東京を拠点に活動する写真家ヨーガン・アクセルバル(Jörgen Axelvall)が、写真と言葉による回想録『Art Rat』を刊行した。約3万7000語、全30章からなる本書は、写真家として制作してきた作品世界を散文や詩的な記述によって拡張する、250ページの一冊だ。
『Art Rat』でアクセルバルが振り返るのは、自身の人生の30年。ニューヨークで過ごした15年間と、現在まで東京で過ごしてきた15年間をつなぎながら、1990年代から2000年代のニューヨークでの記憶、HIVへの感染、その後のステージ4の癌の診断、パートナーとともに直面した困難を一人称で綴っている。深刻な経験を扱いながらも、語りには時折ユーモアが差し込まれ、個人的な記憶と病をめぐる経験がテンポのあるノンフィクションとして展開される。
執筆を始めたのは2019年。当時アクセルバルは、代替的なホリスティック療法によってHIVが抑制されていると考えていた。しかし2020年に癌と診断されると病状は急速に悪化し、生命の危機に直面。執筆はいったん中断され、それまで信じていた価値観が揺らぐなかで、科学的治療を回復への道として受け入れることになる。4年間の寛解を経て執筆を再開したとき、当初構想していた物語とその意図もまた、大きく変化していたという。
本書を特徴づけるのが、文章と写真を並列させた構成だ。30章それぞれの間には見開き2ページのイメージページが設けられ、写真とともに詩句や警句、格言、詩などを収録。掲載される61点の写真は、アナログフィルム、インスタントフィルム、ポラロイド、デジタル写真と多岐にわたり、30年にわたって蓄積されたアクセルバル自身のアーカイブから選ばれている。
『Art Rat』において写真は、文章を説明するための図版ではない。過去に撮られた像と、現在から過去を振り返って書かれた言葉が同じ時間軸の上で交差することで、写真家の個人的な歴史を複数の視点から組み立て直していく。レンズを通して世界と向き合ってきたアクセルバルが、その実践を「書く」という行為へと拡張した作品でもある。
病と回復、ニューヨークと東京、過去の写真と現在の言葉。30年という時間を一つの直線的な自伝に閉じ込めるのではなく、異なる時代の像と言葉を行き来しながら、自らの生を再編集する『Art Rat』。200部限定の著者版として2026年7月に刊行された。
刊行を記念し、9月12日には渋谷のNONLECTURE books/artsでトークイベント「『Art Rat』ができるまで──写真と言葉で綴る30年の記憶」が開催される。アクセルバルと、本書のデザインを手がけたアガ・デ・ロス・サントスが登壇し、ARTnews JAPAN編集長の名古摩耶をモデレーターに、30年にわたる記憶を写真と言葉によって一冊の本へと編み上げた制作の背景を語る。
出版記念トーク「『Art Rat』ができるまで──写真と言葉で綴る30年の記憶」
日時:2026年9月12日(土)16:00〜17:00
会場:NONLECTURE books/arts(渋谷)
登壇者:ヨーガン・アクセルバル、アガ・デ・ロス・サントス
モデレーター:名古摩耶(ARTnews JAPAN)
参加費:1,000円+1ドリンク代
