俳優、永山瑛太による写真展「永山瑛太、写真」がライカギャラリー東京/ライカプロフェッショナルストア東京、ライカギャラリー京都で始まった。2022年1月には雑誌『GINZA』の連載をまとめた写真集を発刊するなど、写真家としての一面も持つ永山。本展ではポートレイトやスナップを出展している。彼にとって写真とは何か?展示の設営後に時間をもらった。
撮影=竹澤航基
スタイリスト=壽村太一
ヘアメイク=寺沢ルミ
取材・文=IMA
ライカに直談判
―まず、ライカで展示をすることになった経緯を教えてください。
もともとカメラが好きで、ライカに興味がありました。初めて手に入れたのは、コンパクトデジタルカメラのライカD-LUX3です。20代中頃、出演した映画で賞を獲り、その賞金で購入しました。授賞式が銀座だったので、そのままライカ銀座店に買いに行きましたね。
そのとき、店頭にMシリーズが並んでいました。代表モデルのM型で撮ったらどうなるのかな?と思ってネットで調べたりしているうちに、ライカ沼やレンズ沼という世界があることを知り、徐々に物欲としてもハマっていったんです。
2016年に『GINZA』の連載が始まりました。その前にライカM6を手に入れました。ライカは初心者には難しいカメラ。それでも意地になってお金を掛けてでも撮れるようになってみせる!と連載を進めていきつつ、レンズなどを増やしていきました。
そしてあるとき、ライカM10が出た頃だと思うんですが、銀座店に自分のライカと写真に対する熱意をぶつけに行ったんですよ(笑)。
「ライカで撮って、連載は続いています。周りからどのカメラで撮ってるの?と聞かれることが多くなった。僕ならライカの良さを伝えられると思います!」って(笑)。そこから何度か打ち合わせをして、今回の展示となりました。
―すごい熱意ですね(笑)。設営された展示会場を見ていかがですか?
もう自画自賛、感無量ですね。映画だと俳優として演技のアラを探したりしちゃうんですが、自分の作品でここまで感動するっていままでにないことです。
―写真集で撮られた著名人の方たちの写真も多く出展されていますが、被写体とはどんなコミュニケーションを?
本人と打ち合わせして場所やシチュエーションなどを決めて、撮影中は二人きりにさせてもらって撮っています。
あと、著名人が被写体の場合、その人が過去どういう風に撮られているか調べて、いままでにない写真を撮るようにしました。
例えば長渕剛さんの息子ReN君はいつも前髪を下げているので、撮影ではオールバックにしてもらいました。田中泯さんには何をやってもいいといわれたので水を掛けたり。でも、撮影中、緊張してこっちが手汗でびしょびしょになりましたね(笑)。
カメラは武器みたいなもので、正直、向けられて心地良い人はあまりいない気がするんですよ。だからカメラを向ける際は、とにかく心を開きます。ふざけたり、面白いこといったり、奇声を発したりして何か起きないかなと思いつつ撮らせていただきました。
でも東京の会場の展示写真にはあまり笑顔の写真がないんですよね。
―笑顔を撮りたかったですか?
