31 October 2022

アートなザ・ノース・フェイス新店舗“スフィア”とは?杉本博司・新素材研究所出身、橋村雄一のクリエイティヴィティ

Presented by THE NORTH FACE

31 October 2022

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アートなザ・ノース・フェイス新店舗“スフィア”とは?杉本博司・新素材研究所出身、橋村雄一のクリエイティヴィティ Presented by THE NORTH FACE | 橋村雄一

今年7月、東京・原宿の明治通り沿いに、ザ・ノース・フェイスの新店舗「ザ・ノース・フェイス スフィア」(以降スフィア)が誕生した。
スフィアは、「個人の集合である社会、そして世界全体の平和や豊かでサステナブルな社会を実現するための緩やかな繋がりを生み出すための拠点」となることを目指した店舗で、都市を自然環境と捉え、「もしその場所に建築物が樹木のように発生したのなら?」という発想から生まれたという。このフラッグシップストアを手がけたのは、気鋭の建築家デュオ、澤田航と橋村雄一による設計事務所「Sawada Hashimura」。現代美術家・杉本博司主宰の新素材研究所出身でもある橋村に、この店舗に込めた思いや都市と建築の関係などを聞いた。

撮影=清水はるみ
取材・文=龍見ハナ


――今年、東京ミッドタウンと、ゴールドウインの創業の地である富山県で開催された「PLAY EARTH PARK」への参加(橋村たちを含む5組の気鋭建築家が遊具をデザイン)をきっかけに、このスフィアの建築家に選出されたと聞きました。

ゴールドウインクラスの企業になると、有名な建築家に依頼することもできたと思うの ですが、おそらく一緒に1から作り上げて全力で取り組んでくれる若手とやりたかったというのが大きかったのかなと理解しています。

ザ・ノース・フェイス スフィアは6階建て7層。物販の他、イベントスペースやテラスを備えた気持ちの良いショップだ、住所:東京都渋谷区神宮前6-10-11、営業時間:11:00~19:00、定休日:水曜日 https://www.goldwin.co.jp/tnf/run/concept/

ザ・ノース・フェイス スフィアは6階建て7層。物販の他、イベントスペースやテラスを備えた気持ちの良いショップだ、住所:東京都渋谷区神宮前6-10-11、営業時間:11:00~19:00、定休日:水曜日


――内装だけではなく躯体から手がけられることはこれまでそう多くありませんでしたね。橋村さんたちの作品を拝見していると、やさしさや調和といったキーワードが思い浮かぶのですが、今回は躯体からつくるということで、より作品性を考えられたりしたのでしょうか?

今の段階において、「これが僕たちのスタイルです」と言えるものが確立されているわけではありませんし、あるいはそれを重視していないのかもしれません。

だから、今回の依頼を通じてこれが僕たちのデザインです、という主張をしたかったというより、クライアントとビジョンを共有し合って一緒につくりあげていくプロセスをより重視したと言えると思います。

1階は売り場にせず地下1階を見通せる吹き抜けを設けた贅沢なつくり。

地下1階。トレーニングアイテムがそろう。

地下1階。トレーニングアイテムがそろう。

地下1階階段周りには木のアートが配される。細かい部分にも建築コンセプトが反映されている。


――これまでの多くの有名建築家は、建築そのもののかたちを含め、ひと目でその人の作品とわかる独自性に価値を置いてきたと思いますが、橋村さんを含め、若い世代の建築家からそうしたエゴをあまり感じません。

確かにそうかもしれません。僕らを含め、若い世代は建築で独自のエゴイスティックなかたちをつくることにもはや面白みを感じない人は少なくない。ポストモダニズムという、非常に奇抜なかたちの建築や、逆にミニマリズムを突き詰めた建築が流行した時代に対するカウンターという側面もあると思いますが、建築という巨大で莫大なエネルギーを使うものに対するある種の慎重さがあります。

サステナブル建築などと言われますが、建築自体はサステナブルでも、それをつくることには巨大なエネルギー消費が伴うわけで、そういったことを考えると、シンプルに作りたいという意識がはたらきます。建築文化の発展という観点から見ると消極的に映るかもしれないのでジレンマもありますが、それを乗り越えることが今の時代性でもあるのかなと思います。

――あるいはわかりやすい「かたち」ではなく、サステナビリティという視点から新しい何かが生まれる可能性は大いに秘めていそうな気もします。

かたちが新しいだけでは新しさを感じないという感受性と、サステナビリティの意識が同時に共有されてきている気がするので、そこから育まれる新しさがあるはずです。

――それでも資本主義社会の中では、新しい建築をつくるニーズがあったり、プロダクトを作り続けることで経済活動を維持する必要もある。地球環境を思ってものづくりをやめてしまったら、文化的な意味でも後退してしまうかもしれない。橋村さんにとっての、そうしたジレンマを乗り越えて前に進むためのドライブとはなんでしょうか?

