ところが、驚くべきことにライターが世界から注目を浴びるようになるのは1990年代に入ってからのことだった。その時代になって初めて40〜50年代に撮影されたカラー写真が日の目を浴びたことで、「カラー写真のパイオニア」として歴史にその名が刻まれたのだ。日本では1953年に東京国立近代美術館で行われた〈現代寫眞展 日本とアメリカ〉において作品が紹介されたこともあったが、広く知られるようになったのは2015年に公開されたドキュメンタリー『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』の存在が大きい。
本展では、そんなライターの作品を余すことなく堪能できる。そこにはモノクロのファッション写真や1940〜50年代のニューヨークを切り取ったカラー写真ばかりでなく、彼が淡々と制作を続けてきた絵画(なかには和紙を用いた作品もある)や身近な女性をとらえた親密なポートレートなど数多くの作品が展示されている。会場を訪れた者はライターの豊かな才能に驚かされるに違いない。
なかでも魅力的なのはやはり1940〜50年代のニューヨークをとらえたストリートスナップだろう。結露し雨粒のついたガラスや窓ガラスの写り込みなどレイヤーを意識させるモチーフの多用や窓枠・柱を巧みに利用した大胆な構図はいま見ても新鮮なものであり、全く古臭さを感じさせない。ドキュメンタリー映画の字幕を担当した翻訳家の柴田元幸が「保守でもなく、前衛でもない、『ライター流』というしかない姿勢が一貫しているのである」と指摘しているように、ライター独特の風景との向き合い方が彼の写真からは伝わってくる。
ソール・ライター《雪》1960年 発色現像方式印画 ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Estate
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。