写真を始めてからわずか数年でイタリア版『VOGUE』によるプロジェクト『PhotoVogue』に見出されるなど、大きな注目を集めるクリスティーナ・ロシュコワ。本誌41号でも、ロシアの片田舎で出会った少女たちのひと夏を撮影した『The Bliss of Girlhood』(2022年)を紹介したが、その後も精力的に活動を続けてきた。
そんな国際的な活躍とは裏腹に、拠点とするロシアでは表現への過剰な検閲が跋扈(ばっこ)し、困難が続く。2024年には、ある作品をきっかけに逮捕・検挙すらされたという。そんな彼女による、国内2度目かつ、初となる大規模な個展『unbewitched/アンビウィッチド』が開催中だ。同展にあわせて初来日したロシュコワに、会場となったPARCO MUSEUM TOKYOで話を聞いた。
ポートレート撮影=齊藤幸子
取材・文=阿久根佐和子
日本だからできたこと
――初めての来日ですね。東京はいかがですか?
クリスティーナ・ロシュコワ(以下、KR):日本はすごく好きで、今回の滞在はとても楽しみにしてきました。ロシアでもいろんな日本食を食べてきたつもりだったけれど、実際の日本食はまるで違って、それはそれは美味しくて。コンビニエンスストアにハマっています(笑)。毎日のように都内を移動していますが、東京は巨大で……人混みもすごいし、電車も複雑。正直なところちょっと疲れます。私自身は、同じ日本でももうちょっと小さな街の方が性に合いそうです。
――まずは今回の展示が実現した経緯をお聞かせいただけますか。
KR:今回は、写真集『unbewitched/アンビウィッチド』の出版記念として実現しました。2年ほど前に『IMA』41号を見た編集者の菅付雅信さんから出版のお話をいただき、その後に展示が決まったので、私自身は作品集にばかりに意識が向いていたんです。ロシアでは、私の多くの作品はプリントすら難しいため、企画をしてくれた菅付さん、会場構成を担ったデザイナーの村山圭さん、そしてPARCO MUSEUM TOKYOの方々と、多くの力をお借りして展示が完成しました。会場に入った時は新鮮で嬉しい驚きがありました。インパクトのあるとても良い展示にしてもらって、実際に自分の目で見ることができてよかったと思っています。
――今回の展示には写真が35点と映像が3点。制作年にも幅がありますね。
KR:展示と写真集のいずれも、写真を始めた2020年から現在に至るまでのさまざまなシリーズ、そしてどのシリーズにも属さなかった作品をアーカイブ的に含んでいます。モノクロの〈The Bliss of Girlhood〉シリーズは特に気に入っていて、今回はすべてを見せたいという気持ちがありました。
魔法が解けたあとで
――メインビジュアルとなっている鼻にピアスのある女性の顔にまとわりつく赤色は口紅か、はたまた血か。ほかに、銃を手にしたセミヌードの女性、絡みつくように体を重ねる男女……と、強烈なエロスを感じる作品も少なくありません。写真集はさらにその感覚が強く、LGBTQの視点も色濃く感じます。あなたが拠点とするロシアで、このような展示や出版は可能ですか?
KR:答えははっきりと「NO」です。今のロシアにいながらクリエイターでいることは、想像を絶するほど大変なことです。特にこの2年ほどは、自由な表現活動というものが不可能になっている。私たちクリエイターには、作品を作っても全く誰にも見せないか、自宅での展示のようなかたちで限られた友人たちだけに見せるか、あるいはロシアを出てしまうという手段しかありません。私は2024年の6月に、不本意にも政治犯となりました。“不自由”のメタファーとして緊縛を取り入れ、墓地で女性を撮影したところ、キリスト教信者の気持ちを愚弄した罪に問われて検挙されたのです。そのようなことがごく普通の人々に起きる。今回の写真集の被写体となった友人たちも、半数以上が亡命しました。私自身は検察に懲役4年を求刑され、その判決の直前に今回の出国に至りました。
――あなたも亡命を考えているのでしょうか。
KR:まだロシアを出たばかりですから、はっきりとしたことは言えません。でもドイツでアーティスト・イン・レジデンスの予定があり、その後もヨーロッパのどこかの国で制作を続けられたらとは思っています。
――「unbewitched(魔法が解けた、夢から醒めた)」というタイトルは、そういう意味で示唆的でもありますね。
KR:そういう見方もあると思います。私が6年をかけて撮影してきた周りのクリエイティブな友人たちとの日々は、自分たちで異世界を作り上げてきたことの記録ではないだろうかとも思います。ロシアを出たということは、異世界をつくる魔法などそもそもなかったという意味でもあるのかもしれません。
被写体はほぼ全員が友人で、私は映画監督のような立場で話をしながら場を俯瞰して撮影しています。ロシアでもクリエイターたちの中にはLGBTQの人たちは少なくありませんから、周囲を撮影していると自然とLGBTQをテーマに含むことになる。でもそういうテーマは、密告者や政府のターゲットになってしまいやすいんです。
瞬間を切り取るような衝動を、写真以外でも
――以前、本誌41号でインタビューをさせていただいた際に「カメラを手にしたこと、写真を撮り始めたことはほんの偶然で、表現手段は写真でなくてもいいかもしれない」とおっしゃっていました。写真を始めて6年が過ぎ、今は写真をどんな風に感じていらっしゃいますか?