やっぱり、好きな人が笑っているというのは良いですね。
僕が撮った笑顔が自然なのか、そうじゃないのかわからないけど、撮られた瞬間、僕と向き合ったときの表情は僕にしか撮れないものがいい。
東京の会場は笑ってるカットがあまりないですが、京都会場や写真集にはいっぱいあります(笑)。
気持ち悪い!? 自信作のセルフポートレイト
―著名人ポートレイトのほか、永山さんのセルフポートレイトも今回の見どころです。
コロナ禍、山の中でセルフポートレイトを撮ったときに、これが会場に並んでいるのも面白いと思ったんです。また、俳優として自分が撮影される機会も多い中で、自分自身が撮ったポートレイトは客観的にどう思われるのかと考えることもあって。
今回の中では、裸のカットが特に気持ち悪いと思うんですよ。ライカのタイマーを12秒にセットして撮影を繰り返したんですが、そのうちお風呂のおもちゃメルちゃん人形まで持っちゃった。
色んな人に見せたんですが、これはやめた方がいいというのが多くの意見でした(笑)。でも逆にチャンスではないかと。気持ち悪いとか、何でこの写真を選んだのかとか、見た人に引っ掛かることが大事です。それは気になったということですよね。
既成概念にチューニングを合わせて写真を撮っていたら、僕がカメラをやる必要がないし、プライベートで家族の写真を撮っていればいいだけ。見た感想は、良くも悪くもどっちでも嬉しいです。
その程度のバッドニュースくらいで落ち込むとしたら、それがその人の仕事における才能の限界だと思うんですよね。と考えると、自分はまだ才能の限界が来ていない。まだもうちょっといけるという気がしています。この写真も、実物見るとめちゃくちゃいいんですよ。満足しています。
―マットにドローイングしていますね。
ライカギャラリー東京ではセルフポートレイトがステイトメントと共に迎えてくれる。
セルフポートレイトだけなんですが、フレームのマット紙のドローイングにはものすごい時間をかけて描きました。
自分が写っているからどうだ、というよりも自分が写っているものに装飾することによって、写真だけで終わらせたくないというか。すべて真っ白だと、「自分を撮ったんですね」で終わりで、なんか恥ずかしい。
ほかのスナップにも描こうと思ったんですけど、夕景のカットに対して時間が経ってから絵を描いてしまうと、そのときのイメージに対する思い出が異なってしまう感じがして描いていません。
説明しないとわからない写真はありますが、写真にタイトルがついていたら、それと写真を繋げますよね。僕は写真にタイトルはいらないんじゃないかなと思う。セルフポートレイトの場合、タイトルの代わりに絵になったんです。
セルフポートレイトが展示の最初にありますが、僕の中では、最高傑作を一番目に置いているんで。写真家ってあまり顔を出さないじゃないですか。「僕が僕を撮りました」ということで、先頭にあるのがいいんじゃないかと。あまりこういうことをやっている人は少ないですし。
展覧会で、写真が作品となった
―そもそもなぜ写真を撮るようになったんですか?
母親がコンパクトフィルムカメラで七夕とか、誕生日とか行事ごとを撮って、コラージュしてファイリングしていたんです。それを見るのがとても好きで。僕が6歳になったら弟が生まれて、そしたらすぐ母親が弟を撮り始める。そんな光景を見ていて、なぜ母親が撮るのか気になっていたんです
ファイルを見ていると、弟が生まれた瞬間はなんとなくしか覚えていないけど、病室の雰囲気とかが写真に残っていると、写真は記録じゃなくて記憶にすり替わるんですね。その作業をやってくれた母親に対する感謝が大きくて、それがいまに繋がっています。
母親から遺伝した写真を撮る行為が、この写真展になったことで神秘的になったと感じます。それはプリントの仕方や空間の良さとか、作品にダウンライトが当たっているとか、そういった家で見るのとは違う空間になっていることも大きいと思います。
展示は、どこか自分の写真から離れた感じがするんです。写真集は集大成みたいな感じで、幼稚な部分もあるし、人に見てもらいやすく作った感じがします。もちろん貴重な作品集なんですけど。
それが個展になると、写真が“作品”になったという印象で。自分の撮った写真から離れたというのが正直な感想です。
―これからもポートレイトを撮りたいですか?
気になったものはなんでも撮りたいです。展示ではスナップも良い作品に仕上がっていると思うので、ぜひ見ていただきたいですね。
▼東京 | |
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タイトル | |
会期 | 2022年8月19日(金)~11月15日(火) |
会場 | ライカギャラリー東京/ライカプロフェッショナルストア東京(東京都) |
定休日 | 月曜(ライカプロフェッショナルストア東京は日月曜) |
URL | https://leica-camera.com/ja-JP/event/leica-gallery-tokyo/eita-nagayama |
▼京都 | |
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タイトル | |
会期 | 2022年8月21日(日)~11月17日(木) |
会場 | ライカギャラリー京都(京都府) |
定休日 | 月曜 |
URL | https://leica-camera.com/ja-JP/event/leica-gallery-kyoto/eita-nagayama |
永山瑛太|Eita Nagayama
1982年生まれ。東京都出身。俳優として自身のキャリアにおいて数々の受賞歴を誇る。写真家として多くの著名人のポートレイトやスナップ作品を手がけ、2022年写真集『永山瑛太、写真』を発刊。近年はアーティストとしても独自のペインティング作品を発表し、多方面で才能を発揮。