21 March 2025

深瀬を捉えてくれました--浅野忠信に映画『レイブンズ』についてインタビュー

21 March 2025

Share

深瀬を捉えてくれました–浅野忠信に映画『レイブンズ』についてインタビュー | _MG_9889fff

© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films

国際的に評価の高い写真家・深瀬昌久。この3月、彼の半生を描いた映画『レイブンズ』が公開される。監督を英国人マーク・ギルが務め、深瀬を浅野忠信が演じる。
「カンペキデス」
浅野について、ギルに尋ねたところ、日本語でそう即答された。そしてギル監督は次のように言葉を継いだ。
「『彼を捉えてくれた、彼だった』。これは、プレミア上映を観終わった後、深瀬さんの家族からかけられた言葉でした」
写真家としての自身の表現を追求する一方で、妻であった洋子との関係に悩む深瀬の姿を描いた、映画『レイブンズ』。浅野の演技は、劇中の深瀬に、がぜんリアリティをもたらしているように映る。先述のギル監督が引用したコメントは、その証左といえるだろう。それは単に深瀬を知って演じるということでなく、深瀬の視点を得て、作品の中でどう生きるか、ということだったようだ。浅野に『レイブンズ』と深瀬について、話を聞いた。

ポートレート撮影=竹澤航基
取材・文=菅原幸裕

─今回の映画『レイブンズ』のオファーを受けたときの印象について、まずお聞かせください。

まず、ありがたいお話だなと思いました。というのも、作品の主人公だからこそ、表現できるものがありますから。しかも深瀬さんの物語はとても魅力的だったので、こういう役で、自分がいままで得てきたものを出してみたいと、感じました。

─その後クランクインして実際に演じてみて、当初の作品、または深瀬に対する印象は変わりましたか。

_MG_9814 (1)


オファーをいただいた時、最終の台本が仕上がっているわけではなかったので、監督ともいろいろと打ち合わせを重ねました。また、深瀬さんの写真展が恵比寿でやっていたので、それも拝見しました。この作品の台本をどのように仕上げようか、特に洋子さんとのパートが難しいと、僕自身もやもやしていたところもあったのですが、写真展を見たことで、それが明確になってきました。

写真展には、洋子さんと出会う前の写真、洋子さんとの写真、洋子さんと別れた後の写真が(時系列に)展示されていたのですが、それらがまったく違っていたのです。僕の印象としては、洋子さんに出会う前の写真がすごく良かった。その一方で、出会ってからの写真には、違和感のようなものを感じてしまったんです。そして洋子さんと離婚した後の写真には、深瀬さんのよいところがまた表れているようにも思えました。写真展の後、台本を読み直すと、最初とはまったく違う読み方ができたんです。言葉ではうまく説明できませんが、そういうことなんだ、と理解しました。そして洋子さんとの出会いがラブストーリーというよりも、深瀬さんにとっての混乱の時期という風に感じられて、すごく面白さを覚えました。

その後、監督が台本を書き直している中で、ヨミちゃんというキャラクターが登場して、これでもう(作品は)出来上がった、と思いました。深瀬さんの心理に関して、果たして演じるだけで済むのだろうかと感じていたことに対して、一番いい答えが出てきたと。

─ヨミちゃんは浅野さんがこの作品に参加された時点では、まだいなかったのですか?

いませんでした。最初は監督も様子を窺っていたのだと思います、こんなキャラクターがいていいのかと。でもヨミちゃんが入った台本を送ってもらったときに、僕はバッチリです、と答えました。

─浅野さんは早々に支持されたんですね。

今回の作品に取り組むずっと前から、僕はずっとファンタジー要素がある映画をやりたかったんです。これからは、もっとファンタジーの映画をつくるべきだとも思っています。それも全ておとぎ話ということではなくて、現実には存在しない何かが、日常生活にいるような状態を描くとか。そんな考えを持っていたところに、ヨミちゃんが登場したので、これはいける、と思ったわけです。

─それは意外ですね。ヨミちゃんに違和感は感じなかったと。

それはなかったですね。とことん自分と向き合い、さまざまな仕事をしてきたゆえに、こうしたものが必要なところにいた、という感じです。この作品にも必要ですし、僕の俳優としてのキャリアにおいても、こうしたファンタジーはマッチすると信じています。

