現代工芸の最高峰が結集する展示会「ホモ・ファーベル」がヴェネチアで開催中だ。職人技の存続を支援するためスイスで創設されたミケランジェロ財団の主催で、初回は2018年に開催された。第二回目となる今回は日本がメインテーマで、川内倫子の作品もその一環で展示されている。
文=山下めぐみ
アート・ビエンナーレの開催に先駆け開催された「ホモ・ファーベル」の会場は、ヴェネチアのサン・マルコ広場対岸にある小島、サン・ジョルジョ・マッジョーレ。現在は文化施設としてジョルジオ・チニ財団が管理する16世紀に建てられた旧修道院だ。今回はメインテーマが日本ということで、日本絡みの展示を中心に15のテーマに基づき、世界40カ国から850点余りが出展されている。
12人の人間国宝の作品を展示する『12 Stone Garden』。壁のモニターでは川内倫子の映像が流れる。
photo_Alessandra Chemollo©MichelangeloFoundation
ハイライトとなるのは、MOA美術館・箱根美術館館長の内田篤呉と深澤直人がセレクトした日本人間国宝(無重要形文化財保持者)12名の作品を展示する「12 Stone Garden」である。会場は16世紀に巨匠建築家アンドレーア・パッラーディオが設計した修道院の旧食堂。深澤直人の会場構成で、大きな白いテーブルを12に分割したイメージの展示台に竹工芸、陶磁器、織物、木工芸、漆など現代的な意匠の伝統工芸が並ぶ。それらを彩るのが、壁に設置された12台のモニターで流れる川内倫子の映像作品だ。
制作の様子などを捉えた映像は1分程度のもののリピートで、音声はない。具体的な制作工程を見せるというより、展示品にエモーションを付加するものといった方がいいだろう。当初は人間国宝たちも現地入りして、制作のデモンストレーションも計画されていたが、コロナ禍で叶わず、うち一人は開催直前に他界されている。映像はここに来られなかった職人たちの「気配」である。
来場した深澤直人は、「どの工芸作品もとんでもなく膨大な時間を掛けて作られています。それを映像で伝えるとなると何時間あっても足りません。川内さんの作品はそのコアな部分を切り取ったもので、展示に深みを与えてくれました」と話す。
映像とは別にスチール作品の方は『The Ateliers of Wonders』のタイトルで、修道院の回廊を使って展示されている。中庭をぐるりと囲み、柔らかな光がアーチを通して届くルネッサンス建築の美しい空間だ。ろくろを回す、窯に火を入れる、竹を切り出す、籠を編み上げる、糸車を回すなど、職人の手の動き、そしてその手が生み出す工芸品。それらを捉えた写真が大小に額装され、壁に並ぶ。それに加え、ファブリックに印刷された大判の写真が回廊のアーチ天井から下がり、春の風にゆらめく様子も情緒がある。
その昔、修道士たちが行き来したであろうルネッサンス建築の回廊。そこで見る川内の写真にはいわゆる「日本らしさ」はない。が、それらは俳句のように瞬間の美を伝え、想像力を掻き立てる「間」がある。日本から最初にイタリアに渡ったとされるのは、イエズス会が先導した天正遣欧少年使節である。彼らがヴェネチアにやってきたのは、この回廊が完成して間もない1585年のことだった。4人の使節はたくさんの美術工芸品を日本に持ち帰ったというが、彼らも何らかの足跡を残したに違いない。12人の人間国宝の「気配」を宿した川内の写真。それは折り重なる歴史や、場所に刻まれた記憶をもたぐり寄せる。
タイトル | 「HOMO FABER」 |
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会期 | 2022年4月10日(日)~5月1日(日) |
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