KR:今のほうが写真に対してもっと真面目に向き合っている気がします(笑)。最近のプロジェクト〈Gut Feeling〉では、リサーチのプロセスをより重視して取り組みました。とはいえ、そもそも「プロジェクト」という考え方自体にも若干の古臭さは感じていますし、撮りたい時、出会った時の衝動は、今もとても大切にしています。
――あなたの作品では、写真をトリミングしていることが多いように思うのですが、実際はどうですか? また、現在の写真機材はどんなものを使っていますか。
KR:トリミングは作品づくりの大前提ですね。私にとって写真を撮ることは力を持つこと。さっき映画監督のような立場で撮っていると話しましたが、現実と関わることが好きだけれど、その現実を、ドキュメンタリーというよりはフィクションとして撮っている感覚です。写真とは現実をそのままにとらえることでも、そこから離れることでもない。何か違うものをつくるということなんだと。カメラは古くて操作がしやすいNikon D500を使っています。全くプロらしくはない機種だとよく言われます(笑)。
――展覧会終了後に、写真集が全国で手に取れるようになります。ご覧になった方に、何を感じてほしいですか。
KR:今回の写真集には時間をかけてつくってきました。デザインにもこだわって、大満足の本ができたと思っています。いくつものプロジェクトを収録していて、編集としても不思議な組み合わせにしてみたり、ページをめくると思わぬ展開になっていたりします。静かな旅とは言えないかもしれませんね。ただ、考えすぎず、作品を見たことで生まれるいろんな感情を感じてみてください。良いトラウマになってくれたら嬉しいです(笑)。
――今後のプランがあれば教えてください。
KR:ロシアからの亡命のことはもちろんですが、私は自分を写真家というよりアーティストととらえているので、これからどんな風に展開していくかはまだ自分でもわからない部分も多いんです。でも、ひとつお教えできる予定はあって。写真を始めてすぐの頃から、ギリシャのVoidという出版社の出版物が全般的に好きでした。写真家のセレクトも、それぞれの装丁も素晴らしくて。そんなVoidから作品集を出すという夢が今年叶います! 楽しみにしていてほしいです。

Kristina Rozhkov|クリスティーナ・ロシュコワ
1996年、ロシア・ペルミ生まれ。2015年ペルミ国立大学哲学科に入学。2021年サンクトペテルブルク大学実践哲学科修士課程修了、写真アカデミー「フォトグラフィカ」卒業。2023年Vogue主催の若手写真家オーディション企画「PhotoVogue」の「What is Beauty?」グローバルオープンコールに選出。24年「Leica Oskar Barnack Award」ノミネート。ロシア国内以外、イタリア、イギリス、フランスで個展やグループ展を開催。2026年ドイツ・ビーレフェルトの「Artist Unlimited」にレジデンス予定。
| 展覧会タイトル | unbewitched/アンビウィッチド |
|---|---|
| 場所 | PARCO MUSEUM TOKYO(東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 4F) |
| 会期 | 3月20日(金)〜4月13日(月) |
| 時間 | 11:00~21:00 |
| 休み | 無し |
| 料金 | 500円 |
| URL | https://art.parco.jp/museumtokyo/detail/?id=1869 |

| 書籍タイトル | unbewitched/アンビウィッチド |
|---|---|
| アートディレクション | グラハム・ラウンスウェイト |
| 編集 | 菅付雅信&白鳥密(ユナイテッドヴァガボンズ) |
| テキスト | クレア・マリー・ヒーリー&クリスティーナ・ロシュコワ |
| 発行 | ユナイテッドヴァガボンズ |
| 価格 | 6,600円 |