ヨミちゃんがいなく、僕1人の演技でも表現することはできますが、それが映画にとって正しいかどうかは、別だと思います。この作品の場合は、映画としての正しさは、ヨミちゃんという存在です。映画というのは基本的には架空のもので、どんなに事実を描いたとしても、それが緻密で、リアリティーがあり、さらに軽やかでなければ、映画らしくない。さらに映画においては、デフォルメされた何かが、すごくリアリティーを増すことがあるとも思っています。

─深瀬の写真展をご覧になられたわけですが、そのほかに深瀬に関して、浅野さんご自身で調べたり、といったことはありましたか。

© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films

© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films

© Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films

特に調べたりはしていません。台本を読んで、自分としてキャラクターをつくっています。僕が資料に目を通したりすると、リアリティーからかえって遠ざかってしまうというか、ただ当てはめるだけの作業になってしまうと思うんです。それは僕としては好きなやり方ではないし、そういうことをするつもりはありません。

─ギル監督が書かれた脚本をもとに演じられるということで、監督への信頼感は高かったということでしょうか。

そうですね、(作品への)入り口はまず監督です。その一方で、彼は日本人ではなく、こちらは日々日本語を話す日本人です。僕らのほうが、監督よりも理解している領域があると思います。

例えばあの時代の日本人で、家族でハグすることはまずありません。それは監督もわからないことかもしれないので、その点は僕らを信じてくださいと。実際に僕の解釈と演技を、すごく信じていただけたと思っています。

─なるほど。浅野さんは絵を描かれますが、今回深瀬を演じて、表現手法として、写真についてどういった印象をお持ちですか。

一ノ瀬泰造さんから始まって、今回の深瀬さんと、写真家の役をいくつか演らせてもらいました。カメラも買って撮ってみたんですが、上手く撮れないんです。今回も久しぶりに撮影してみましたけど、まったくよく撮れなくて。複雑なんですよね、写真は。

いまはデジカメで簡単ですといわれても、露出がどうとか、わかりにくい。この複雑さが僕の何かを邪魔し続けているように感じます。それよりも、そのまま紙に筆で描けばいいというほうが、僕には向いているかもしれません。

_MG_9857

浅野忠信 プロフィール
1973年生まれ。1990年に『バタアシ金魚』(松岡錠司監督)で映画初出演。以降、国内外の名だたる監督の作品に出演。主演作『モンゴル』(08/セルゲイ・ボドロフ監督)が第80回アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされ話題になる。『マイティ・ソー』 (11/ケネス・ブラナー監督)でハリウッドデビュー。その後も、『バトルシップ』(12/ピータ・バーグ監督)、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(13/アラン・テイラー監督)、『沈黙―サイレンスー』(16/マーティン・スコセッシ監督)、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17/タイカ・ワイティティ監督)、『ミッドウェイ』(19/ローランド・エメリッヒ監督)等に出演し、近年では『モータルコンバット』(21/サイモン・マッコイド監督)、『唐人街探偵 東京MISSION』(21/チェン・スーチェン監督)、『MINAMATA ミナマタ』(21/アンドリュー・レピタス監督)、『大名倒産』(23/前田哲監督)、『首』(23/北野武監督)、『湖の女たち』(24/大森立嗣監督)、『箱男』(24/石井岳龍監督)や、ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞した配信ドラマ『SHOGUN 将軍』(24/ Disney+他)など国内外問わず多くの作品に出演。最新作に『かなさんどー』(25/照屋年之監督)、『Broken Rage』(25/北野武監督)、『モータルコンバット2』(サイモン・マッコイド監督)他がある。

『レイブンズ』
監督・脚本:マーク・ギル
出演:浅野忠信、瀧内公美、ホセ・ルイス・フェラー、古舘寛治、池松壮亮、高岡早紀
2024年/フランス、日本、ベルギー、スペイン合作映画/116分/アークエンタテインメント配給
3月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、ユーロスペースほかで全国公開

Share

Share

SNS