2階はランニングアイテムがそろう。ファサードはグリッド上のガラス張りで自然光がふんだんに注ぐ。

金属と木を組み合わせた什器が建築コンセプトを象徴する。

窓際は3階へと吹き抜けになっている。


そうですね……地球のことはもちろん大切ですが、生きていく以上、人間の文化の存続も大事だと思います。人間活動が豊かではないのに地球だけ守るというのもどうなんだろう、と。

建築でサステナブルという時にいつも思うのは、何をやっても地球への負荷は避けられないということ。ただ、たとえそうだとしても、人の意識を変えていく装置にはなり得る。例えば、かつては断熱性能を全く気にかけずつくられた建物も多かったですが、そういうことが大切だと知れ渡るだけでも価値はあると思うんです。

また、すでにある建築をどう使っていくのか、ということを考えることもやはり大事だと思います。古い建物の断熱性能が低かったとしても、それを長く使い続けることの方がサステナブルという意味では重要なのかもしれない。

結局、環境に良い省エネルギーの建築であっても、それが10年で建て替えられてしまっては元も子もない。だからやはり、長く愛される建築を設計することの方が大切かもしれないと思います。

3階はカスタムアイテムサービスの「141 CUSTOMS for ATHLETIC」とポップアップスペース。

ポップアップスペースは岩のように什器がランダムに並ぶアートなエリア。

天井にはオリジナルの環境音楽を流す特注スピーカーが下がる。


――一方で、建物の寿命はさまざまな外因にも左右されますね。例えばスフィアのある原宿は、日本のカルチャーの震源地として常に変化してきました。街と建築の関係性という意味で、意識することはありますか?

街に違和感を与えないものをつくりたいという意識はあります。商業ビルって、いかにファサードで目立つかが勝負だったりしますし、例えば表参道のように、街がそうした建築物のショーケースになっている場合があります。

でも僕は、ゴールドウインのビルはその勝負に参加するべきでないと直感的に思い、 シンプルだけどブランドイメージを表現している、というデザインを目指しました。

――街に違和感を与えないということに配慮すると、ややもすると退屈なデザインになってしまう懸念はありませんでしたか?

そうですね。グリッドをベースにした鉄とガラスのファサードがいかにも近代建築という佇まいですが、ガラス越しに 木質のインテリアを感じられる。外はクールだけど、中は温もりがあるというような対比が外観にも現れることを意識しました 。また中もほっこりしすぎないように、什器には新素材や現代的な素材を用いて適度な緊張感を保っています。

――グリッドではありますが柔らかさを感じるのは、線の細さゆえでしょうか?

橋村雄一


あまり男性的に見えないものを、というクライアントからの要望に加えて、敷地が狭かったこともあり、構造にも大きい部材ではなく全体的に薄く細い部材を用いたんです。そうして躯体が空間を支配しないように注意したことも奏功したのかもしれません。
あとは、建築自体を軽くする必要があったんです。というのも、地中10メートル近くまであった前の建物の杭を取り除くことが不可能だったので、それを生かして新しい建築物を建てるためには、建物を軽くしなければいけなかったんです。

そのためのさまざまな工夫が結果的に、結構大きな環境負荷低減に繋がりました。もちろん、軽やかであることは一つの環境負荷低減策でありつつも、それがどんな条件下においても有効というわけではありませんが。

――1階の入り口にあるつくり付けのベンチも象徴的ですね。


ファサードに設けられたベンチ

ファサードに設けられたベンチ

原宿って、無数のショップがある一方で裏手には民家があるし、その意味で人間的スケールが残っている街。そんな原宿にパブリックスペースを提供したいという気持ちから、街を歩く人が少し休める場所としてベンチを設けました。ベンチは人間が座るためのものですが、座ると建物に触れるじゃないですか。そんなふうに、建築に触れてもらうための工夫でもあるんです。

――現代美術家である杉本博司が主宰する建築事務所、新素材研究所の出身ですね。最後に、杉本さんから学んだことを教えてください。

時間に対する射程の長さでしょうか。杉本さんはとにかく歴史に対する造詣が深いんです。そうして歴史に接続しながら現代美術をつくっていらっしゃる。過去から現在まで続く時間の上に自分がいるという価値観に、もっとも影響を受けたと思います。それは僕が学生時代、その後の数年を過ごしたロンドンからも感じたことです。

橋村雄一
一級建築士。多摩美術大学、University of East Londonにて建築を学んだ後、Tony Fretton Architects、Carmody Groarke、新素材研究所を経てSawada Hashimuraを設立。


▼ザ・ノース・フェイス スフィア
https://www.goldwin.co.jp/tnf/run/concept/

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