プラダ 青山店で6月20日(月)まで開催中の「Role Play」展は、大学教授で作家でもあるメリッサ・ハリスがキュレートし、「ロールプレイ」を通して生みだされた、可能性に満ち溢れた自己の存在を考えるプロジェクトである。本物の自分、理想化された自分、そして普遍的な自分の間を行き来しながら、代替可能なアイデンティティを模索、投影、そして作り上げるという概念について探求する。
ロールプレイングや分身の創造、自己の拡散などを切り口として、個人の本質や表向きの人格の追求とその理解に迫るべく、本展では写真や映像などのイメージを中心に国際的に活動する5組のアーティストの作品が展示されている。
内面と外見の関係をテーマとし、自身を被写体にする作風で知られている写真家の澤田知子。「OMIAI♡」(2001年)では衣装やメイク、さらには体重までも変えることで、30人のさまざまなキャラクターに変身している。外見が重視されるお見合いを舞台に自分のイメージを使って他者になりきったこの作品は、見た目による判断基準の曖昧さを感じるだろう。
1989年、ロンドン生まれの写真家ジュノ・カリプソは、女性らしさを独自の方法で批評するセルフポートレイトの作品を制作している。「What To Do With a Million Years?」(2018年)は、ネバタ州ラスベガスで冷戦時代に大富豪が核シェルターとして建設した地下住居を舞台にした作品。ピンク色に包まれた大邸宅で、カリプソは仮面を纏い女性たちが担うあらゆる役割を、一人で完璧に演じている。
1973年、大阪生まれのハルカ・サカグチと1978年、アメリカ生まれのグリセルダ・サン・マルティンのユニットによる「Typecast Project」(2019年)は、アメリカのエンターテイメント業界が抱えるステレオタイプな役割による多様性の欠如をポートレイトを用いて表す。俳優たちが普段求められる役と、理想とする役を2枚比較して並べられることで、彼らが理想とする役割が実際の映画の中ではほとんど見たことがないことに気づくだろう。私たちの身近には、人種や性別による偏見に満ち溢れた問題がいまだに根深く残っていることを風刺した作品だ。
1991年、ヨハネスブルグ生まれの若手アーティスト、ボゴシ・セククニによるアニメーション作品「Consciousness Engine 2: absentblackfatherbot」(2014年)。本作はデジタルネットワーク時代における人間の意識に関する探求の一部である。疎遠になっている自身の父親との関係をシュミレートした同作では、2台のモニター画面にアバターが写り、彼らが実際にやり取りしたFacebookのチャットが無機質な声で淡々と読み上げられる。
Beatrice Marchi Never Be My Friend, 2014 sound 10'16'' Courtesy the artist and SANDY BROWN, Berlin
1階から5階まで移動するエレベーター内に流れるのは、ベアトリーチェ・マルキの作品だ。1986年生まれ、ベルリン在住のマルキの作品には擬人化された架空のキャラクターたちが登場する。本作はそのうちのひとりであり分身でもあるケイティに焦点を当て、思春期のころケイティが友人とチャットで激しく口論をした際の文字を書き起こして音楽化したもの。疎外感を抱えながらも過去に犯した罪から社会復帰を果たしたケイティの姿を想像し、想いを巡らせる。
会場となるプラダ 青山店の5階は、クリエイティブ・エージェンシーのRandom Studioによる光のインスタレーションとともに会場全体が濃い青色で包まれており、空間を歩き回るとまるで吸い込まれるように方向感覚が失われる。鑑賞者を引き込むこの空間設定は、ロールプレイという自分ではない何かになることで自分そのものを顧みることへの誘惑をもたらすもの。本展を通して、時間やジェンダー、人種などを超えた私たち自分自身を探求する機会となるに違いない。
タイトル | |
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会期 | 2022年3月11日(金)~6月20日(月) |
会場 | プラダ 青山店 5F(東京都) |
時間 | 11:00~20:00 |
入場料 | 無料 |
備考 | 新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡大防止のため、状況に応じて入場制限を行う場合有 |