人はよくいう話だと思うんですけど、レンジファインダーということもあり一眼レフと違って画角が自分の思い通りにならない点も含め、余白があり自分の意思以上のもの、写っていると思ってもいなかったものが写っているのは、自分にとっては魅力的なことろでもあるので。

守本勝英


写真の幅が拡がった『kesho:化粧』の撮影

―メイクアップアーティストのUDAさんが4月末に出された『kesho:化粧』(NORMAL)では、守本さんがすべての撮影を担当されています。日本の季節の暦である七十二候をキーワードに、季節の移ろいをメイクアップで表現・提案していますが、この撮影はどのように行われましたか?

ほとんどこの事務所と外のベランダで撮っています。たまにロケに行ったり、和室を借りたりもしましたけど、8割以上はここじゃないかな。ライティングを組んだのもありますけど、ペーパーを垂らしたりして、ほぼ自然光で撮りました。


―UDAさんからの要求もあったと思いますが、守本さんが意識されたことは何ですか?

事前にこう撮りたいというUDAさんの希望があるもの、例えばテーマが「夕涼み」や「月の光」など、時間帯があるものに関してはそれに沿って撮りましたが、そうでなければその場の判断やインスピレーションで撮る必要がありました。UDAさんのいう『化粧』というものが、より日常的であるべきだという考えを念頭に置きつつも、入念に練り込んでやったというよりは、「その感じだったらこのバックで、この光でやったらいいかもね」と、即興に近い感じで決めていきました。メイク以外の風景や花の写真に関しては、事務所で一緒に撮るときもあれば、たまたまほかで撮った写真を入れることもありましたけど、あくまで主役はメイクなので添えるイメージです。カメラは、ハッセルブラッドを使用したものもあればライカのときもあります。

―守本さんから見てUDAさんのメイクの特徴はどんなところにありますか?

ヘアメイクの方たちは職人なので、ディティールを見せるために、視点がどうしても見せたい部分に集中してしまうことがあります。UDAさんはその中でも、一歩引いた広い視野で見れている人だなと思います。

―このプロジェクトを通して気づいたことや発見はありますか?

ずっとファッションをやっていると、写真にもいえることですが、結局西洋的な考え方をベースにしていたんだということに、当たり前かもしれないですけど改めて気づきました。ファッションをやっていると洋服を扱うこともあり西洋的な考え方が別に悪いことではないんですけど、いままで散々そっちをやってきたあとで、今回のような日本の色彩感覚やコントラストのとらえ方に取り組んだことはすごく勉強になって、写真に対する見方の幅も拡がったと感じています。

守本勝英

その時間にしか流れていないムードを探して

―今後、取り組んでみたい仕事やテーマなどはありますか?

この仕事を始めてから、プライベートではカメラを持たない時期が結構長かったんですけど、最近は出かけるときにライカを持っていくようになりました。純粋に写真を撮る楽しみを感じていて、いいなと思える写真が撮れることが自分の中で増えてきました。

―仕事ではなくプライベートで撮る写真で、守本さんにとって「いい写真」とはどういうものですか?

写真を撮るときに、被写体をこう撮ろうという明確なものはなくて、その時間に流れるムードとか空気感というものをより意識するようになりました。本当に自分が好きな時間、好きな瞬間というのは、突然訪れるんですね。例えば、雨が降る手前の生ぬるい時間みたいな、そういう時間に魅力を感じることが多くて。なので、そういう時間や瞬間を探しながらも、全然考えてないときに自然に撮らされてしまったような、そこにあるモヤッとした間みたいなものが写っている写真が撮れたときかもしれないです。なかなか言葉ではいい表せないところもあるんですけど。

―出かけるときも写真を撮りに行く感じではないんですか?

写真を撮りに行こうっていう感じではあんまりないんです。もちろん写真は狙いに行ってるんですけど、ピンとくれば撮るけど、そうでなければ撮らないっていう。割とそのときに出会ったものをたまたま撮ることが多いです。

―そうやって撮られた写真を作品化する予定がありますか?

いまは、ピンときたそのムードをただ撮ることが、自分の中では重要だと思っています。なので、あんまりコンセプトを決めてそこに向かったり、発表することを前提にやってしまうとそれはそれで違う気がしますけど、集まってきたものをまとめて出してみるのは良いかもしれません。割とファッションはやり尽くした部分があるとも感じるので、こういうスタイルで旅雑誌の撮影もやってみたいですね。

守本勝英

守本勝英|Katsuhide Morimoto
1974年神奈川県生まれ。日本大学経済学部在学中、1997年より写真家・富永よしえに師事し、1999年に独立。これまでに『VOGUE』、『BRUTUS』、『RollingStone』、『STUDIO VOICE』などのさまざまな雑誌や広告、アーティスト写真、CDジャケット写真などで活躍。

タイトル

『kesho:化粧』

出版社

NORMAL

出版年

2021年

価格

7,700円

仕様

ハードカバー/237×186 mm/368ページ

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